第19話「怨霊は、誰を守りたかったのか」
火災の翌日、物置の床に石造りの蓋があることが分かった。
早朝のことだった。
消防と警察の検証が続いていた。村人の多くはその対応に追われていた——三倉巌も例外ではなかった。消火活動の指揮を取り、警察の質問を受け、境内の外に出ることができない状態にあった。
その隙に、縁と蒼は物置の内部を確認した。
炎と消火の水で床板が腐食し、一部が剥がれていた。その下に、石が組まれた蓋があった。桐谷の図面と見比べると、位置が一致した。
高原が立ち会いを申し出た。縁は承諾した。蒼が蓋を引き上げた。
地下に空間があった。
人が一人入れる程度の広さ。天井は低く、しゃがまなければ動けない。縁はスマートフォンのライトで照らした。
古い供物が積まれていた。
干からびた花、水を入れていたと思われる小さな椀、木製の器。それらが何層にも重なっていた。最も古いものは土に近く、比較的新しいものが上にあった。
中心部に、布が置かれていた。
縁は近づいた。布の下に、人の骨があった。小さい。子供のものだった。
誰も何も言わなかった。
縁はしゃがんだまま、供物を確認した。
これは鎮め物ではない、と思った。鎮め物——怨霊を封じるための供物——には特定の配置がある。鬼の面、縄、塩。ここにあるのはそれではない。
花。水。食べ物の痕跡。おもちゃ——木の塊が一つ。廃屋で見たものと、同じ形だった。
誰かが、ここに来続けていた。何十年も。怨霊を鎮めるためではなく、子供の死を悼むために。
「これは——」
蒼の声が低かった。
「祀っているんじゃない。弔っている」
縁は立ち上がった。
(ひなは怒っていなかった)
村が「怨霊」と呼んだのは、罪を正当化するための名前だった。百年分の封印も、百年分の祭りも、村が犯した罪を「山の神の怒り」という形に変換するための儀式だった。実際にここに埋められていたのは、春の山に連れて行かれて帰れなかった、ひとりの子供だった。
(ひなは私と同じだ)
この言葉が自然に出てきた。よそ者として来て、あるものを見ようとして、村の中の何かに止められた。ひなは止められて戻れなかった。縁はまだここにいる。
蒼が縁を見ていた。縁は蒼の視線に気づいたが、何も言わなかった。
高原は地下から上がった後、しばらく黙っていた。それからノートに何かを書いた。縁は聞かなかった。
地下を閉じる前に、縁はもう一度中を見た。
弔いを続けていた誰かがいた。三倉家ではないだろう。正子か、正子の祖母か、それより前の誰かか。罪を隠す側にいながら、秘かに悼み続けた人間が、この村に一人はいた。
それだけは、確かだった。




