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土地神殺し ―比奈木村の百年祭―  作者: 霧原 澪


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15/24

第15話「老女は、百年分の罪を知っていた」

百年祭が終わった翌日、縁は奥村正子の家を訪ねた。

今度は、迎えに出てきた。引き戸を開けて待っていたように縁を見た。


「来ると思っていた」


縁は中に入れてもらった。



茶が出た。正子は座布団の上で正座し、縁を見た。祭りの夜に泣いていた老女と、輪の外に立っていた老女と、同じ目だった。


「百年前のことを話します」


縁はメモを出そうとして、止めた。正子の目に何かあった——記録されることへの警戒ではなく、記録する前に聞けという目だった。

手帳を膝に置いたままにした。


「よそから、女が来ました。子連れで。森田という名前でした。母親は体を壊していて、冬を越せるかどうかという状態で。娘が一人いた。ひな、という名前の」


縁は黙って聞いた。


「村は——受け入れなかった」


正子は言葉を選んだ。「受け入れなかった、というより。使った、という方が正しいかもしれない。冬の農作業、薪割り、水汲み。体の悪い母親の代わりに、子供が働いた」

「ひなが」


「ひなが」


正子は繰り返した。


「七つか、八つだったと聞いています。私はその頃まだ生まれていない。祖母から聞いた話です」



母親は春を迎えられなかった。雪解けの前に死んだ。


「娘が残った。村には戸籍も縁もない子供が残った」


正子は少し黙った。


「その春——ひなは、山に連れて行かれました」

「誰に」

「三倉家の先祖です」


正子は目を伏せなかった。


「それだけは確かです。なぜそうなったかは——私にはわかりません。祖母も、そこだけは話してくれなかった。ただ、帰ってこなかった」


縁は手帳を見た。ページが白いままだった。


(帰ってこなかった)


その文字が、しばらく頭の中に残った。理由もわからないまま山に連れて行かれ、帰ってこなかった子供。それが百年祭の——封印の——起点だとしたら。



「守さんは——この話を知っていたんですか」


縁は聞いた。


「知っていた。棟札の下に塗りつぶされた名前があることに気づいて、調べ始めた。私のところにも来ました。去年の秋に」

「話したんですか」


正子は少し間を置いた。


「半分だけ。全部は話せなかった。怖くて」

「怖かった」


縁は繰り返した。

「三倉さんが今もこの村を仕切っている。守さんが調べていることを巌さんが知ったら——」


正子は茶碗を両手で持った。


「守らなかったのは、私たちも同じです。百年前と変わらない。ひなのことも、守さんのことも、守れなかった」


縁は正子を見た。

八十年生きた目が、罪人の目をしていた。


「もう一つだけ聞かせてください。百年前のことを、今も知っている人間が他にいますか」

「村の中には——もう、私だけだと思います」


正子は顔を上げた。


「ただ、村の外から来た人間で、三年ほど前に調べていた方がいました。若い男の人で、ずいぶん詳しかった。神社の地下のことまで知っていた」


縁の手が止まった。


「その方は——」


正子は少し迷った。


「何かを残していったと思います。神社の裏の倉庫に」

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