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叡帝興国紀  作者: badman
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本紀15回

 賊軍のいる開県(かいけん)と、今白涼達が賊軍の手から取り戻した新上県(しんじょうけん)とはともに一本の街道沿いにある。偵察によると、目論見どおりに賊軍はまっすぐに新上県を目指して進軍中ということであった。

 その街道沿いには、両側に森が広がっている部分がある。というよりも、森を切り開いて街道を通したというのが正確だ。この森に、白涼は兵を伏せて迎え撃つことにした。


「本隊は兵を伏せた位置より下がって迎え撃つ。左右が森のため、ぶつかりあうところでは数の有利不利が出ないはず。まずは拮抗させて、ころあいを見計らって伏兵を当て、敵前衛を殲滅する」

 これが、白涼の立てた策である。正面からぶつかっても負けるとは思わないが、被害を少なく、かつ迅速に決着をつけたいと白涼や慕容循は考えていた。

「それじゃあ叔父上、先鋒は任せて!」

 勢い込んで桃花が立候補する。

「よし、今回は桃花に任せる。有利だと思っても、すぐには前に出ず慎重に動くのだぞ」

「やった! がんばるよ」

 うきうきとした様子を見せる桃花に、群議の場にいる一同はまだ子供だなとばかりに苦笑する。

「伏せる兵は正規兵を、左右に三千ずつ合わせて六千。これが突入すると同時に、本陣から長孫覇(ちょうそんは)の赤備えと、韓維が三千率いて攻勢をかける」

「はっ」

「了解」

 韓維と長孫覇がそれぞれ応える。

「敵も森に兵を伏せている可能性があるでしょう。偵察はしっかりと行ってもらいますが、お二人もあまり深追いはせぬように気をつけてください」

 慕容循が注意を促した。長孫覇はそれを自慢の長いひげをしごきながら言った。

「その伏兵ごと倒してしまっても構わんだろう? 賊兵の伏兵など、恐れるに足らんよ」

「それでも、注意はしておいてください。この一戦は決戦のためのものではありません。決して無理な追撃は行わないで頂きたい」

 強い口調で慕容循が言うと、しぶしぶという様子で長孫覇は頷いた。




 前衛に紫州の兵を引き連れた姫桃花が陣を整える。偵察からの報告では、賊軍五万はほかの道筋を迂回することなく、正面から向かってきているようだ。先に迎え撃つ体勢を整えることのできたこちらが大分有利になったな、と桃花は考える。

 ふだんはやや子供っぽさの残る言動が多い桃花だが、鎧兜を装着して小脇に短槍を抱え白馬にまたがった姿は凛として美しかった。白涼麾下(きか)の兵達は、その姿を戦乙女と評しているほどである。

 紫州兵もはじめその姿に見惚れ、そして勝たせるぞ、と意気を上げていた。その姿は将としての天性を感じさせるものであった。

 桃花の目に、近づいてくる砂煙が見え始めた。

「総員、戦闘用意!」

 最前衛に並べた弓兵、その後ろに接近戦のための槍兵がそれぞれ武器を構える。

 賊兵の姿が見えてくると、戦慣れしていない紫州兵に緊張の空気が流れ始める。しかし。

「紫州を取り戻すための、これが第一の矢だ! 臆するな!」

 桃花の凛とした声が響くと、兵たちのおびえた様子が和らいだ。

「弓、構え!」

 ぎり、と一斉に弓が引き絞られる。賊軍が、射程距離に入った。

「放て!」

 桃花の号令とともに放たれた弓は、先頭を走ってくる賊兵に突き刺さり、その勢いを削っていく。

 だが賊軍も意気高く、おおお、と怒号を上げながら突進してくる。

「槍、前へ!」

 賊軍の勢いのよさに及び腰になりながらも、紫州兵達は桃花に叱咤されて前へと槍を繰り出し、ここにぶつかりあいが始まった。


 賊兵の勢いに押されて徐々に戦線が下がる。桃花は近づいてくる賊兵を馬上用の短槍で突きながら、戦線が崩壊しないようにと目を配る。押されていくところに後詰めを送り、敵後方には弓を打ち込ませて一挙に押し込まれないよう指揮を取っていく。

 交戦しながら戦線を下げていく紫州兵の様子を中軍で伝令から報告された白涼は、頃合かと手薬煉(てぐすね)を引いて待つ長孫覇と韓維に合図を送る。

「合図の銅鑼を鳴らせ! 赤備え、韓維隊ともに突撃!」

 じゃーん、じゃーんと大きく銅鑼の音が響く。そして森に伏せていた兵六千と、長孫覇の赤備え一千、韓維隊三千が突入した。



 紫天賊の首領李蕃(りばん)は、先鋒が伏兵に囲まれているとの報告を受けるとそのひげ面を苦々しそうにゆがめた。森に伏兵がある可能性は伝えられていたが、前に戦った左将軍とやらはそのような小細工をしてこなかったため、今回の将軍(李蕃は後で前将軍だと知った)もおそらくこちらを甘く見ての正面衝突しかしてこないだろうと考えていたのだ。

「ちっ、結局小僧の言うとおりになったか、腹の立つ。よし手前ら! 撤退だ!」

 引き上げの銅鑼を鳴らし、敵中に取り残された味方を見捨てるようにして撤退を開始する。

「親分、この後はどうするんで」

「遠回りになるが伏兵を置けない道筋を使って山に戻るしかねえだろう。もし真っ直ぐに山に戻れなかった場合に使う道順てのがあるんだよ」

「あの小僧が書いたんスか?」

「そうだよ」

「面白くないですね、なんか・・・・・おいたらちのことが見透かされてるっていうか」

「ああ、だがあいつらのおかげで俺たちはここまで大きくなれた。利用できる限りは利用してやろうじゃないか」

 ふん、と鼻を鳴らす李蕃。

「それで親分、いったん開県に戻るんスか?」

「いや、ここは時間が惜しい。このまま走れるだけ迂回路にいくぞ」

「山と開県で挟み撃ちにするのは駄目なんスか?」

「兵糧が足りねえからな。官の蔵以外は襲うなって言われてるしな」

「適当に商売人から巻き上げれたら楽なんスけどねえ」

 馬首を巡らせ、今来た道を引き返していく紫天賊。前衛がやられたとはいえ、賊将李蕃の早い判断のおかげで兵の損耗は大きくなかった。

「まあいい。山には十分食料もある、兵もまだ残ってる。この借りは山で返すぜ」

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