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閑話 春祭りと深紅の少年騎士 その4。

 私と少年が座っていたベンチの周囲は、私たちが話し込んでいた間に人気が無くなっていました。主要会場の方から歓声が上がっている様子から、あちらで何か大きな催し物があっているのでしょう。


 そんな周囲の歓声から取り残された場所にいる私たちの周りには、いかにも破落戸のような連中が10人ほど集まり取り囲み始めています。


「・・・お知り合いですか?」

「・・・そんな訳がないだろう。こんな下品な連中に心当たりなど全くないな。」

 私達の会話に周囲の少年曰く下品な連中が反応して、何か濁声で喋っています。

「はっ!

 余裕じゃねえか、糞ガキどもが。

 用があるのはそっちの騎士の兄ちゃん、お前だよ。」

「指名されてますよ?騎士のお兄ちゃん?」

「全く持って、心躍らないお誘いだな。」

「っの!馬鹿にしやがってっっ!!

 てめえ、さっきそのお嬢ちゃんに言ってたよな?

 貴族の跡取り様なんだろう?てめえを誘拐すりゃあ、ガキを何人も売り払うよりも金になる。

 大人しく付いてきて貰うぜっ!」

 破落戸の中でも、リーダー格の男が長々と自分たちの目的を話してくれました。

 ・・・巻き込まれてしまった私はとんだとばっちりですね。

 ですが、彼らは公爵子息を誘拐しようなんて馬鹿な事を考えますね。そこら辺の貴族のぼんぼんとは一応は、格が違うでしょうに。きっと、動かす事が出来る人員は山の様にいるでしょう。まして、騎士学院に通っているような少年が大人しく捕まるとは思えませんが・・・?


「悪いな、お嬢さん。

 巻き込んでしまったな。だがまあ、この程度ならば大丈夫だ。

 大人しく其処に座って待っててくれるか?」

「分かっています。

 私は邪魔にならないように、このベンチより動くつもりはありません。」

「良い子だ、お嬢さん。」

 座っていたベンチより立ち上がり、鞘より剣を抜き構える少年は私に向かって短く告げてきました。私自身も、戦闘の役に立てるとは思っていませんから、大人しくしておく事を伝えます。


 私たちの会話に被せるように破落戸の中の一人が少年に斬りかかっていきます。

「女性との会話の最中に、剣を向けてくるとは礼儀がなっていないな?」

 躊躇うことなく振り下ろされた剣をいなし、背中がガラ空きの破落戸へ少年は剣の鞘で鋭い一撃を叩き込みました。


バキイィィッッ!!!


 とても痛そうな音が響きます。その音を合図にしたように、破落戸達が一斉にそれぞれの武器で攻撃を繰り出し始めました。ですが、少年は危なげない様子で全ての攻撃を避け続け、一人また一人とどんどん倒していきます。

 その戦う姿は、シオンさんの静かな洗練された舞い踊るような"剣舞"とは反対で、少年の戦う姿は鮮烈でまるでダンスを踊っているかのようです。そんな少年の剣術の腕前を前に、残されたのは地面に倒れ痛みに呻く破落戸達とリーダー格の破落戸、両脇を固める2人だけです。

 ・・・いえ、おかしいです。最初に戦闘が始まる前に私が人数を確認した時、破落戸は"11人"いました。ですが、少年に倒され地面に転がされているのは"6人"だけです。最初に、一撃を受けて倒れていたはずの男がいませんっ!


「!!」

 その事実を少年へ伝えようとした瞬間、私の喉元に後ろから冷たい物が添えられました。

「へへっ、動くなよう?お嬢ちゃん。

 お前もだぜぇ?騎士の坊ちゃんよぉ?」

「っ?! 貴様っっ!!」

 私の後ろには最初の一撃を受けたはずの破落戸が立っていました。 

「良くやったぜ!はんっ、剣を捨てなっ!!

 さもなきゃ、あのお嬢ちゃんの顔に消えない傷跡が残るだけじゃあすまねえぜ?」

「・・・くそっ!

 その顔に似合った汚い真似をするんだな。」

 少年は悔しそうに言い返しますが、私を人質にとって優位に立ったと思い込んでいる破落戸達にとっては負け惜しみにしか聞こえないのでしょう。

「いいから、さっさと剣を捨てな!

 てめえには、アジトに着いたらゆっくりと暴れた分のお礼はして貰うぜ?

 お嬢ちゃんはそうだなあ、可愛い顔をしてるしよぉ、きっと高値で売れるだろうなあ?」

 にやにやと私に気持ち悪い視線を送るリーダー格の破落戸にすっごく不快な気分になります。そして、その破落戸の言葉に顔色を変えて少年が抗議の声を上げてくれました。

「まてっ!

 その子は関係ないだろうっ!お前達が必要なのは俺だけのはずだっ!!」

「ふんっ、こいつはお前の人質でもあるんだ。そう簡単に解放は出来ねえな。」

 リーダー格の破落戸の言葉を受けて、少年は悔しそうに唇を噛みしめています。どうしようも無い状況ですが、私に危害が今すぐに及ぶ事がないように剣を捨てようとしている少年へ話しかけます。


「ねえ、騎士のお兄さん。

 私は、大丈夫ですよ。だから、剣を捨てる必要は無いんです。」

 そう、私はたとえ首元に剣を添えられていても大丈夫だという自信があります。だって、知っていますから。こんな物に怯える必要がない事を。

 ですが、そんな微笑みさえも浮かべている私の態度に少年も、破落戸達も妙な物体を見たような目で見てきます。

「何を言ってやがる?

 おじょーちゃんにはこの剣が見えねえのか?」

「っ!

 リクっっ!!挑発するんじゃないっ!!!」

 少年の言葉に私はキョトンとしてしまいました。

「あれ?私の名前覚えていたんですね。」

「そんな問題ではないだろうっ!」

 怒鳴るように言葉を返してくる少年に笑顔を深めます。

「大丈夫ですよ。

 だって、私の危機にはいつだって駆けつけてくれる強い味方が居ますもの。

 ・・・そうでしょう?シオンさん、ジェダ?」

 二人の名前を言いながら、私は瞳を閉じます。


バキイィッッ!!ガッッ、グシャアァァッッ!!!


 私の言葉が終わる前に一陣の銀色の風が走り抜け、力がとても籠もった攻撃を連想させるような音が響き、再び瞳を開けたときには私はシオンさんの腕の中にいました。・・・所謂、姫抱っこですね。


「リク、怪我はないか?

 助けに入るのが遅くなってすまない。」

 私を腕の中に抱き、その肩にジェダを乗せているシオンさん。私に剣を当てていた破落戸は・・・凄い勢いで地面にめり込んでいました。・・・それを私は見なかった事にして、シオンさんへ視線を向けます。

「シオンさん、ジェダ、ごめんなさい。

 はぐれてしまった上に心配を掛けてしまいました。」

「僕もすまなかった。今度からは、こんな風に抱えて移動した方が良さそうだな。」

 嫌ですね、それって罰ゲームじゃないですか・・・。

 ですが、シオンさん達に心配掛けてしまった事実がありますし断り辛いです・・・。


「・・・其処のお嬢さん、俺を無視しないで欲しいんだが。」

「あ、忘れてました。」

 少年が私たちをジト眼で睨んでいます。見れば残りの破落戸は彼が倒したようです。

「はあ、本当に不思議なお嬢さんだな。」

 少年が近寄ってこようとしますが、私を抱いたままのシオンさんが近づいてきただけ距離を取ります。

「・・・お前、お嬢さんとはどういった関係だ?」

「貴様に話す必要性を感じない。」

『・・・・・。』

 なんだか、二人の間で火花が散っている気がします。ですがまあ、とりあえず感謝の言葉を伝えないといけません。

「シオンさん、一度下ろしてくれませんか?」

「駄目だ。」

「・・・。

 すみません、こんな格好で失礼します。

 今日は、助けてくれてありがとうございました。

 おかげでシオンさんと合流する事も出来ました。」

 抱かれたままというのは、とても不本意ではありますが今のシオンさんは下ろしてくれる気配がありません。

「・・・あー、その、俺もすまなかった。

 お嬢さんを巻き込む形になってしまったからな。

 そうだな、迷惑を掛けてしまった謝罪の意味を込めて一緒に食事にでも・・・」

「その必要は無い。今すぐ帰宅するからな。」

「・・・本当に何なんだ、貴様は!

 あ、待てっ!!お嬢さんは、置いていかないかっ!!!」

 少年の言葉を遮り、私を抱いたままシオンさんは走り出してしまいます。さすがの少年でも、シオンさんの俊足には敵わずあっという間に見えなくなってしまいました。

 その後すぐに、帰宅した私たちでしたが何故かこの後数日間シオンさんの機嫌は直る事がありませんでした。・・・本当に何故だったんでしょう?



 いつも読んで頂きありがとうございます。

 短編程度のつもりで書いていたんですが、何故か4話にまで渡ってしまう内容となってしまいました。私の中では、2話くらいでまとまるはずだったんですが・・・。

 最近、この物語が200ポイント達成しました!!皆様のおかげです、ありがとうございます。

 これからも、楽しい話しを描いていけるように頑張りたいと思います。

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