↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叡帝興国紀  作者: badman
PR
44/57

本紀36回

 沙州軍本営では、白涼から送られてきた人質交換を要求する手紙を前にして司令官である軍馬の趙丘は頭を悩ませていた。この話、受けるかどうか。

 捕らえられた校尉の許司は、決して無能ではないが、有能とも言いがたい凡庸な軍人であった。対して趙丘が捕らえた女将校の賈燐(かりん)は、少なくとも白涼軍にとって重要な位置にいるに違いない、と感じていた。感情面で言えば。

「簡単に捕虜になってしまった許司など、見捨ててしまえばいいのです、趙軍馬!」

 この、勢い巻いて詰め寄ってくる副官の校尉、秦会(しんかい)のように、見捨てるのが良いのではないかと考えていた。しかし、他の校尉が反対をする。

「いやいや秦校尉、一度捕虜を見捨てる判断をしてしまうと、自分も見捨てられるのではないかと考える将兵の士気が下がってしまいます。ここは交換に乗るべきです」

 これも一理ある。議論は平行線をたどって一刻ほど続いていた。これは趙丘の鶴の一声で決めるしかないと、みなの意識が趙丘に向いた。

「どの意見ももっともであるが、賊将一人のために校尉一人を失うわけにもいくまい」

 嘆息とともに、人質交換に応じるよう指示するのであった。




 人質交換が済み、白涼の陣に戻ることが出来た賈燐は、さっそく趙丘について自ら見知ったことを報告していた。曰く、

「欲の無い人物、と見受けましたわ。それと、感情より理を優先する傾向にあるようですわ」

「そうか、理知的な将なのだな。それに加えてあの怪力を誇る、と」

 白涼はちら、と郭操に視線をやる。それに気付き郭操はためいきをつく。

「将軍、配下に加えたいなどと考えておられませんか」

「出来んか?」

「初日のように前線に出てくれるのであればともかく。野戦で敵方の総大将を生け捕りにするなど、甘い考えはお捨て下さい」

 そうか、と白涼はがっかりしたように呟く。だが、郭操はにやり、と笑い、

「本気で趙丘を登用したいのであれば、沙州を落とすしかありませんね」

 と口にした。

「郭操殿、それは話が違ってくるでありませんか」

 校尉の楽単(がくたん)が驚いて郭操に詰め寄った。そう、今回の出陣は本来紫州を沙州軍から防衛するためのもの。よって攻城の準備もしておらず、沙州へ攻めるための兵糧の用意も無いのだ。

「簡単にはいかないことは分かっています。ですが可能か不可能かで言えば、可能ですよ楽校尉」

 どういうことでありますか、と楽単。

「州ひとつを落とすつもりの攻城戦の道具なら、相手の陣においてあるではないですか。兵糧もね」

 その言葉に王澄命(おうちょうめい)がくくっと笑い声をもらす。

「確かに、私たちは元々は賊ですからね。奪って使うのは得意技です」

 生真面目な楽単は渋い顔をするが、白涼は腕を組んで考える様子を見せる。

「でも、沙州を落としたとして、問題は統治するかどうかだよね?」

 小首をかしげながら桃花が郭操に尋ねる。

「そう、もちろんそうです。ひとつの州を抱え込むとなると、統治するためには我々と心を同じにするか、せめて利害が一致する人材の確保が必要です」

「そんな人材すぐには見つからないよね?」

「はい。ですから私は、今現在治めている人物をそのまま登用することを提案します」

「ええーっ!」

「まじかよ」

 桃花と長孫覇が声をあげ、楽単はぽかんと口をあけて郭操の顔を見つめる。冗談を言っているような顔ではなかった。

「我々が調べたところ、沙州知事の崔宗(さいそう)は、目端は利くものの忠義に篤い人物ではなさそうです。命を助け、利害を説けばきっと将軍の力になれると存じます」

 さらに郭操は続ける。

「この案は、事前に慕容循(ぼようじゅん)殿とお話して、賛同をいただいている案でもあります」

「なんでえそりゃ!」

「慕容循殿が、でありますか」

 さすがにこれには驚いた白涼が、郭操に問う。

「迎撃戦の算段だけでなく、このまま沙州に攻めるというところまで、考えていたのか」

「はい。野戦の様子を見て、有利に戦いが運べるような相手であれば、との注意つきですけれど」

「なるほど。まったく、うちの参謀殿は驚かせてくれる」

 言って白涼は苦笑い。そして一堂を見回し、高らかに宣言する。

「よし、これより目標は沙州攻略とする! まずは野戦にて沙州軍を撃破、敵陣より物資を奪取した後に沙州城の攻略!」

『はっ!』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。