狼さんと倒れた彼女 その1。
窓のカーテンの隙間より、うっすらと太陽の光りが差し込み始める。深い森の中に佇むこの家の周囲はまだ薄暗く、森に住む鳥たちさえもまだ微睡んでいる。
リクは、いつもより起きるのが少し遅くなってしまったと思いながら、重く感じる身体を引きずるように寝台より起き出した。一緒に目覚めた守護者達は、その動作がいつもより鈍いことに違和感を感じずにはいられなかった。2匹は心配するかのようにリクの側に寄り添うのであった。
狼さんが私の部屋を使うようになって、私は最初はお師匠様の部屋で一緒に眠っていました。ですが、お師匠様はリオと一緒に眠っているため、リオが夜泣きした場合は私も必然的に起きてしまう事になってしまいました。昼間は狼さんの看病もあり眠ることは出来ず、寝不足になってしまった私を見たキースさんが、自分が使っている客室を私に与え、キースさんがお師匠様と一緒に眠ることを提案しました。最初は嫌がっていたお師匠様も、私のためだというキースさんの説得に負けて渋々了承してくれました。
そのおかげで、寝不足も解消されて体調も悪くないはずなのです。でも、なんだか今日は身体が重いというか、頭もぼうっとします。ジェダとあーやんも私を心配してくれているのでしょう。部屋を出てキッチンへ歩いて行く私の側を離れようとはしません。そんな2匹の姿を嬉しく思いながらも、急速に私の意識は闇に包まれていくのでした。
《???》
彼女と走り込みを開始する時間に間に合うように、いつも通りの朝を迎え僕は寝台より起き出した。背中の傷は、ほとんど塞がりあと数日もしないうちに完治する程度となった。そのことを、最近の僕は彼女には申し訳ないが残念に思ってしまう。
自分の心の変わりように苦笑しながら、部屋を出てキッチンの方へ向かう。いつも通りならば彼女も起きてキッチンにいる時間であるはずが、その姿はまだ見当たらなかった。まだ短期間しか一緒に過ごしてはいないが、彼女が僕より先に起きていないことは無かった。だからこそ、体調でも悪いのかと不安がよぎる。
数分も待つことなく、すぐに彼女はキッチンへ姿を現した。ただの杞憂かと一瞬は考えたが、すぐにその考えを改めることとなる。
現れた彼女の足取りは何処か覚束無いうえに、表情もぼうっとしている。彼女の2匹の守護者達も彼女のいつもと違う様子に側に寄り添い離れようとはしないでいる。
僕が彼女に声をかけようとした瞬間、彼女の身体から力が抜け、ゆっくりと後ろへ傾き始める。僕は、その様子を頭で理解するよりも先に駆けだし、彼女の小さな身体を地面に倒れる前に支え、僕の胸に抱えるように両手で抱き留める。
僕の腕の中に、力なくその身を任せる彼女の身体は信じられないほどの熱を宿していた。
意識を失った彼女を抱き留めた後は、とても大変だった。
彼女を僕が使っていた寝台へ寝かせて、彼女の家族である男と女を呼びに行った。彼女が倒れたことを伝えると、女は凄い速さで彼女の寝ている寝台へと急行した。
「リクっ、リクっっ、・・・・リク・・・。
嘘よっ!しっかりしてっ!!やだやだ、答えてよぉ・・・。」
女の後を追うように男と一緒に彼女のいる寝台へと足早に向かう。
高熱のせいで顔を真っ赤にして、額には玉のような汗を浮かべる彼女の両頬を両手で包み、涙を流しながら彼女に縋り付く女の姿があった。
「リク・・・、くそっ。
とりあえず落ち着け、メリッサ!」
「落ち着けるはずがないでしょうっ!!
リクが、・・・リクがこんなに苦しそうなのにっ!!」
金色の眼から涙を流し、彼女から離れようとしない女を苦渋の決断をするように男が諫め始める。涙を流す女は、男の言葉を否定し、何故彼女の側から離そうとするのかと非難するように叫び返す。
「分かってるっ!
だが、泣いても、縋っても、状況はかわらねえっ!!
今は、リクが少しでも元気になるように出来ることをすべきだろうがっ!!」
「っっ!
・・・・・ごめんなさい、あたしとしたことが取り乱したわ。」
男の言葉に女は落ち着きを取り戻したようだ。僕はそんな彼らをよそに、彼女の高熱をどうすれば下げることが出来るのかを考え続けていた。




