第17話「村長は、夜に別の顔を持つ」
桐谷の図面を頭に入れたまま、縁は夜の神社に向かった。
地下空間の位置を現場で確認したかった。図面上の「封印場所・推定」が社殿のどの部分に当たるのか、実際に建物の外周を歩けば見当がつく。昼間は人目がある。夜の方が動きやすかった。
石段を上がり、境内に入ったところで足が止まった。
拝殿に明かりが点いている。
縁は石灯籠の陰に立った。拝殿の格子戸が、細く開いている。中から声がした。
低く、誰かに語りかけるような声——だが応じる声はない。
三倉巌だった。
「……もう、終わりにできないか」
聞き取れたのはそれだけだった。次の言葉は途切れた。しばらく間があって、また続いた。
「孝之は、関係ない。あれは俺が——」
風が境内の木を揺らした。残りは聞こえなかった。
縁は動かなかった。
聞いていた。ただ聞いていた。巌は誰に語りかけているのか——拝殿の奥の神体に向かって、あるいは守の死に向かって。「孝之は関係ない」という言葉が頭の中で反響した。
(誰かをかばっている)
しばらくして声が止んだ。明かりが消えた。縁は石段の下まで戻ってから、宿への道を歩いた。
翌朝、蒼から連絡が入った。
「昨夜、守さんが落ちた崖の付近で孝之さんを確認しました」
縁は電話を持ち直した。「見張っていてくれたんですか」
「先日、孝之さんの動向を確認してほしいと頼まれていたので」
縁はメモに書いた。昨夜、巌は「孝之は関係ない」と言った。同じ夜に孝之は崖付近にいた。
(証拠を消しに行ったのか——それとも、次の何かのために下見に行ったのか)
正午過ぎ、縁は神社の裏手を歩いた。昨夜の地下空間の確認を続けるためだ。倉庫の前を通った時、風が運んでくるものがあった。
かすかな焦げ臭い。雨ではなく、煙の残り香だった。
縁は倉庫の扉を確認した。錠前は閉まっている。だが周囲の土に、新しい踏み跡があった。
(何かを燃やした)
小さく、短時間。証拠になるものを、一部だけ処分した——そういう焦げ臭いだった。
縁はスマートフォンを出して写真を撮った。




