第17話 なによりも嬉しかった
午前授業が終わり、家に帰ってご飯を食べたあと。あたしは店番をしていた。
家の方ではお姉ちゃんとお母さんが衣装作りの続き、愛里が作詞と作曲をやっているんだけど……
あたしもそっちに行きたいなぁ。店番、わりと大変なんだよね……
というのも、昨日はめちゃくちゃ暇だった割に、今日はかなり人が多いのだ。和菓子だからお昼頃に忙しいとかは無いはずだけど、今日はやたらと忙しい。
常連のおじいちゃんの会計をしながら、あたしは心の中でため息をつく。はあー、体動かしたいなぁ……
そうぼやきながら接客を続けていると、お店の鳩時計が「ポッポ〜」と鳴いた。
え、もう三時!?早くない!?
いや、早くは無いのか……?まあ学校が十二時半に終わって、そっから家帰って(あたしたちは徒歩勢ね。学校の下まで徒歩で二十分くらいだから、そんなに遠くないんだ。学校の坂を含めると三十分になるけどね)一時。で、ご飯作って食べて二時前でしょ?
あれ、なんで三時なんだ?寝てた?なわけないよね、さすがに接客中は寝ないって。
でも、なんで三時……あ。
今日そういえば、帰るのちょっぴり遅くなっちゃったんだよね。ゆりかちゃんとお姉ちゃんからバトルの話を聞いてたから。だからだ!
まあ、それがわかった所でなんにもないんだけど……
お客さんも途切れ、ふと耳を澄ませてみると、微かにピアノの音が聞こえてきた。愛里がピアノを弾いてるみたい。
この前アカペラだったから、作りにくい!ピアノで作れ!って文句を言ったんだよね。そしたら、ピアノで作ってくれたみたい。有難いなぁ…
『誰だって最初は……』
あたしたちの最初の曲、Beginner’s Melodyをなんとなく口ずさんでみる。聞いてるだけで背中を押されるような、ワクワクするような、そんな曲。
「上手いねぇ、えまちゃん」
うわっ!?
いきなり声をかけられたあたしは、椅子から転げ落ちてしまう。
打ち付けてしまった腰を撫でながら立ち上がると、目の前にいたのは高谷のおばあちゃん。
うわ、全然気が付かなかった!ごめん!店番なのにぼんやりしてるの、よくないよね!
でもおばあちゃんはそんなことを気にせず(そりゃそうだ、他人の店だもの)、あたしに笑顔で話しかけてくる。
「えまちゃんもはいどらとやらに出るのかい?」
とやらって……ハイドラであってるよ。
「うん、そうなんだ。お姉ちゃんと愛里と三人で出たいと思ってるの。でも、ライバルもいるから出られるかはわかんないや」
あたしが答えると、おばあちゃんは笑顔であたしの頭に手を置き、撫でながら言った。
「大丈夫よぉ。えまちゃんもまなかちゃんもあいりちゃんも、皆べっぴんさんの頑張りやさんだからねぇ。ああ、だからうちの店に買い物に来てくれたのか。うちみたいなとこでよかったらいくらでもおいで、おまけしてあげるから」
おばあちゃん……
実の孫でもないのに、あたしに優しい言葉をかけてくれるおばあちゃん。その姿がなんだかとても優しく思えて、あたしは思わず言っていた。
「おばあちゃん!あたしたち、絶対にハイドラに出るから!絶対優勝するから、応援してね!」
あたしの言葉を聞き、おばあちゃんはさらに笑顔になって言う。
「楽しみだねぇ。えまちゃんたちが東京に行って決勝戦に出たら、この商店街のみんなで応援に行くからねぇ」
商店街みんなはあれだけど……
でも、その言葉は何よりも嬉しかった。あたしたちのこと、応援してくれる人がいるって思うと、すごくドキドキするし、なんでも出来る気がする!
よし、店番終わったら練習頑張ろっと。それで、ゆりかちゃん達に勝って、絶対にハイドラに出る!決勝まで残って、優勝する!
そう改めて思った土曜日の午後でした。




