見習い少女と伯爵の信頼。
いつも読んで頂きありがとうございます。
今回の話には、病気の症状や対策などを盛り込んでいますが、作者が調べた結果から書いている物なので全てを信用しないようにお願いします。
「こんな短時間でここまで変わるとは……。
マリー、一体度どんな方法を使ったんだ?」
「旦那様、リクは凄いですね。
横になったままで身体を拭いたり、着替えたり、シーツまで交換してしまったんです。
いつもは、着替えだけで体力が尽きてしまっていたセレナ様が髪の毛まで洗えたんですよ。」
「なんとっ!」
驚きから回復した伯爵は疑問を侍女のマリーへ投げかける。自分が席を外していたこの短時間での変わりように、リクがどんな方法を使ったのか伯爵には想像できなかった。
そんな伯爵へ、侍女のマリーは嬉しそうに伯爵婦人へ実施したことを話して見せた。リクが伯爵婦人の着替えなどで行った方法は、伯爵には思いも付かないことだったため驚くと同時に感心してしまう。
清潔に整えられた伯爵婦人の様子に伯爵とマリーが満足そうに笑い合っていると、部屋より退席していたリクが戻ってきた。リクの手には、4つのコップを乗せたお盆があった。
「失礼します。」
「おお、リク!
今、マリーから話しを聞いていた所だっ!
ここまで清潔に整えられた母を見るのは久方ぶりだ。
本当に礼を言うぞ、リク。」
「伯爵様、勿体ないお言葉ありがとうございます。」
部屋に戻ってきたリクの姿を確認した伯爵は、この救護院に来てから一番嬉しそうな笑顔を見せ感謝を伝えた。伯爵の言葉にリクも嬉しそうに微笑みを浮かべる。
「伯爵様、一つお願いがあるのですがお聞き頂いて貰っても宜しいでしょうか?」
リクは、微笑みを消し真面目な表情となって伯爵へ願い出る。
「母の事を頼んだのだ。遠慮せずに私に相談して欲しい。」
「ありがとうございます。
では、伯爵様とマリーさんにこちらを試して頂きたいのです。」
リクが差し出したのはお盆の上にのせていたコップに入った飲み物だった。
「これは……、水か?」
「水へ蜂蜜など様々な物を混ぜています。
マリーさんにお聞きしたんですが、伯爵婦人様は蜂蜜を好んで食べられていたそうですね。
でも、蜂蜜は体調が悪い時には食べにくくて、持って来てはいるけれど食べてはいないと聞きました。
その蜂蜜をマリーさんに伯爵婦人様のためにこれを作る事を伝え、わけて頂いたんです。」
「そうか、母のための飲み物か。」
「はい、伯爵様。
これは一度沸騰させた水に少量の柑橘類の搾った汁と蜂蜜、塩、砂糖を混ぜて作った物です。」
伯爵とマリーは、リクの言葉に渡された飲み物の味が想像できないのか口を付けるのを躊躇っている。その姿を横目に、まずはリクが飲んでみせた。リクが普通に飲んで見せたことで、踏ん切りが付いたのか二人も口を付けた。
「……不味くは無いが、美味しいという訳では無いな。」
「はい、不味くはありません。
ほんのりと柑橘系の爽やかな香りがして、普通の水よりは甘みがあると感じました。」
二人の感想にリクは頷き、用意した理由を説明する。
「まず、伯爵婦人様の状態を見て私は水分補給をしたいと考えました。
しかし、ただの水では十分ではないと判断しました。」
「何故だ?
水分を補給するだけであるならば特に問題は無いと思うが。」
リクの言葉に二人は揃って不思議そうな顔をする。水分を摂取することが目的であるのにただの水では十分でないという考えが分からず、答えを得ようとリクへ伯爵は問いかける。
「伯爵婦人様は、熱が続きその影響で汗をかいています。
口の中は乾燥し、皮膚に張りもありません。
手足は冷たく、脈拍は早かったです。
以上のことから、私の勝手な見解ですが体内の水分量が不足した状態である脱水症状をまず疑いました。」
「脱水症状?」
「私は医師ではありませんので、診断を付けることが出来る立場ではないことは分かっています。
まして、子どもの言葉です。信用を得ることが出来ないのも分かります。
ですが、脱水症状の場合は水分だけでなく塩分なども同時に補給する必要があります。
それが塩分や糖分を含んだこの"経口補水液"なんです。」
「……。」
リクの言葉を受けて伯爵は黙り込んでしまう。一般的に考えれば、救護院の見習いでまだ子どもと言える少女の言葉を信じる者などいない。
「……確かにリク、君は子どもだ。医者でもない。
世間の一般的に考えれば君の言葉を信じるなど愚か者だと笑われるだろうな。」
「……っ。」
伯爵の当然とも言える言葉にリクは顔を俯かせ、唇を噛みしめる。
「だが、私は君が母にしてくれた看病を信じたいと思う。
どの救護院に行っても、ここまで母を気に掛けてくれる看護師はいなかった。」
伯爵は、今までに会った医者や看護師達を思い出すように言葉を句切った。
「…伯爵様。」
「それに私が側で君の行動を見守って何かあればその都度質問して、納得できなければさせなければ良いだけの話しだ。
もしも、私が側を離れる事があったとしてもマリーがいる。
君一人に母を任せっきりにすることはしない。」
母を案じるが故の厳しい言葉を紡ぎながらも、年若く少女であるリクでは無く、リクが母へ提供した"看護"を信じるのだと伯爵は話す。
「伯爵様、ありがとうございます。」
リクにとって、己の年齢や立場ではなくて、己の"看護"を信じてくれた伯爵の言葉が何よりも嬉しく、深く感謝するのだった。




