これからの方針
ナンブ・リュウゾウ邸宅兼北領支所に到着し、まずは出張部隊の解散式。
親衛隊は当直の者を残して街へと繰り出してゆく。
私とナンブ・リュウゾウは執務室へ入る。
出張中に溜まった書類に、とりあえず目を通しておかなくてはならない。
留守中、北領地に特別な問題はなかったようだ。すべてそれぞれの部署でこれこれこのように処理をした、という報告書がほとんどであった。
「さて殿」
私は書類を綴りながら切り出した。
「民はこの度、殿の御婚約を祝して散財をしています」
「うむ、ありがたいことだな」
「減税をかけるのは、今この時かと……」
「なるほどな、儲けた者がかなりいる。減税をしても歳入の減少は抑えられる、ということか」
「ナンブ・リュウゾウ、民からの祝福の返礼として、わずかばかりだが減少を宣言させてもらう、とでも演説していただければ、民も喜ぶかと」
「それもそうだが、ヤハラどの。オヤジの中央領地を通らぬ、直通の道路を伯爵領地まで拓けば、また面白いと思わないかね?」
「費用が嵩みますなぁ……」
「なに、そこは二人のオヤジにも出してもらうさ」
「二人のオヤジ?」
ナンブ卿と、もう一人は……。
あっと声を出した。
そうだ、ナンブ・リュウゾウにはもう、強力な後援者がついているのだ。
イズモ卿である。
北領が栄えればそれはすなわちナンブ家の利益となる。
そしてイズモ領地への行き来が容易になれば、イズモ家も利益が出る。
「その辺りの試算と予算の見積もりを、ひとつ頼まれて欲しい」
婚約者のケツのことばかり考えているボンクラと思えば、こんな大きな利益のことも考えている。
そこがナンブ・リュウゾウの恐ろしいところだ。
「ではまず、キョウカどのに謝辞の文を書かんとな」
「殿、それは私が検分しますので、そのお積もりで……」
「チッ……」
「二人のオヤジどのに対する文は検分致しませぬ。存分に思いの丈を述べてくだされ」
「いやらしいなぁ、ヤハラどの」
「いやらしくなければ殿のお守りは務まりませぬ」
ということで、貴族は働く。
私も働く。
遊んで暮らすなどということを夢見るならば、「遊び人(笑)」でも目指すがいい。
そうでなければ妄想垂れ流しの戯作でも読んで喜んでいろ。
いかなる身分であろうとも、仕事はしなければならないのだ。
遊び呆けている親衛隊士たちも、命懸けを越えたからこそ遊ぶことを許されているのだ。
命懸けだから面白ぇ。
そんなことをナンブ・リュウゾウは言ったであろうか?
しかし、それは真実だ。
軍師がこのようなことを言ってはいけないのだが、ここまでナンブ・リュウゾウと一緒に「命懸け」を経験して、面白かった、楽しかったのは事実だ。
僭越ながら私もまた、命懸けの一員に混ざらせていただく。
そしてともに働いてきたことを自負させていただく。
その上で言わせてもらおう。
いかなる者も働かねばならないのだ。
ということで、イズモ領地への直通路を試算した。
その上でナンブ・リュウゾウにほのめかす。
「殿、予算はどれほどなれば印をつきますかな?」
「それはヤハラどの、かなり吹っかけられていると考えてよろしいのかな?」
「いきますよ、かなり……」
もちろん事前に調査をして、効率よく着工すれば予算は節約できる。
だがそんなことは教えてやらない。
オヤジどのたちに吹っかける借金は多ければ多いほどいい。
「で、それを取り返す試算はどれほどのものだろうか?」
「商い次第ですな」
「キョウカどのに相談するか……」
「なにを仰いますか、殿! 男が女御に相談など、ナンブが乗っ取られますぞ!」
「ダメかね?」
「申し訳ありませんが殿! 私はいまだにあのイズモ・キョウカを信用しておりません!」




