本紀27回
紫天賊、いや、赤倫教団の兵を加えて総勢約8万の軍となった白涼軍。
紫天賊も一枚岩ではなく、もともと山賊であった者たちの多くは白涼の下に付くことを良しとせず、山を去った。それでも赤倫教団に恩義を持つ元山賊頭目であった指揮官、李蕃とその副官王均は白涼軍に合流することを選んだ。混成軍となった白涼軍。そこで白涼は本来引き連れていた官軍の総指揮を桃花に任せ、自らは赤倫教の兵を率いるという配置についていた。
これには長孫覇をはじめとして楽単、孫灸ら血気盛んな幹部が猛反対したのだが、慕容循や赤倫教幹部の郭操らは積極的に支持した。結果としてこの配置は赤倫教の兵に歓迎され、その支持をうけることにつながった。
紫州からの兵糧補給路が断たれたとの報が入ったのは、赤倫教団が加わってから二日後の進軍中のことであった。
「これで、明確に紫州は敵となったか」
傍らの慕容循に顔を向ける白涼。慕容循は苦笑しつつ頷く。
「まあ、教団と手を結んでしまった以上、こうなるとは思っていました」
「きっと、手を結んでいなくてもこうなっていましたよ」
慕容循と白涼をはさんだ反対側で馬に揺られる教団幹部、王澄命が穏やかな声色でそう言った。さらに言葉を続ける。
「それより将軍、補給路が断たれた以上は速攻が必要となります。先鋒は我等にお任せ頂きたいのですが」
軽く微笑む王澄命に、しかし白涼はかぶりを振る。
「いや、ここは正規兵を使う。攻城戦の訓練を受けた兵の動きは見たことがないだろう。君達教団指揮官には、今回の城攻めで学んでもらう」
「見くびらないで欲しいわね。わたし達はすでにいくつも城を落としてきたのよ」
そう言ってむきになったのは、白涼の後ろで会話を聞いていた教団の女幹部、賈燐だ。白い鎧が陽光を反射して輝いていた。
「それでも、万の兵が篭る城を攻めたわけではないだろう?」
「そうですね、我々が落とした城はどこも少数の兵で守られた城でした」
「王澄命、あなたどっちの味方なのよ」
「それは当然、白将軍ですよ賈燐。将軍が我々の主なのだから」
む、と賈燐は軽く唸る。
「それじゃ、お手並み見せてもらうわ」
「ああ。苦戦するようなら、そのときは加勢して貰うよ」
「ここで苦戦するようでは困りますけどねぇ」
ぼそりと慕容循がつぶやいた。
「紫州知事! 補給路を断つとは何事か! 我等は官軍であるぞ!」
紫州の州都を眼前にして桃花が大音声でよばわる。何度か呼びかけるうちに、城壁に紫州知事の張謙が姿を現した。
「な、なにを言うか山賊と手を結んだ逆賊一族の小娘が! 儂は都の皇帝陛下に忠義を尽くしているだけじゃ!」
「そのあんたが言う皇帝こそが、皇帝殺しを企んだ逆賊でしょうが! 弓兵、撃て!」
張謙の言葉にかっとなった桃花が号令を下す。弓が雨あられと降り注ぐ中、城壁の上にいる紫州兵も負けじと弓を撃ち返して来た。張謙は悲鳴を上げながら安全なところへ避難するが、気に止める兵はいなかった。兵の指揮を執る紫州軍馬の陳哲が、ちっと舌打ちをした程度である。
「歩兵前へ! 梯子を架けよ!」
桃花の号令に従い、盾を持って弓矢を防ぐ役の後ろに続く兵が梯子を運ぶ。そして城壁に取り付くと、梯子を立てかける。
「登らせてはならんぞ、撃て、撃て!」
弓の応酬の中梯子を登っていく白涼軍。城壁の上からは矢だけではなく大小の石も降ってきて兵士を打ち据える。
全体の様子を見ていた桃花は、右翼の一部で降ってくる石の勢いがなくなった箇所があるのに気付いた。兵士の怠慢か、それとも石がなくなったか。ともかく、ここが好機であった。
「韓維殿! 右翼から!」
「応!」
「弓兵、矢の勢いを落とすな! 韓維隊を援護しろ!」
韓維が自ら盾を持って梯子を登る。降ってくる矢を剣で切り払い、石を盾で防ぎながら、両手を使わず梯子を登っていくその様は鬼神の如し。
矢を撃とうと身を乗り出した兵の喉笛を剣で一閃し、城壁へと到達する韓維。
「韓維、一番乗り!」
いうやいなや、周囲の紫州兵を切り伏せる。
「韓校尉に続け!」
韓維の配下が気勢を上げる。右の城壁は、徐々に白涼軍に染まっていった。あわてて陳哲が部下に指示を飛ばす。
「左翼の敵兵を追い落とせ! は、はやくしろ!」
数を増やして対抗しようとする陳哲だが、もともとそれほど広くはない城壁である。数の有利で戦うことは難しい。しかも先頭に立つのは帝国兵の武術教官のなかでも腕利きと言われていた韓維である。取り囲もうとする兵が、次々と韓維の剣に倒れ伏した。
城壁に登った兵の一部が、今度は縄を垂らす。そしてその縄を伝い降りて城内へと切り込んでいく。真っ直ぐに向かったのはもちろん城門である。
「姫校尉、城門が開きました!」
「よし、長孫隊、突入!」
桃花の号令に従って動いたのは、白涼軍の中でも最も突破力のある、長孫覇率いる隊である。長孫覇は城門から城内へとなだれ込むと、紫州知事張謙のいるであろう政庁目指して配下と共に駆けてゆく。
「残りの部隊も突入するよ! わたしに続け!」
城壁へ弓を撃っている部隊と、城壁を攻め登っている部隊を除いた兵が、桃花を先頭に場内へ突進する。突入した兵は城壁の紫州兵に向かって攻撃を仕掛けていった。
「武器を捨てれば命は助ける! 紫州の兵よ、降伏しろ!」
降伏を呼びかけながら馬上で短槍を操り敵兵を討つ桃花。その姿に抵抗の気力をなくした多くの紫州兵が、戦うことなく武器を放り投げた。ここに、紫州州都は陥落したのであった。




