第19話 忘れちゃ、ダメ
「ていう訳で、どうする?」
所変わって私たちはお家の子供部屋で話していた。それぞれ作詞用ノート、衣装用スケッチブック、ケータイの作曲アプリを開いて目の前の机の上に置き、会議をする。
私の言葉に、絵愛が口を開いた。
「あたしはスタンドマイクじゃない方がいいと思うんだけど。別にダンスが激しいわけじゃないけどさ、移動とかもあるからスタンドマイクは難しいかなって。ただ、そうなると、一曲まるまる歌って踊る体力があるのかっていう話になるよね」
そう、そこなんだよね。私たち三人の気がかり。あーあ、こんなことになるなら高校に入る前から筋トレとかもっとしておけばよかったなぁ。今更嘆いても遅いけどさ。
「あのさ、お姉ちゃんたち。愛里ね、体力はあとからでもどうにかなると思う」
……愛里の言いたいことが分からない。同じように感じたのだろう、絵愛が
「うん?それがどうしたの?」
と言うと、愛里は言葉を探すようにゆっくりと言った。
「あのね、体力作りは大切だよ。だし、一つ一つこなしていくことが上達への一番の近道だよね。だけど、今はそれをやっていたらきっと間に合わない……少なくとも、一曲分歌って踊る体力がつく頃には愛里たちは負けてるよ。だから、体力作りのメニューを増やすんじゃなくて、もういっその事歌いながら踊る練習ばっかりやっていけばいいんじゃないかなって思ったの。ひたすらBeginner’s Melodyを練習して、Beginner’s Melodyなら完璧に歌いながら踊れるってくらいまで。そうしたら、とりあえず今回は突破できるんじゃないかな。だから、歌いながら踊る練習に重きを置いて放課後練をすればいいと思う。朝はいつも通り、体力作りメインでね」
そっか、今の私たちに必要なのは「一曲を歌いながら踊る体力」以上に「Beginner’s Melodyのパフォーマンスを最高のものにする力」なんだ。Beginner’s Melodyがどうにかならないと、ハイドラに出ることすら叶わない。それなら、EIGHTH STARとのバトルに勝つための力をつけた方が効率がいい。
当たり前のことかもしれない。だけど、それさえ頭の中から消えてしまうほどには、私たち、焦っていたんだね。愛里が言ってくれてよかった。
「そうだね。愛里、その通りだ。今の私たちの目標はハイドラに出ること、そのためにEIGHTH STARとのライブバトルに勝つこと。それを忘れちゃ、ダメだよね」
私が言うと、愛里は何も言わずにっこり笑ってくれた。
なんだか嬉しくなってきて、私は思わず笑みをこぼす。
「ふふっ……」
ここで二人共が笑顔になって三人で笑い合えたらいい話なんだけど、悲しいかな現実はそうはいかなくて、絵愛と愛里はただ変なものを見るような目で私を見てきた。……意地悪……
「そういえばさ、ユニット名はどうするの?決めてなかったよね」
あ!
愛里の一言で思い出した!ユニット名、決めておかなきゃ。ライブの時にも言うだろうし、ポスターにも書くだろうから。
「あ、それに関してはね、あたしいっこ意見あるんだ。いーい?」
私は特に意見は無いし、愛里も同じなのだろう、二人して頷くと、絵愛はがさごそと鞄の中から何かを取りだし、「じゃじゃーん!」と言いながら私たちの方に向けた。
『LovIng sIster』
絵愛のノートには、そう書かれている。……というかこれ現代文のノート?小説のタイトルと作者名が書かれているけど。怒られるぞ……
「らびんぐしすたー、っていうの!あたしたちみんな、名前に愛が入ってるから!」
らびんぐしすたー……
脳内でその言葉を反芻する。
「いい!いいと思う!姉妹感あっていい!」
「愛里もそう思う!いいと思う!」
私、愛里がそれぞれ言うと、絵愛は少し照れくさそうに笑った。
LovIng sIster、いいじゃん!私たちらしい名前だよね。
田上家三つ子改めLovIng sIster。絶対にライブバトルに勝ってみせる!




