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お祭り騒ぎ

翌朝私は、隊の若い者を北領地へ走らせた。

北領地へナンブ・リュウゾウ婚約決定の一報を知らせるためだ。

そして伯爵さま御一行を男爵さま邸宅から見送り、親衛隊も北領へと帰還する。


東領地のヤクザ者どもをたたっ斬るだけの簡単なお仕事であったのだが、思いがけず濃い内容の数日間となってしまった。

帰路、やはりナンブ・リュウゾウは足取りが軽い。

あんな血まみれ御曹司であっても、やはり婚約というのは嬉しいのであろう。


しかもこの男にはあまりにも相応しくない美貌の持ち主だ。

というか、タヌキであることを除けば可憐なお嬢さんである。

人一倍精力の強いあの男からすれば、まさに金星だと言える。


「婚姻は三年後か……どれほど乳や尻が育っておろうな……」


そこにしか興味が無いのかよ。

などと思うなかれ。

この世界、この時代、そしてナンブ・リュウゾウは貴族の子。

世継ぎなどと大きなことは言わないが、跡取りを作ることは大切な『仕事』なのだ。


それならば、なるほど「抱きたくなるような女」がいい。

性的に訴えかけてくるような身体が望ましい。

思わず「もう一丁」と言ってしまうような女がいい。


読者諸兄の時代、世界でもいまだ残っている考え方かもしれないが、地位や身分が高くなればなるほど、「女」は「子を産む道具」になってしまうのである。

わたくしめは……などと名乗るような身分であればあるほど、その傾向は強い。

だからほどほどに、私やクサナギ先生。

あるいはシロガネ・カグヤのような身分くらいが丁度いいのである。


貴族どもに搾取されている、などと斜に構えた考え方をするのではなく、日々額に汗して働き、三度三度の食事を美味しくいただく。

なにが言いたいかというと、貴族には貴族の苦労があるものだから、あまり羨ましがることではないということだ。


「ヤハラどの、君もそろそろ嫁を持ってはみないか?」


ナンブ・リュウゾウは唐突に言った。


「私ですか? 私はまだ、そういう考えには至っておりませんなぁ……」


「毎日の仕事が充実しているのかね?」


「そうですなぁ、おかげさまで良く働かせていただいております」


「ならば余計だ。仕事を終えてからの生活も充実させたまえ」


「しかし女との縁がござりませぬ」


「イイ女なら、となりで歩いておろう」


私のとなりに、いつの間にかシロガネ・カグヤがいた。


「殿と同じく、守るべき貴人にございますので」


シロガネ・カグヤは仏頂面で言った。

シロガネ・カグヤは美形である。

そしてナンブ・リュウゾウの情けを受けるほどにイイ女だ。


「ひとつだけ問題があるとすれば、殿」


「なにかな?」


「ひとつ屋根の下に有能な者が二人居ると、災いしかもたらしませぬ」


「それもそうか……俺も頭の悪い女には縁が無いからなぁ……」


「ヤハラどの、そういった女子おなごなら、少々心当たりが……」


シロガネ・カグヤは言う。


「合ってみますか?」


「カグヤさんほどの美形ならね」


「それは難しい」


親衛隊長は、珍しく冗談を言って、片頬でだけ笑った。

そして北領地に到着する。

もう日暮れだ。


しかし何故か領内の大通りがにぎわっている。

通りにびっしりと、屋台が並んでいるのだ。

まるで祭りの出店である。


よく見ると幟が立てられていて、「リュウゾウさまの御婚約をお祝い申し上げます」などと染められていた。

まあ、それはいい。

問題は出店の方だ。


キョウカ焼きにキョウカ饅頭、キョウカ・サブレなどと、想像のキョウカさまを形どった焼き菓子が売られているのである。

それだけではない。

キョウカ鍋に清酒「キョウカ」などと、これのどこがイズモ・キョウカなのかという商品まで便乗で売り出されているのだ。


「いかがなさいますか、殿」


伯爵令嬢を焼き菓子にして食らうなど、ある意味言語道断な所業なのだが。

場合によっては婚姻解消両家断絶の行為にもなりかねない。


「まあ、庶民が喜んでくれているのだ。キョウカどのには俺から文で謝っておくさ」


「殿、その文の内容。このヤハラが検分いたしますので」


「なんだ? 俺が乳を育てろとか尻を育てておけとか書くとおもってるのか?」


「思ってなければ検分などいたしませぬ」


少しだけ、ナンブ・リュウゾウは不満そうな顔をした。


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