五十五告目 天人講 9
離婚後、多賀野ゆづと父親は街を離れ保証人になっていた祖父の多賀野宗平を頼った。
元々父親はその日暮らしで粗野な多賀野宗平を嫌っていたが背に腹は代えられなかった。
父親が学習塾を開いたのもその反動があったのかも知れない。貧乏な中でアルバイトで金を作って塾に通い苦労して大学に入り教師を目指していた。
一人暮らしだった多賀野宗平は何も聞かず親子を受け入れ、3人での暮らしが始まった。
その後、多賀野ゆづの母親がボスママの家の前で自殺する事件が起こる。灯油を被り凍死していたのだ。手にライターを握っていたため放火の疑いもあった。
彼女は前の晩にボスママの家を訪れ改めて事件の謝罪を求めたが、反対に口汚く罵られ警察を呼ぶと脅され追い返されていた。深夜になって彼女は近くの公園で灯油を被り、ずぶ濡れのままボスママの家に再び向かった。理解に苦しむところだが彼女の復讐劇には必要なことだったのだろう。だが惜しむらくは気化熱で体温が奪われそのまま凍死してしまう結果になったことだ。
逆上したボスママは放火殺人未遂だと多賀野ゆづの父親を訴えた。離婚している以上関係ないと突っぱねたがそれも偽装だろうと言われてしまう。追いつめられ精神を病んだ彼も海岸で死体となって発見される。
彼の生命保険からボスママに和解金が支払われることで事件は一応決着した。
そして多賀野ゆづは多賀野宗平と街を離れることになる。
後日、ボスママの庭先で灯油の入ったペットボトルが見つかる。
そのペットボトルは捨ててもいつの間にか庭に置かれ、しかも少しづつ玄関に近づいてくる。ついに玄関にペットボトルが置かれたときにはボスママは気も狂わんばかりだったが、それ以上ペットボトルが置かれることはなかった。
しかしそれからボスママはふいに灯油の匂いを家の中で嗅ぐようになる。その頻度はだんだん上がっていき、ついには外でも匂いを感じるようになった。
そのせいでボスママは強い香水をつけるようになりPTAやレストランで顰蹙を買うようになる。夫とも口論が絶えなくなり、ついには離婚する羽目になった。
さらに数年後、ボスママは安アパートで死んでいるのを発見される。酒に酔って風呂で溺れたのだ。
そしてその部屋からは夏なのに強く灯油の匂いがしたという。




