八十七告目 上屋瑠守 12
琉生を瑠守に変更。
事件は校長をはじめ教師たちの知るところとなった。夏休み中だったこともあり生徒には秘匿された。双方の親と学校関係者で毎晩のように話し合いが重ねられたが、それは当事者である上屋瑠守と沢村望実を慮ってのものではなかった。
教師と生徒の色恋沙汰というだけでなく恐喝による関係の強要、その果ての殺人未遂、どれかひとつ取っても安穏な日常を吹き飛ばす爆弾となり得る。それだけでなく推薦者への妨害工作が大学に知れたときには、樋ノ杜高校は今後一切推薦を貰えなくなるという事態も容易に想像がつく。
その結果導き出された結論は全てが玉虫色だった。上屋瑠守は推薦を受けて大学を目指すことになった。二人の関係は教師と生徒としての節度を保って継続するものとし、結婚については上屋瑠守の成人を待ってと棚上げされた。人の目があるため当然校内での密会、校外での接触などは許されない。
当初上屋瑠守は「洗いざらいぶちまけてやる、佐島の選手生命を奪った沢村望実を絶対に許さない!」と言っていたが、家に軟禁され校長や監督に「学校を助けてくれ」と頭を下げられ、親や兄に「表沙汰にして俺たちも殺す気なのか」と詰め寄られれば諦めて従う他はなかった。その代わりに「野球で食っていけるようになったら好きにさせてもらう」という条件をつけた。
上屋瑠守は大学野球で活躍することになるがプロにはなれなかった。教員免許を取り体育教師となって沢村望実と結婚した。彼女の一途な想いに根負けした格好だ。4年という時間を使って沢村望実はその純愛ストーリーで上屋瑠守の両親らを説得し、周囲を味方に付け外堀を埋めてしまっていた。応えないという選択肢は選べるはずがない状態だった。
その後二人は2男1女を設けるが子供たちは誰も野球を選ばなかった。さらに数年後、母校に赴任した上屋瑠守は監督として甲子園の土を踏むことになる。




