キース・アズノルクと破壊魔の夜の酒盛り。
《キース・アズノルク》
--最悪だ・・・。俺は、何をムキになってガキに八つ当たりしてやがる。
俺は、最悪な気分で一人家の前の塀に座り酒を飲んでいた。
八つ当たりした後、おじょーちゃんは特に何も言う訳でもなくいつも通りの態度で接してきた。俺の方が罪悪感でぎこちない態度になっちまった。夜空に浮かぶ星々は憎ったらしいほどに、美しく輝いている。その輝きは、おじょーちゃんの真っ直ぐさを思い出させ、余計にいたたまれない気持ちにさせる。そんなおじょーちゃんの影から逃げるように、酒をあおる俺の背後から近づいてくる気配が一人。
「・・・・・珍しいじゃねぇか。
傷心の俺を慰めにでも来てくれたのか?」
「馬鹿な事を言わないでくれる?
そんな無駄な時間は無いわ。リクに負けて泣いている無様な姿を見に来ただけよ。」
酒瓶を片手にやってきたのは、俺が破壊魔と呼ぶ"破壊の魔女"メリッサ・エキザルトだった。
「ひでぇ言い様だな。」
いつもなら、もっと言い返すんだが自己嫌悪に陥っている俺にはそんな元気はなかった。それがわかっているのか、俺から少し距離を開けて塀の上に座った破壊魔はそれ以上何も語ることなく静かに酒を飲み始める。
数分か、数十分か・・・。時間が過ぎ去った頃に破壊魔は静かに口を開いた。
「・・・これは、独り言よ。」
「あぁ?」
口を開いたかと思えば、突然妙なことを口走る。破壊魔は俺の反応を無視して言葉を重ねる。
「約5年前、この辺りを散歩していたあたしの耳に鳴き声が聞こえた。
良い気分で散歩していたあたしを不快にさせた原因をぶちのめそうと、
鳴き声が聞こえている方向へ歩いて行けば、小さな汚い木箱が数匹のゴブリンに囲まれていた。
その中から原因の鳴き声が聞こえたわ。さっさとゴブリンを始末して、箱を覗いてみたの。
その汚い木箱の中に、襤褸布を巻かれて泣いていた生後1歳にも満たない赤子が"リク"だった。
・・・あたしは子どもが嫌い。魔力が強いあたしを本能的に怯え、否定して、泣くから。
でも、いつもと同じように泣くだろうと思った赤子のあの子は違った。
赤子なら本能的に怯えるはずのあたしを見ても、触っても、抱き上げても、決して泣かなかった。
そればかりか、抱き上げた私を見て笑ったの。」
過去を語る破壊魔は懐かしそうに眼を細めている。
「・・・・・あの子はね、理解しているわ。
自分があたしに拾われた捨て子だったことも、どうして捨てられたのか理由も予想している。
拾ったあの子は順調に育てば有るはずの体重よりも少なくて、小柄だった。
身体も弱かったのかもしれないわね・・・・・。
おそらく、それが理由で捨てられた。病魔だなんだという教会の教えの通りに。」
その言葉を最後に破壊魔は口を閉じた。
俺は愕然とした気持ちと、これ以上無いほどの罪悪感で満たされた。
--あの子どもは、知っていたんだ・・・。わかっていたんだっっ!!
この世界が残酷なことも、弱い立場であればあるほど奪われるということも。
わかった上で俺の言葉を否定せずに、受け止め、受け入れていた。
--最悪じゃねぇか、勝手に決めつけて、おじょーちゃんの事をわかってなかったのは俺の方じゃねえか・・・・・。
自分の幼い少女に投げつけた悪意のある言葉の数々に本気で後悔する。項垂れている俺に破壊魔は、言葉を続けた。
「これも独り言だけど、リクはお人好しよ。本気で謝れば大抵の事は許しちゃうもの。
だから、普通に謝れば大丈夫だと思うけどね。まあ、独り言だからあんたには関係ないけどっ!」
そっぽを向きながらも、俺を慰めようとしているのか素直じゃない彼女の言葉に苦笑しちまう。
「・・・これも独り言だが、有りがとな。」
感謝の言葉を返しながら決意する。たとえ、おじょーちゃんに許してもらえなくても謝ることを。




