三十七告目 佐島鷹翔 5
「そんなの鷹翔が気にすることじゃないよ。迷惑してたんでしょ? 嫌いだったんでしょ?」
西木千輝のその言葉は慰めにも擁護にもなっていない中途半端なものだった。
「は? そんなわけあるかよ……確かに俺は久留美を遠ざけようとしたよ。それもあいつがこんな野球バカといつまでも一緒にいたら駄目になると思ったからだよ」
「えっ? 何よそれ」
「いや違うな……俺はあいつの一途さが怖くて逃げてたんだ。俺が久留美にしてやれることなんか何もないって理由をつけて……それなのに高校まで追っかけて来るなんて……だけど無理してボロボロになってくあいつを俺は見ちゃいられなかった。だからこっぴどく振って諦めさせようとお前らの嘘告に乗ったんだよ!」
そう言って佐島鷹翔は大きく息を吐いた。こぼれる涙を拭こうともしなかった。
「何でよ? そんなこと全然言ってなかったじゃない! だから……だから、あたし」
「だから? だからどうしたんだよ? なあ、あのあとお前ら久留美に何かしたんだろ? そうじゃなきゃ自殺なんて説明つかねぇんだよ!」
佐島鷹翔が西木千輝の両肩をつかんで大きく揺さぶる。
「きゃっ、ちょっと乱暴しないでよ! 話す、話すから!」
鎌田久留美の転校を知った日、滝村涼香はあの嘘告動画をLINEで鎌田久留美に送った。「また会いましょうね。コレ見て元気出して」とメッセージを添えて。西木千輝も「鷹翔にはあたしのほうがお似合いだから」と書いた。それに対して鎌田久留美は「ひどいよ」と返したきりグループを退会してしまった。その時は何にも思わず「マジレスしてきた。ウケる~」などと2人で笑い合っていたのだった。
佐島鷹翔の手が力なく西木千輝を離れる。そのまま踵を返し、無言のまま昇降口に歩いて行く。
「ま、待って! その……ごめん、こんなことになるなんて思ってなかった」
西木千輝は彼を呼び止めはしたがそれだけ言うのが精一杯だった。
「もういいよ……お前のことは好きでも嫌いでもなかったけど……よく分かったよ。はっきり言って最悪だよ、お前ら! ……でも俺も同罪だな。それに野球のできなくなった俺にはもう興味なんてないだろ?」
「えっ? 野球ができない、って」
「肩が……日常生活には問題無いって言われてるけど、もう元には戻らないらしくてな。……じゃあもう行くわ。どこかで会っても声かけんなよ」
佐島鷹翔はそのまま振り返りもせずドアの向こうに消えた。
西木千輝は突きつけられた拒絶に佐島鷹翔を追いかけることができなかった。
「いや……こんなの嫌だよ! 何で? 何でこうなっちゃったの? あ、あたしは、ただ鷹翔と……」
今度は西木千輝がフェンスに悲しみをぶつける番だった。すすり泣く彼女をよそにグラウンドからは変わらず部活の声が届いていた。




