八十四告目 上屋瑠守 9
琉生を瑠守に変更。
シニコクの呪いの噂は上屋瑠守も知っていた。思わず振り返るとそこには昏い目で笑う沢村望実の顔があった。
「何を言ってるんですか? オレは嘘告なんて……」
「どうかしら? 婚約破棄は立派な嘘告じゃない。私はそう思っているけど?」
「そんなのこじつけじゃないか! 約束だって先生が無理矢理言わせたようなもんだろ!」
「あらあら、言い逃れ? 男らしくないわね。だったら試してみましょうよ。嘘告かそうでないかは呪いが判断してくれるでしょうから」
そう言って沢村望実はポケットから上屋瑠守のネクタイを取り出した。それはあの日彼女のマンションに置き忘れたものだった。
「いつか返さなきゃと思ってたけど使わせてもらうわね。4日の深夜2時59分に呪いの言葉を唱えながら依り代に自分の血をふりかける。……フフッ、呪いの言葉もちゃんと覚えたのよ。シニコクシニコク言葉を返す沢村望実の怨み思い知れ、シニコクシニコク邪心を返す上屋瑠守は奈落に沈め、シニコクシニコク言葉を返す沢村望実の怨み思い知れ、シニコクシニコク邪心を返す上屋瑠守は奈落に沈め、シニコクシニコク……」
よどみなく呪文を唱える沢村望実の瞳が妖しく濡れ光る。
「やめろよ……やめてくれよ! あんたは佐島だけじゃなくオレの人生もメチャクチャにする気かよ!」
「おあいこでしょ? あなたが私の幸せを駄目にするっていうんだから。……最低なのは分かっているけど、私も崖っぷちなのよ! 好きでもないハゲジジイの後妻なんてあてがわれたら死んだほうがましよ!
……でも安心していいわ。あなたが呪われても私は見捨てないから。一生面倒を見てあげるわ。今度こそ私だけのものにしてあげる。……さあ、どっちにするの?」
数瞬の沈黙のあと、沢村望実の問いに上屋瑠守が答えた。
「ああ、分かったよ。……結婚しよう、望実」




