表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土地神殺し ―比奈木村の百年祭―  作者: 霧原 澪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/24

第7話「祭りの初日、奥村正子は踊らなかった」

百年祭の初日は、晴れた。

午前中から神楽が始まり、昼すぎに奉納舞が行われた。境内の中央に輪ができ、村人が一人ずつ加わっていく。笛と太鼓が緩やかに鳴り響く中、白い衣装の咲が輪の中心に立っていた。


縁は石段の端で、それを見ていた。

輪の中に、いない人がいた。



奥村正子が輪の外に立っているのを、縁はすぐに見つけた。全員が加わる踊りのはずなのに、正子だけが少し離れた木の陰にいる。

縁は近づいた。


「体調が優れなくて」


正子は縁の顔を見て、先に言った。


「無理せず、見ていてください」

「見ているだけで十分です」


その目が、三倉巌の方を向いていなかった。村の最古老として三倉家の遠縁でもある正子が、巌のいる方向だけ視線を避ける。意識的に、静かに。

縁は輪の方を見た。笑顔が並んでいる。

正子が低い声で何かを言った。


「すみません」


縁は聞き取れなかった。


「今——」

「板の裏に、目を塞いだ」


縁は正子の横顔を見た。輪の方を見たまま、続きを待った。


「守さんは……」


そこで正子は止まった。口が少し動いたが、声にならなかった。


「守さんが、何か?」


正子は答えなかった。縁を見ていない。三倉巌のいる方向も見ていない。輪の中の踊りを見ているようで、見ていない目だった。

縁はしばらく隣に立っていた。正子はもう口を開かなかった。「板の裏に、目を塞いだ」——棟札のことか、それとも別の何かか。守さんは何をしようとしていたのか。正子はその先を知っていて、言えなかったのか、言わなかったのか。



祭りが終わると、縁の中に前夜からの感覚が戻ってきた。

高原のノートが減っていた。守が誰かと口論していた。正子の「罰が来る」という言葉。深夜の数え声。ばらばらな情報が、ただばらばらのままそこにある。


(前夜のノックを、また止めた)


縁は自分の行動を振り返った。直感に従った失敗と、直感を止めた失敗。どちらが積み上がっているのか、もう数えられない気がした。

日が暮れ、宿に戻った。窓際で祭りの記録をまとめ、メモを整理し、明日の動きを考えていた。


22時すぎ、ふと顔を上げた。

神社の方向に灯りが見える。境内の提灯ではなく——守が生前に使っていた、社務所の奥の部屋の窓だった。

昨夜から誰も使っていないはずの部屋に、確かに明かりがある。


縁は上着を手に取った。今度は、止めなかった。

ミステリにおける最大のヒントは、「何かが起きたこと」ではなく「何かが起きなかったこと」です。

正子の「板の裏に、目を塞いだ」という言葉。この意味がわかるのは、もう少し先です。


同時連載中の「AI僕」も毎日19時に更新しています。近未来SFとホラーミステリ、交互に読むと不思議な体験になると思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ