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閑話 春祭りと深紅の少年騎士 その1。

 季節は巡り、蕾をつけていた花々が一斉に咲き誇る春の季節を迎えました。

 春の花飾りで彩られた美しいこのエリューシオン王国の王都では、春祭りの一環でより一層に美しく街並みを飾りたてています。


 そんな周囲の美しさに眼を奪われながら、私とシオンさんは露天の前に時折足を止めたりしながら歩いています。

 そう、今日は私の初めての王都デビューなんです!!(シオンさんという保護者付き)



 ことの始まりは、キースさんの何気ない一言から始まりました。

「ああ、シェリスの花が咲き始めたんだな。そうか、もうすぐ春祭りだったな・・・。」

 シェリスの花とは、前世の桜に似た花のことです。日本にあったソメイヨシノよりも濃い薄紅色をしています。

「キースさん、春祭りとは何のことですか?」

「・・・リクは連れって行ったことが無かったな。

 王都を中心にやってる春の大祭のことだ。街を春の花で飾って、露天なんかも並んでたと思うぜ。」

「・・・祭り、・・・・・露天。」

 何故でしょう・・・。こう、私の日本人としての魂をくすぐる物がありますね。

 ちょっと、わくわくします。

「あの、キースさん。」

「何だ、リク?」

「・・・・・あ。・・・・お、お夕飯は何にしましょうか?」

「・・・・・そうだな、一緒に考えるか。」

「・・・はい。」

 気付かれなかったでしょうか、思わず"行ってみたい"と言いそうになった私ですが、考えるまでもなくそれは難しいでしょう。もうすぐ1歳になるとはいえ、まだまだ幼いヘリオスは手がかかります。そんな状況で、我が儘を言う訳にはいきません。残念ですが、大きくなってからみんなで行けるようにお願いしましょう。 

 そんな風に考えていた私をキースさんが、じっと見つめていたことには気づかないのでした。



 そんな会話をした数日後、夕食の席でお師匠様達から予想外の話しが飛び出てきました。

 なんと、なんと、私の森の外デビューの話しです!!

「本当は、ほんっとうはっっ、あたしが一緒に行ってあげたいけど、ヘリオスのこともあるし、でも一人では世話は無理だからキースも一緒について行ってあげられないのよ・・・・・。

 すっごく不本意ではあるけれど、糞ガキと行ってきなさい。」

「でも・・・、良いんですか?」

 本当に不本意そうに話すお師匠様へ念を押すように確認してみます。ちなみに、不本意だと言われたシオンさんはお前に言われたくないとばかりに不満げに顔をしかめています。

「リク、お前は我が儘いわねえだろ?

 森の外に連れって欲しいとか、何が欲しいとかな。

 そんなお前が興味を示して、行きたそうにしたんだ。

 ここは、行かせてやらねえとな。」

「キースさん・・・。」

 どうやら、あの時の私の様子を見たキースさんがお師匠様を説得してくれたようです。

「心配しなくてもリクは僕が護るから問題ない。」

「・・・・・行き帰りは、あたしの転移の紋章魔術を使えば一瞬で移動できるしね。

 それにジェダイドも側にいれば、その糞ガキだけよりも遥かに安心できるわ。」

 お師匠様の言葉に二人の間で見えない火花が散っている気がします。

「3人ともありがとうございますっっ!!」

 そんな姿を無視して、私は3人へ向かって笑顔でお礼を言うのでした。こうして、私の王都デビューは決定したのです。




 王都の街並みは本当に美しい物でした。沢山の街の人達がみんな笑顔で歩いています。この世界に生まれて始めてみた、街の光景に私は感動を覚えました。

「リク、美しさに見とれるのは分かるが気をつけないとはぐれるぞ。」

「そうですね、シオンさん。手でも繋いでおきましょうか。」

 春祭りの影響でしょう、数多くの人が行き交うこの街では注意していてもはぐれてしまいそうです。ジェダも、人に踏みつぶされることがないようにシオンさんの肩へ避難しています。

 数十分後、露天を見たり、大道芸を見たりして楽しんでいた私達は見事にはぐれてしまいました・・・・・。


 はぐれたシオンさんを探そうと思っても、こんなに人が多ければどうしようもありません。せめて、もっと目立つ場所にいなければこれでは、さすがのシオンさんでも私を見つけることは出来ないでしょう。

 どうした物かと考えていると、表面上は優しげな顔をした男が私に話しかけてきました。

「お嬢ちゃん、どうしたんだい?

 もしかして、親とはぐれちゃったのかな?」

「・・・・・・。」

 私が不愉快そうに顔を歪めたのを、泣きそうになっているとでも思ったのでしょうか。

「おじさんはね、お嬢ちゃんの親から見つけて欲しいと頼まれたんだ。

 だから、大丈夫だよ。安心して付いておいで。あっちで待ってるからね。」

 指さした先は、暗い人気のなさそうな路地裏です。いかにもな手口にため息が出そうです。

「・・・・・私のお父さんですか?」

「そうだよ、お嬢ちゃん。さあ、行こう。」

 反応した私に獲物が引っかかったとでも思ったのか、私の手を握り路地裏に連れ込もうとします。そんな状況に嫌気がさしながら、大きく息を吸い込み、行動に移します。

「きゃぁぁぁぁーーーっっ!!!!

 誰かっ、助けてっっ!!この人に誘拐されるぅぅっっ!!!!!」

「なっ、くそっ?!」

 周囲の人達がざわめき、それに慌てた男は、表情を変えて私を無理矢理黙らせようとします。そんな姿は、他者から見れば立派な犯罪者に見えますよね。

 そんな誘拐犯の男を短い動作で、地面に押し倒し、動けないように押さえ込んだ"騎士団の人"がいました。


「やれやれ、小さくても女を無理強いしようなんざ男の風上にもおけねえな。」

 

 その十代半ばの少年は、この国の騎士団の紺色の制服に身を包み、燃え上がるような深紅の襟足まである髪と山吹色の瞳を持った端正な容姿の持ち主でした。



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