少女Cendrillon
あたしは普通の女の子。
お父さんを早くに亡くして、お義母さんとお義姉さん達と暮らす、ごくごく普通の女の子だわ。
でも、お義母さんもお義姉さん達もあたしのことが嫌いみたいで、しょっちゅう私をものみたいに扱って。
でもね、あたしはどうしてもお義母さんもお義姉さんも嫌いになれなかった。
だってお義母さん達は、あたしという名の『御伽噺』の登場人物でしかない。
今からあたしはお義母さん達が今から行く舞踏会へとびきり綺麗なドレスを着ていって、皆が見る目の前で王子様とダンスを踊って貰うの。
それからガラスの靴を落として、それを拾ってあたしを探し当てた王子様と結婚。
それがあたしの『物語』だって決まっているのよ。
でもね、そんなの退屈じゃない?
あたしはあたしという名の物語をなぞり続けるだけ。
王子様と結婚した後に幸せなんかあるの?
そのまま順風満帆に笑って子供を産んで、死んでいくだけ?
そんな決められた未来、納得いく筈ないわ。
あたしは"シンデレラ"。皆が知ってる灰被り姫。
でも、そんな簡単に決められた幸せをなぞっていたくもないし、そんなの本物じゃないって知っている。
街で出会った旅人さんは言っていたわ。
此処とは違う場所のある女の子は、私と同じお父さんを亡くして、お義母さんと暮らしている子が居るって。
その子はお義母さんにいじめられて捨てられて、それでも強く生き延びて、運すらももぎ取って王子様と結ばれたんだと聞いたわ。
あたし、その子に凄く憧れたわ!泣きじゃくるだけで何もかも与えられるあたしと大違い。
自分の幸せを自分で掴むあの子が羨ましくて羨ましくて、しょうがなかった。
ずっとね、どうしたらあの子みたいに自分で幸せを掴み取れるのか、ずっと考えていたわ。
考えて、考えて、それで気がついたわ。
あたし間違っていたのよ。
あの子が、憧れなら。
あの子が、羨ましいなら。
あの子みたいに、なりたいなら。
あたしがあの子の立場を奪えばいいじゃないってね。
ああ、何て幸せなの!
あたしは何でも決められる!
あたしは何でも好きに出来る!
あの子になることが、こんなにも自由になれるなんて思ってもなかった。
だけど足りないわ。
あの子には必要かもしれないけど、あたしには不必要なものが沢山あった。
だったら、それも棄てたらいいわよね?
あたしには必要ない。
あたしを憎むお義母さんも、
あたしを詰るお義姉さん達も、
あたしを決めつける魔法の鏡も、
あたしを縛り付ける綺麗なドレスも、
あたしに近寄る七人の男達も、
あたしを誘惑する硝子の靴も、
あたしを閉じ込める硝子の棺も、
あたしと結ばれようとする王子様も。
……ああ、それでも私にはたった一つ、どうしても必要なものがあるの。それは残さなくちゃ。
あたしみたいに、決めつけられた『御伽噺』の住人になってしまった皆を、自由にしてあげなくちゃ。
こんな悲しいレールなんか、棄てなくっちゃ。
こんな物語、誰も必要ないでしょう?
「シンデレラ! おいシンデレラ! 何処にいるの!?」
「どうしたの、お義母さん?」
「あんた! 呼んだら返事しなさいよ、全く……」
「何を言ってるの? 呼んでなかったじゃない」
「あんたこそ何言ってるの! ちゃんと私はシンデレラって呼んで…」
「あたしはシンデレラじゃないわ」
「…はぁ?」
「うふふ、あたしは"白雪姫"よ。お義母さんったらどうしちゃったのかしら」
「あんたこそ、何言って、」
「ああ、そうそう。ねえお義母さん。さっきね、林檎を買ってきたの。一口いかが?」
「…………あんた、義姉さん達を何処へやったの」
「何言ってるのかしら。お義姉さん達って誰かしら?」
「……シンデレラ、あんたまさか」
「さあ、お義母さん。私の買ってきた林檎、是非一口どうぞ? とっても甘くて、魅力的な味をしているわよ。
……うふふ、お義母さん。
ね? こぉんなに美味しい林檎、初めてでしょう?」