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土地神殺し ―比奈木村の百年祭―  作者: 霧原 澪


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17/24

第17話「村長は、夜に別の顔を持つ」

桐谷の図面を頭に入れたまま、縁は夜の神社に向かった。

地下空間の位置を現場で確認したかった。図面上の「封印場所・推定」が社殿のどの部分に当たるのか、実際に建物の外周を歩けば見当がつく。昼間は人目がある。夜の方が動きやすかった。


石段を上がり、境内に入ったところで足が止まった。


拝殿に明かりが点いている。



縁は石灯籠の陰に立った。拝殿の格子戸が、細く開いている。中から声がした。

低く、誰かに語りかけるような声——だが応じる声はない。

三倉巌だった。


「……もう、終わりにできないか」


聞き取れたのはそれだけだった。次の言葉は途切れた。しばらく間があって、また続いた。


「孝之は、関係ない。あれは俺が——」


風が境内の木を揺らした。残りは聞こえなかった。

縁は動かなかった。

聞いていた。ただ聞いていた。巌は誰に語りかけているのか——拝殿の奥の神体に向かって、あるいは守の死に向かって。「孝之は関係ない」という言葉が頭の中で反響した。


(誰かをかばっている)


しばらくして声が止んだ。明かりが消えた。縁は石段の下まで戻ってから、宿への道を歩いた。



翌朝、蒼から連絡が入った。


「昨夜、守さんが落ちた崖の付近で孝之さんを確認しました」


縁は電話を持ち直した。「見張っていてくれたんですか」


「先日、孝之さんの動向を確認してほしいと頼まれていたので」


縁はメモに書いた。昨夜、巌は「孝之は関係ない」と言った。同じ夜に孝之は崖付近にいた。


(証拠を消しに行ったのか——それとも、次の何かのために下見に行ったのか)


正午過ぎ、縁は神社の裏手を歩いた。昨夜の地下空間の確認を続けるためだ。倉庫の前を通った時、風が運んでくるものがあった。

かすかな焦げ臭い。雨ではなく、煙の残り香だった。


縁は倉庫の扉を確認した。錠前は閉まっている。だが周囲の土に、新しい踏み跡があった。


(何かを燃やした)


小さく、短時間。証拠になるものを、一部だけ処分した——そういう焦げ臭いだった。

縁はスマートフォンを出して写真を撮った。

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