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異世界ナイチンゲールの奮闘記!!  作者: ぶるどっく
第3章 8歳児と銀狼の戦士。
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狼さんと倒れた彼女 その2。

《???》


「・・・二人に聞きたい。

 僕は高熱にうなされていたと聞いた。

 その時に、彼女は僕に何かしていなかったのか?」

『!!』

 僕は、彼女の熱を少しでも下げて楽にしてあげたかった。だが、僕にはどうすればいいのか分からなかった。

もっと、闘うことばかりでなく知識を増やしておくべきだったと過去の己の至らなさに後悔しながら二人に問いかける。僕が助けられた当初に高熱を出していたことは聞いていた。そんな僕を彼女は看病していたんだ。だったら、僕へした彼女の看病の中に何か手がかりがあるはずだ。

「氷りよ。」

「・・・だが、真夏のこの季節に、今すぐに手に入るものなのか?」

 冷やすという意味で氷りは確かに有効だろう。しかし、この真夏の季節にすぐに用意できるとは思えなかった。僕の言葉に女は鼻で笑って応える。

「ふんっ!無ければ作ればいいのよ!!」

「メリッサ!

 持ってきたぞっ、この桶の水を使え!」

 僕が女と話しをしている間に、質問をしたすぐ後に部屋より飛び出していった男が桶に水を汲んで、駆け込んでくると同時に女へ声をかける。

「"フリーズ"!」

 女は男の言葉を聞き終わる前にすでに呪文を唱え始めていた。力ある呪文の反応して魔力が集まり魔法が発動する。桶の中の水はたちまち凍り付き、大きな氷りの塊となる。その氷りの塊を男は小さく砕き始める。小さく砕かれた氷りは皮袋の中に小分けされて、彼女の身体に当てられていく。


 しかし、氷りを当てられた彼女の身体は徐々に震えが強くなっていく。その姿を見て、女は再び動揺し始める。

「なんで?何が違うの?それの時は、これで大丈夫だったのに・・・!」

「メリッサ・・・。」

 確かに、僕は身体が熱くて、熱くて仕方がなかった。熱くて、苦しい時に冷たい物を当ててくれていたのは、微かに覚えている。間違ってはいないはずだ。では、何が違う?僕と彼女の状況で何が違うんだっ!

 僕は考え続けるが答えが出ない。何も出来ない己が悔しくてたまらない。

 その時、彼女の側に犬?の守護者の方が側により震える彼女を暖めるように寄り添った。そんな守護者へ彼女も身体をすり寄せる。

「暖めるんだ・・・。そうだ、彼女は最初、高熱が出始めて寒さに震える僕に布団をかけてくれていた。」

「暖めるだと?今でも十分に身体が熱くて、苦しそうなのに、さらに暖めろと言うのか?」

 男の方が顔を歪めて僕の言葉を否定する。



 だが、僕も彼女の事を思えば退くことは出来ない。

「高熱に倒れていた始めの頃は、熱さよりも寒さの方が酷かったのを覚えてる。そんな僕に彼女は、寒くないように心を配ってくれていたのを微かに覚えているんだ。」

「・・・・・。」

男はまだ納得出来ないような微妙な顔をしている。

「・・・・・僕は彼女に助けられた。彼女を助けたいという思いに偽りなど無い。

 だが、僕を信用しろなどとは言うつもりもない。

 信用してもらえるほどの態度を示した覚えもないからな。」

 彼らの大切な彼女に関わることなのだから余計に疑われて、信用してもらえなくて当然なんだ。出自も名前すらも分からないような存在を無条件で信じて、生きて行くことが出来るような優しい世界では無いからな。そんな事、誰よりも僕は知っている。

 その上、彼女に対する僕の態度は酷い物があったことも自覚している。

「けれど、信じるに値する物を提示できない僕だが、どうか今は信じて欲しい。

 僕自身ではなく、彼女に助けられたこの命と、彼女が僕に与えた彼女の看病の方法を・・・・・。

 ・・・・・・・頼む。彼女を僕も助けたいんだ。」

 彼らに対して深く頭を下げる。ここまで。誰かを思って言葉を紡ぎ、頭を下げて頼み込むなど覚えている限りしたことなど無かった。

「……キース、他に方法は思いつかないわ。何もせずに見守るよりはましよ。…それを信じる訳ではないけど。」

「…ちっ、やってみるしかねえか。」

僕をまったく信用していない女の方が、男を促し動き始める。女の言葉に下げていた頭を上げて女を見て僕は素直に感謝を伝える。

「すまない、恩に着る。」

「いらないわ。あんたのためじゃないもの。

 あたしは、リクを助けたいから行動するだけ。それ、・・・お前を信じた訳じゃない。」

「・・・・・まあ、他の事はどうでもいいが、リクを助けたいということだけは信じてやるよ。」

 二人の言葉に、彼女の事を助けたいという気持ちだけは認めてくれた彼らに僕は再び頭を下げた。


 ・・・・・しかし、物には限度というものがあると思うんだが。

 女は彼女に山のように布団をかけはじめたため、僕と男は女を止めることの方が疲れるはめになるとは考えてもいなかった…。



 彼女を暖め始めて数時間がたった。男と女は、もう一人の赤子の世話も交代でしている。

 二人ともが彼女の側を離れる時は、必ず守護者たちへ目配せしてから部屋を出る。彼女を助けたいという気持ち以外信用されていないことは、百も承知している。彼女を看病する上で多少は欲しいとも思うが、助けたいという思いを信じてもらえただけで今は十分だ。

 彼女は少し前から暑がりはじめるようになった。僕は、彼女がしてくれていたように氷りをかえ、熱に(うな)される姿を見守るくらいしか出来なかった…。



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