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AI箱舟と王国の姫~with 喋る動物たち~  作者: 真冬 耕歌
二十、オスカーとマルガリータ
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二十、オスカーとマルガリータ②

ライアンはサムを抱いたまま地面の窪みから顔を出してじっと状況を観察した。今自分たちは箱舟と共に西の王国の領地内にいるが、すぐ横は国境である。腕の中には瀕死のサムがいて、怪我をした女の子もいる。横には若いレオとライリーがいてこちらは無傷だ。西の国の軍がまっすぐ箱舟に向かってくるのが見える。隊列も何もない無茶苦茶な進軍で、その先頭にマルガリータがいる事には驚愕した。彼女が恐らく軍を引っ張っているのだろうが、あの動きは箱舟を刺激して危険だ。何を目的に突っ込んでくるのか分からないが、このままでは箱舟に撃たれるのは間違いない。マルガリータか箱舟のどちらかを止めるために動かなければならない。


一方、東に目を向けると王国の軍勢が隊列を整えて陣形を展開している。薄く広く布陣しており、箱舟の攻撃があっても全滅しないようにしている。こちらの動きは西の軍に比べれば、箱舟を刺激することは無さそうだ。しかも先頭にいるのは王国の宰相オスカーのようだ。彼なら安易に動かないだろう。彼は、オスカーは信頼できる。


私は抱いていたサムを慎重にライリーに託す。


「ライリー、この子をお願いしていいかな?我々はここにいると危ない。私が先に行って安全が確認出来たら向こうから合図を送るから、それが見えたら、この子を連れてきておくれ」


「あ、はい…、それで王様はどうなさるのですか?」


そうライリーが問いかけるのとほぼ同時に、私は立ち上がると真っすぐに箱舟に向かって全力で駆けだした。


ライリーとレオはぎょっとして大声を上げた。


「どこに行くんですか!」


私は一瞬振り返って、にこりと笑って親指を立てるが、正面を向いた私の顔には死を覚悟した悲壮感があふれているのだろう。私は学者ではないが科学は好きであった。はるか昔、先生から教えてもらった箱舟の主砲の構造は今でもはっきりと覚えている。あの主砲には欠陥がある。主砲の機能を無効化し、グランデレ達を救出し、王国に謝罪しよう。そう思いながら走った。


(最後まで生きていれば、の話だがな…)


太ったライアンの体から迷彩用に刺した木の枝がポロポロと落ちていく。恐怖で足がもつれる。怖い。本当に怖い。死にたくない。でもやらなければ。ああ、私は本当は、科学者になりたかった…。でも、科学が好きでよかった。今の私は、ここにいる誰よりも箱舟の主砲を正確に理解しているのだ。



箱舟の中で、マックスの指がゆっくりと腰の銃を掴んだ。掴むと同時に跳ね起きるとイーサンに向かって銃を構える。不意を突かれ、その場にいた全員がひとかたまりになる。


「パネルから離れろ。どのみち壊れた脳だがソフィア王妃の人工知能はまだ使い道がある。勝手に消すなよ」


ノアが驚いて答える。


「何を馬鹿な事を!もうやめろ。お前の作戦は失敗だ。周りは軍だらけだ。いつまでも持たないぞ」


「うるさい!」


マックスが顔を紅潮させて怒鳴る。構える銃は今度は乙姫に向けられた。


「いいよな、お前は…。みなが助けてくれて。幸せだろ、ああ?お前に何もかも失くした人間の気持ちがわかるか?」


距離にして4,5メートル。軍人ならまず外さない距離で銃を向けられた乙姫は、しかし平然と答える。


「分からないわね。あんたみたいなボンボンの甘ったれた気持ちなんて、死んでも分からないわ。何?同情して欲しいの?私がここで殺される前に、あなたがなんで失敗したか教えてあげるわよ。

あなたはね、人の事を理解しようとしなかったのよ。ライリーから話は聞いたわ。マックス、あなた無人島で貴族になるつもりなの?違うでしょ?人が沢山いる国の中で貴族になって、お金持ちになって、それでその先一体どうするつもりなの?」


「貴族に、貴族に復帰するんだ…」


「だから貴族になったその先を聞いてるのよ!」


マックスが乙姫を睨みつけたまま黙り込む。


「あなたの目標にはね、中身がないの。達成したらそれで終わり。だから手段を選ぶ必要が無いのよ。その先が無いんだもの。誰かが死のうが平気。普通はね、ちゃんとした階段を上がっていこうとするものなの。なんでかわかる?その先を考えたら、まともな方法で階段を上がっていかないと誰もついてきてくれないからよ!」


乙姫がマックスを見据える。


「私はね、あなたみたいな銃だけ振り回す頭空っぽ男なんて何も怖くない。どうせすぐ消えてなくなるもの。今度こそ跡形もなくあなたの一族は消えるわ。それが嫌なら今ここで考えなさいよ。

お金を持って、それで何をするつもりなのよ?」


「家族を呼び戻して、そして、みなで暮らす。みなの笑顔を取り戻すんだ。それの何が悪い?」


「人を殺して得た金で家族が喜ぶわけないでしょ!よく考えなさいよ!あなた今頃西の国で有名人よ?悪い方のね!」


「うるさい!」


「貴族でなければいけないんだ、偉くなければいけないんだ、うちはお金持ちでなければいけないんだ。そんな偏った感覚に縛られると、人間は手段を間違えるの。いい?『本来手段にしてはいけないものを手段にしても、それに気が付かないまま突っ走っちゃう』のよ。マックス、あなたは間違っているのよ」


ふーと乙姫がため息をつく。


「ライリーの事…どうするつもりなの?彼女の人生もあなたが壊したのよ?」


「彼女は関係ない!」


「ないわけないでしょ!馬鹿!」


乙姫がマックスを睨みつける。


「女性はね、見て欲しいから頑張るの。そういう女性って素敵じゃないの。可愛いと思わない?私が男なら嬉しいわよ。でもあなたは何も見えていない。最初の一歩目が違うんですものね。片っ端から周りの人間をぶっ壊して、自分はかわいそうだ不幸だと大騒ぎして…」


乙姫が大きく息を吸い込んで叫ぶ。


「ライリーに謝れ!この馬鹿!」


マックスがわなわなと体を震わせ、表情が歪む。


「お前も、ライリーも、みなそうだ…。誰も分かってくれない…。こんなに周りの為にやっているのに…誰も…」


「まだそんな事を言っているの?本物の馬鹿なのか!」


そう言うと履いていた靴を両方脱いで、マックスに思いっきり投げつける。


「このわからずや!」


靴の一つがマックスの目を直撃して、マックスが顔を押さえてうずくまると、そのままマックスはめそめそと泣き始めた。


「うまく行きそうだったのに…もう少しだったのに…。全部お前たちのせいだ!こうなったら全部ぶっ壊してやる。箱舟も、お前達も!」


マックスが絶叫と共に乙姫に向かって発砲した。



その頃ライアンは巧みに岩場を潜り抜けながら手頃な岩を拾いつつ、箱舟にとりついた。入り口近くの隠しスイッチを押すと、箱舟の壁面にカタンカタンと音がして、簡易的な足場がせり出してきた。設計図通りだ。これで上の主砲の所まで登っていける。


ライアンは運動神経はさほどいい方ではない。よっこらしょどっこいしょと言いながら、箱舟の上に上がった。 足場が出ている時にはサイドに展開する機関銃も作動しないというのも設計図通りだ。箱舟は隠しスイッチを押すと自動的に動きが緩慢になる。

“味方”が屋根の上に居るという想定がなされるためだ。ライアンはポケットから先程拾った岩を取り出すと、八つの目の一つを思いっ切り殴りつけた。3回ほど岩で殴ると目にひびが入って、青い光が消えて、黒くなった。設計図では一つ潰せば大丈夫なはずだ。


ライアンは振り返るとライリー達に合図を送った。

ライリー達は戸惑いながらもサムと少女を抱きかかえて箱舟に向かって走ってくる。今や箱舟はほぼ停止し、カクンカクンと小さな音を立てながら、主砲が動くのみである。


「こっちだ!」


そう言いながらライアンは足場を伝って降りてくる。ライアンが地面に降り立つのと、ライリーが箱舟にとりついたのはほぼ同時であった。


「今度は一体何をなさるんですか?」


ライリーの問いかけには答えず、ライアンはドアを思いっ切り蹴りつけた。


「グランデレ!開けてくれ!私だ、ライアンだ!」


暫くして、ドアが開いた。開けてくれたのはグランデレだった。


「ライアン王!」


グランデレがそう叫ぶと中にいる人間が一斉に驚いた顔をした。

二番目のドアも開いていて、ライアンからも中の様子が見えた。そして、床には血まみれのノア王子が横たわっていた。ライアンの表情が固まる。


「ノア…なのか?」


誰も答えない。ライアンがコントロールパネルの横に立っているイーサンに声をかける。


「そこに立っているという事は君は箱舟の技師か?」


「そうです」


そうイーサンが答える。


「良かった。今から指示を出す。その通りやってくれ。

緊急モードをαからβに移行。解除コードA-02-21-44-89。移行コードはH-07-22-65-89だ。急いでくれ」


誰もが唖然としながらライアンを見つめる。

床には縛り付けられてマックスが転がっている。ライアンがそれをまたいでいく。一瞬マックスを見たが、何も言わない。振り返ってライリー達ににっこり笑って手招きをする。


「早くこちらへおいで」


言い終わるのを待ちきれずライリー達がなだれ込んできた。それを見たマックスが声を上げる。


「ライリー…え?サム!どうしてここに?」


ライリーが答える。


「箱舟に撃たれたの。ごめんなさい」


「とにかく中に!」


乙姫が駆け寄ってサムを抱きかかえて中に引き入れようとするが、まだ若いと言っても小さな子供というわけではない。そこそこ大きいサムをレオやライアンも手伝ってやっとパネルの前に横たえた。


乙姫達が脈を取るなどして、容態を見る。

室内は瀕死の若者達でごった返し、さながら野戦病院のようだ。


イーサンが一瞬あっけにとられるがすぐに指示通りに動く。室内に点滅していた赤いランプが消えて、目の前の画面にソフィアが映しだされた。


「あら、ライアン来てくれたのね…」


「ええ、お久しぶりです。先程いらっしゃらなかったのはモードが切り変わっていなかったんですね」


「ええ、そうなの。もう何年も前からこんな感じで不安定なのよ。自分で直そうとしたんだけど、メインのプログラムが言う事を聞かなくて…」


「そんなに長く…とりあえず主砲を止めました。モードβで動かせますよ」


「良かった…。ありがとうライアン」


「ソフィア様、この子たちをお願いできますか?」


ライアンがそう言うと、ソフィアがにっこりと笑った。


「ええ、もちろん。さあ、みんなノア達から離れて」


そう言ったかと思うと室内のあらゆるところから大小様々なロボットアームが出てきた。あまりの数に皆離れる。総数30本程だろうか。それらがノアとサムの体を包み込むと一斉に様々な光や音を出した。


それはまるで何かの儀式のようだった。二人の体の傷が少しずつ塞がっていく。 箱舟が怪我人二人を治療しているのだった。

画面上のソフィアが先程サムが助けた女の子に声をかける。


「そちらの女の子は命に別状はないようだから、申し訳ないけど後回しにするわよ」


グランデレが驚いてライアンに尋ねる。


「これは一体?」


「これこそが箱舟だよ。こちらが本当の箱舟の機能だ。箱舟は本来医療用にうちの国の学者が開発したものだった。ところがそのエネルギーが兵器として使える事が判明し、兵器へと改造された」


ライアンがグランデレを見上げる。


「そちらの王様の要望でね」


乙姫が目を見張る。


「政治的な力関係というのはちょっとしたことで簡単に変わる。それまで医療目的で箱舟を開発してきた学者たちは追い払われて、軍事目的の開発に賛同する学者が国内で大きな顔をするようになった」


「そんな事があったのか…」


「知らなくて当然だ。西の国の中での話だからね。だが…」


ライアンが乙姫の方を向く。


「しかし、追いやられていった学者達も黙っていなかった。箱舟が戦いを放棄し、元の姿に戻れるよう、細工をしたんだよ」


「細工?」


ライアンは寂しそうに笑って乙姫の方を見る。


「女の子の優しさに賭けたんだ。大人は…卑怯だよね…」



その頃箱舟の外では、両軍が箱舟に集結しつつあった。マルガリータの率いる軍は陣形が取れておらず、ただ単に箱舟に向かって突進しているので、オスカーから見れば西の軍の意図を計りかねる動きだった。しかし、その絶叫はオスカー達にも届く程で、何かとてつもなく急いでいる。様々な可能性を考える中で、オスカーに一つの杞憂(きゆう)が浮かび上がる。


(西の国は王国軍ではなく、箱舟を破壊しようとしているのではないか?)


マルガリータは箱舟の中にグランデレ、乙姫が閉じ込められている事を知らない可能性がある。西の領地に取り込まれた箱舟が立て続けに王国に発砲し、王城は半壊状態となっているという事実は、客観的に見れば西の意思だと王国に捉えられかねない。王国と本格的な戦闘状態に入る前に西の手で箱舟を沈黙させて、この攻撃が西の意図したものではないとアピールしなければ本格的な戦争が始まり、そしておそらく西の国はあっという間に負ける。西がそれを避けたいのは分かるが…。

そこまで考えて、オスカーはマルガリータを双眼鏡越しに見る。 あんな装備で箱舟とまともに戦えるわけがない。


(何を考えているのだ…?)


マルガリータは若い頃は改革派と懇意になり、随分と親を心配させていたが、王妃となってからはライアンの影響ですっかり温和になったと聞いてはいたのだが…。

しかし、こうも思う。

(なぜ箱舟は急接近する西の国の軍を全く攻撃しないのだ?あれでは仲間だと思われても仕方がない。しかし、箱舟はそんな風に見方をころころ変えるように作られてはいない…。ならばあの短時間に誰かが箱舟に何か手を加えたのか?)


いくら考えても仕方がない。そうこうするうちにマルガリータ達はもう箱舟の近くまで接近している。


(やむを得まい…)


オスカーは手を挙げて指示を出す。


「全軍、箱舟に向かって前進!箱舟内にいる王たちを救出し、同時に西の軍を鎮圧せよ!」


その声と同時に王国軍が一斉に動き出した。慎重に動きたいオスカーの意図に反して、王国軍の兵は総じて戦闘に前向きであった。城を破壊され、国境を越えられ、王と姫を奪われた。相手を殺す理由は十分すぎるほど揃っていた。

その時、前進を開始したオスカーの視界に、軌道を走り箱舟に急接近する装甲列車が唐突に入ってきた。


オスカーの横にいた兵がオスカーに無線機をよこす。


「装甲列車から無線です。ヒューゴ科学院長官からです」


オスカーは兵から無線機をひったくると怒鳴る。


「ヒューゴ!何をする気だ!」


無線の向こうでヒューゴの声がする。


「私が箱舟に乗り込む!」


「待て!西の兵が箱舟に向かっている!」


「待てはこちらのセリフだぞ、オスカー。今行けば戦闘は避けられんぞ。お前それでもこの国の柱か、馬鹿者!ワシが行くからそこで見ておけ!」


それだけ叫ぶと無線は一方的に切られてしまった。

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