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土地神殺し ―比奈木村の百年祭―  作者: 霧原 澪


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第11話「ひなは、何歳で捨てられたか」

廃屋は集落からさらに山道を十分ほど入った場所にあった。

木が倒れかかり、屋根の一部がすでに落ちている。入口の引き戸は開いたままで、動かない。蒼が先に入った。縁がライトをかざして続く。

内部は三間ほどの小さな家だった。土間に朽ちかけた農具、板間に積もった落ち葉。奥の部屋に布団の残骸。


「誰かが住んでいた形跡はありますか」

「わかりません」


蒼は壁を確認している。


「村の人も、ここには来ないと思います」


縁は床を確認した。踏み固められた形跡はあるが、いつのものかわからない。

奥の部屋の押し入れを開けると——布に包まれた何かがあった。

布は脆くなっていた。ほどくと、中から女物の着物の切れ端と、小さな木製のおもちゃが出てきた。子供の手に合う大きさの、丸みを帯びた木の塊。

縁はそれを持ったまま、部屋を見渡した。



壁の低い位置に、何かが彫られていた。

ライトを当てる。字だった。幼い、ぎこちない筆跡で——


「ひな」


それだけだった。一文字ずつ、時間をかけて彫ったような深さで。

縁はしゃがみ込んで、その文字を見た。


(彼女はここにいた。生きていた。名前があった。誰かに教わったその字で、壁に自分の名前を彫った)


何も言えなかった。言葉を探したが、見つからなかった。

蒼もそばにいた。縁の隣で膝をついて、同じ文字を見ていた。

しばらく、二人は動かなかった。



廃屋を出て、縁は地面に目を落とした。

草の間に、轍の跡があった。タイヤの幅から推測すると、普通乗用車。深さがある——最近のものだった。


「蒼さん」


蒼が振り返った。縁は轍を指した。蒼の顔が変わった。


「最近ですね」

「雨が降ったのが三日前です。それより後についた跡です」


縁は周囲を見た。山道、木立、廃屋の入口。轍は廃屋の前でUターンした跡があった。入って、止まって、出た。


(高原は軽自動車だ。宿の駐車場に停まっているのを何度か見ている。この轍の幅は、高原の車ではない)


では誰か。

村の人間なら軽トラが多い。この幅はそれより広い。村の外から来た別の人間——あるいは、高原が別の車を使ったか。


(誰かが来ていた。この場所を知っていて、来ていた)


「この場所、誰かに話しましたか」

「誰にも」


縁はメモに書いた。廃屋の位置、轍の状態、日付。それから顔を上げた。

山道の先は、村の方向だった。木立の向こうに、比奈木の集落が見える。


(監視されているのかもしれない。調査の進捗を、誰かが追っている)


蒼が縁を見ていた。縁は何も言わず、来た道を戻り始めた。

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