十二時の魔法
どんな少女でも夢見る王子様とのストーリー。
彼女はそんなに少女達の夢の頂点に立つお姫様と言っても過言ではないような、そんな女の子。
何処にでもいる、少し不憫な灰被り少女は一人の魔法使いの手によってお姫様に早変わり。
お城で開かれた舞踏会へ赴き、その美貌で王子と踊る事が出来る。
彼女にはタイムリミットがあり、泣く泣く王子と離れねばならないけれど彼女の残した靴を頼りに王子は彼女を見つけ出し、二人は結婚する。
そんな「シンデレラ」は、普通の女の子が選ばれるお話であり、お姫様の代表格。
普通であるだけでいい。何処かのお姫様でなくていい。
自分が普通でも自分であるだけで選ばれる物語に、少女達は思いを馳せた。
普通の自分にも王子様が現れるのかもしれないと。
普通の自分でも選ばれる運命があるのかもしれないと。
そんな少女達を、決められた物語の上で眺め続けていたお姫様になる「予定」の少女は嘆き悲しんでいた。
彼女はシンデレラになる少女であり、またそれ以外の運命も結末も無い少女だった。
それがこの世界の定める未来であることを彼女は重々承知をしていた。
それでも、彼女は抜け出したくてたまらなかったのだ。
シンデレラのお話が素晴らしく輝かしいものだということを知っているからこそ。
結婚したシンデレラの結末がどれだけ普通に戻ってしまうのかも、決められた物語を、相手を、なぞるだけの人生がどれだけ退屈かも、彼女はようく知っていたのだ。
彼女が彼女として生まれ落ちた瞬間から決められた物語は、誰かに夢を与えるものでも、ましてや幸せの象徴でもない。
それが全てこの「シンデレラ」という世界の中の茶番劇でしかない。
寧ろそれ以下であるといっても過言ではないと彼女は思っていたのだ。
ああ、もし出来ることなら、私だってこの世界で生きていたくない。
自分で人生を選んで、結婚したい人と結婚して、その後の未来を自分で決めていたい。
彼女は少女達が夢見る事が羨ましくて仕方なく、また更に少女達になりたくて仕方が無かったのだ。
「ああ、こんなものが、私の人生だなんて。こんな陳腐なものが私の人生だなんて絶対に認めない!」
いつしか彼女はその退屈で陳腐な世界を抜け出す事を考えていた。
役目を捨てること。それはこの世界では死に等しいことはわかっていた。
それなら、自分が死ぬ前に世界を殺せば。
役柄に縛られたお姫様はもう何も厭わない。
自身の未来が決められていなければ、例え此処で死に果てても彼女は幸せだったのだ。
ただ、自分で決められる世界を。
そう、本当は。
最初は、それだけの筈だった。
自分で掴める世界を、未来を、
それがあれば、充分だった筈なのに。




