御唱和下さい我の名を!
そして深夜、私たち野郎どもというか野獣の群れは伯爵父娘から離れた部屋に集められていた。
婚約が済んだばかり。
ナンブ・リュウゾウが「古来よりの慣習に従い、夜這に行く!」とかホザきだしたからだ。
もちろんそういった習慣はナンブ領にある。
男と女、せっかく好き合って結ばれても、ナニとアレの相性がよろしくなければ子宝に恵まれぬ。
という根拠に基づき、婚前交渉をする習わしが存在するのだ。
しかしそれも庶民の話。
村祭りとか節句には若い者どもが寄り集まって、総員合意の上で飲んで歌って踊って触ってと、乱れて淫らな宴会が行われるのである。
そうして良い仲になった者同士で世帯を持ち、男は稼いで女は家を守り、やや子を授かり育てるものなのだ。
しかしナンブ・リュウゾウは貴族の子である。
そのような遊びや試しなどはできず、家臣同然のシロガネ・カグヤに筆おろしを頼んだのである。
ではカグヤと大将は結ばれないのか?
結論から言うと結ばれない。
シロガネ・カグヤは農民の娘だ。
剣が達者で免許皆伝の腕前を持ち、ナンブ家に召し抱えられているため、武家として扱われるが、正しい身分は農民である。
これでは結ばれるに、身分が違いすぎる。
ちなみに私、ヒロ・ヤハラも正しくは農民の小倅だ。
幸いにして豪農の家に生まれ育ち、よく学びよく励んだ結果、学業優秀ということでナンブ家に召し抱えられたものである。
シロガネ・カグヤとまったく同じなのである。
身分の保証は、ナンブ家無くして成立しないのだ。
で、件のナンブ・リュウゾウ。
イズモ・キョウカのところへ婚前交渉《SUKEBE》しにいくと宣言したところ、お館さまからゲンコツをいただき、私どもと一緒に盃を酌み交わしているところである。
「ときに殿、イズモの御令嬢を如何に見ますか?」
酒の席だ、私は訊いてみた。
うむ、とナンブ・リュウゾウは口元を引き締める。
「可憐であったな……」
シロガネ・カグヤが、となりでウンウンとうなずく。
「少し華奢かもしれんな。もそっと尻や乳が育っても良いかもしれん」
反対側のとなりで、クサナギ先生もウンウンとうなずいた。
「それだけですか?」
「ヤハラどの、他に何かあるのかね?」
「人を騙す狐狸の類いとか……」
「ヤハラくん、この世界において女は力無き者、弱い生き物である。……ならば知恵を絞って醜くもあざとくも、生き延びなければならないのだ。そのくらい許してやろうじゃないか」
戦さや合戦といったツワモノ相手ならば抜群に知恵の働くナンブ・リュウゾウなのだが、どうしてこう弱い者、力無き者には赤子同然の無防備さなのだろうか?
もちろんこの男に驕りや慢心は無い。
しかしあまりにも隙だらけなのだ。
クサナギ先生は快活に笑う。
「ヤハラくん、古来英雄と呼ばれる者はこういうものだよ。そんなんだから、君が側にいてやってくれ」
「はぁ……」
乗り気の無い私の返事を契機に、話題がベロッと変わった。
「キョウカさんというならば、いささか肉に乏しいとは思わんかな、ヤハラどの?」
「確かに、殿やクサナギ先生も懸念する通り、華奢に過ぎるといえば過ぎるかと。あれでは立派なやや子を授かれるかどうか……」
「いやいや、そこまで先の話ではない。なんというかこう……カグヤのように、ミッチリと包み込んでくれるような、密着してくるような……そのような肉が足りていないのではないかとな」
猥談かよ。
っつーか、何の心配してんだよ、オメー。
「いや、俺のコテツで寸足らずとあらば、これはお家の一大事である。よってヤハラどの、心して返答くだされ」
ウルセーよ馬鹿。
ンなもん月夜の晩に濡れタオル絞って叩いて鍛えろよ。
「女の身として答えるのでしたら」
カグヤ隊長が大マジメな顔で挙手。
「キョウカさまは小柄な方、恐らくは広さよりも深さが懸念されるかと。案外奥行きが無さそうに思われます」
マジメな顔してナニ言ってんのさ、アンタ!
「だが大将、相手は貴族の御令嬢だぜ」
農民面の隊士も発言する。
「大将の二寸竿でも事足りるように、女学問は心得てるだろうよ」
つまり子作りの心得はあるだろう、ということだ。
「そうさなぁ、学園じゃ引く手あまたみたいなことを述べていたから、そちらの修業も心得ていようなぁ」
「それによ、大将。忍びのねーちゃんが、今は居ねぇだろ?」
「フムフム?」
「今頃大将のスンタラズと、お嬢さまの持ち物が見合うかどうか? 向こうの忍びと協議してるかもしれねぇぜ」
すると部屋の中に、イズミが現れた。
「殿、吉報にござる!」
アホな猥談の最中と知っているのだろう。
仰々しい口調だ。
そして目が笑っている。
「どうしたイズミ、早う申せ」
「は、キョウカさまにおかれましては、生まれつきにて殿の粗品と相性がよろしいようで」
「でかしたイズミ! して、あちらの忍びから聞いたのか?」
「いえ……」
忍者は口ごもった。
そして一言。
「ごちそうさま……ケプッ」
いらねー確認してんじゃねーよ、つーか手ぇ早ぇえなーこの忍者!
しかしこれでお家は安泰だ。
子宝バッチリ間違い無しである。
ここはシメで、お手を拝借だろう。
ナンブ・リュウゾウは音頭をとるため立ち上がった。
「それではみなさま、御唱和ください、我の名を!」
「ふざけるな、ばかやろー!」
クサナギ先生の見立て通り、やっぱりこの男には私がついていないとダメなようだ。
ヤレヤレ……。
今回のサブタイトルならびにオチは実在する友人出雲鏡花のリクエストによるものです。




