声を奪われた妖精
この国の西の外れには深い深い森がある。
その森には桃色に輝く小さな滝があり、そこには金色の羽根を持つ妖精達が暮らしているという噂だ。
その妖精に気に入られるとどんな願いでも叶うというが……まあそんな事は今回の話じゃどうでもいい。
今回はその中で一際美しい声を持つ妖精、ミハイルの話だ。
妖精達は歌唱祭を開くそうなんだが、その中でいつも一位を掻っ攫うミハイルという妖精がいた。
そいつは見目麗しく、それ以上に歌えばどんな者でも安らぎ、癒されたそうだ。
誰彼も奴を絶賛するものだから、ミハイルは皆の期待に応える為に練習をしていた。
だが、勿論快く思わない奴もいるわけだ。
ある日ミハイルは起きると喉に違和感を感じた。
声を出そうとすると、丁度気管辺りで止まっちまうんだと。
焦ったミハイルは慌てて妖精のご長寿に話を聞きに行ったんだ。
「こりゃあミハイル、呪いを掛けられているなあ」
「……?」
「声じゃ。声を奪われておるんじゃよ」
どうやら誰かに呪いで声を奪われちまったミハイルは、三日三晩泣き続けたそうだ。
そりゃそうだよなあ、自分が努力して磨き上げた声を、歌声を、こんなあっさりと奪われちまったら誰だって悲しむに決まってる。
でも、そんなことでへこたれちまうミハイルじゃあ無かったんだよ。
泣き続けた次の日、真っ赤な目を腫らしながらもミハイルはまたご長寿の所に行ったらしい。
「何? 声を取り戻したい? うーむ……呪いを解くのが勿論早いんじゃが、お前さんは心優しい。犯人探しなどしたくないと言うんじゃろう?」
「……」
「……そうか、わかった。もう一つだけ、方法があるんじゃ」
ご長寿が取り出したこーんなに分厚い本はな、昔から妖精が語り継いで来た御伽噺だったんだ。
あ? お前知らないのか。
妖精ってのは昔から御伽噺を人間や動物に語り継いで、その物語の世界を守る存在なんだよ。
……知らなかったのか?
そうか。時代の流れは早いもんだ。
そんな訳でご長寿は本を開くと、ぱらぱら巡ってから開いてミハイルに見せたんだ。
「此処にはな、二十四編の御伽噺がある。全てお前さんが一人前になった時に語り継がなくてはいけなかった御伽噺じゃ。今からわしが、この御伽噺全てに行けるようにしてやろう。……それと代わりの声も、用意してやろう」
え? 代わりの声があるなら充分だろうって?
馬鹿なこった。ミハイルにとって自分の声は自身の価値みてえなもんだぞ、仮のもので納得するはずねえだろ?
まあそんなんでミハイルは御伽噺の中で自分の声を探す度に出る訳だよ。
「最初は……ああ、ここじゃ。此処に行くといい。お前さんも馴染みがあるじゃろう、『花売りの少年』じゃ。此処のな、主人公の男の子に声を掛けてみると良いぞ。きっとお前さんを手助けしてくれるじゃろう」
ミハイルは喜び勇んで御伽噺に入り込もうとしたんだ。
でもご長寿はそれを制した。
「ミハイル、これだけは必ず守るのじゃ。御伽噺はな、物語の筋を変えてはならん。それが例え"真実と反していようとも"じゃ。御伽噺を間違いなく伝えるのが、わしら妖精の仕事じゃからな。……ああほら、早く行っておいで。お前さんの歌声を、また楽しみにしているぞ。」
ミハイルは本の中に飛びこんで、ぐんぐん奥に進みながらわくわくしていたんだ。
元来奴は好奇心旺盛だからな。
これから起こることにわくわくしながら、最初の御伽噺を目指していった。
沢山の出会いがこれから待っていることを待ちわびながらな。
……さて、俺が知っている「声を奪われた妖精」の話は全部だぜ、少年。
お前が今から旅を始めるその小せえ妖精が、何でもお前を旅に誘ったかの理由もわかったか?
俺はそんなに喋るのが得意じゃねえんだ……少し眠らせて貰うことにするぜ。
ああ、そうだ少年。
《《良い御伽噺の旅を!》》




