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叡帝興国紀  作者: badman
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本紀41回

 雪解けを待ち、白涼軍三万が涼寧(りょうねい)州へ向かって進発した。まず向かうは州都である岐郡(きぐん)であった。いまだに皇帝か皇太子か、どちらにつくか態度をはっきりさせていない涼寧州であるため、直接圧力をかけるのが狙いだ。もうひとつ、この機会に大きな賊集団を叩き涼寧州の治安を回復するということも目的である。総じて、涼寧州を安定させ、後方の憂いをなくし、帝都へ向かって軍を動かすための布石である。

 涼寧州は土地が岩がちで痩せており、標高が高いために気温も年中低い。紫州と違って雨が少ないが、冬にはしっかりと雪が降る。雪といっても紫州と違って積雪量は少ないのだが、それでも気温が低いため道、川、なけなしの森が凍りつく。このような地勢のために、涼寧州は貧しく、また貧しいがゆえに反乱を起こす住民、その反乱を纏め上げて一大勢力としてしまう賊、などが多発していた。

 白涼はその賊の中でもひときわ求心力を持った賊将、賀弼(がひつ)を打ち破り、可能ならばその配下の兵を取り込んで各州の防備に振り分けて生きたい考えだ。この賀弼という男、齢六十を越えてなお血気盛ん。若いころから幾度となく反乱を指揮している。打ち破られることもあり、仲間割れで分裂して逃亡することもありと、州ひとつを陥落させるほどの結果を残すことは過去なかったが、それでもその度に再起し、反乱軍を纏め上げてきた筋金入りの叛逆者であった。

 慕容循からはくれぐれも「賀弼は斬るように」と進言を受けている。その求心力を考えると配下に迎えたいところだが、と白涼が言うと、郭操と共に後顧の憂いを絶とうとしているのに憂いを内に入れてどうするのかと諫言(かんげん)されてしまった。

 

「寒い……」

 馬上で鼻の頭を赤くした桃花が、白涼の馬に近づいてきた。

「そうだな、ここは刺すような寒さがまだまだ残っている。やはり冬のさなかに軍を動かさなくて良かった」

 言葉ほどは寒そうではない白涼は、名前のとおり涼しい顔をしている。寒くないはずはないのだが、士気を考えてなるべく平然とした姿を見せようと心がけているのだ。

「はやくお酒であったまりたい」

 冬の間に酒で暖を取ることを覚えてしまった桃花は、たまに昼間でも飲んでしまって白涼にしかられることがあった。しかしさすがにこの日は白涼も暖を取りたい気持ちは同じで、そうだな、と同意した。

 遠くに岐郡城が見えてきた。歓迎されて場内に入れてもらえるか、歓迎されず場外で陣を張ることになるかは、この距離に至っても涼寧州知事の態度がはっきりしないため、不明であった。場合によっては迎撃の兵が出てくるかもしれない。白涼軍に緊張の色がにじむ。三万の軍を向かわせるという通達は既に済ませている。

 野戦を行うつもりならここまでひきつけることはないだろう、と白涼軍の首脳陣は判断した。問題は城に入れてくれるか、攻城戦になるか、だ。城まで残り三里というところで、伝令が入った。

「閣下! 遼寧の知事は城内に軍を容れること、認めました! 今東門を開け、知事自ら出迎えにこられるそうです!」

「そうか、ご苦労。だが気を抜くな、ここで警戒を解いて奇襲を受けるような愚をおかさぬように」

「はっ、全軍に通達いたします!」

 伝令が去っていったのを見て、白涼は背後に声をかける。

「李無忌(りむき)! 周温(しゅうおん)! 楽単(がくたん)!」

「はっ!」

 三名がめいめい返事を寄越す。

「軍の先頭に出る。ついてきてくれ。桃花、中軍は任せた」

「はっ、でも将軍、先頭は危険じゃないの?」

「門を開け、知事自ら出迎えとなれば無理はしてこないだろう。それに、何かあれば李無忌、あちらの知事を弓で討て。馬上にて待機せよ」

「承知しました」

 弓の名手、中郎将の李無忌は白涼の軍では並ぶものなき弓の名手だ。正確無比なその射撃は、城門の前という近い距離であれば狙った相手をはずすことはない。

「周温、楽単は私と共に下馬せよ。護衛は頼んだぞ」

「はっ」

「承知であります」

 周温と楽単の返答を見て頷くと、白涼は愛馬残影(ざんえい)の腹を蹴り、脚を速める。

「駆けるぞ」

 先頭に向かって駆け出した白涼を追って、李無忌ら三名もめいめい馬を走らせるのであった。




「お待ちしておりました。白前将軍閣下」

 城門前でうやうやしく頭を下げている涼寧州知事の王烈玄(おうれつげん)。しかし。

「お初にお目にかかる。お伝え忘れをしておりましたかな。先日陛下より平北将軍の位を与えられておりますよ、王知事」

 にこやかな表情で訂正する白涼。その目は笑っていない。背後の周温、楽単からも殺気が漏れる。

「これは失礼しました閣下。このたびは賊軍を討伐していただけるとのことで、恐縮でございます。我等が不甲斐ないばかりに将軍閣下のお手を煩わせてしまって」

「いや、それだけ難しい相手ということでしょう。兵は城内に容れてもよろしいか?」

「ええ、今晩は酒を振舞いたいと思っております。皆様寒いところの行軍、お疲れ様でございましょう。我々からのささやかな労(ねぎら)いでございます」

 深く頭を下げる王知事。

「では早速に、皆様城内へ。ここは寒うございます。係りのものが案内いたしますゆえ」

 そういうと王知事は知事用の馬車へ乗り込み、政庁へと向かった。やがて白涼たちも、案内に従って城内に入っていくのであった。

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