キース・アズノルクと5歳児その2。
《キース・アズノルク》
あの破壊魔をまっすぐに見つめて、諦めることなく、もう一度修行をつけてくれと言った、おじょーちゃんは一週間経った今でも全く発動する気配すら見せない自分の魔法へ弱音を吐くこともせずに修行を続けている。呆れちまうほどに真っ直ぐなその姿は俺には眩しすぎる。
そんな姿を見たくなけりゃぁ、さっさとこの家から退散しちまえばいい。でもな、もし俺が出て行けばおじょーちゃんは修行も炊事も全部頑張ろうとして倒れちまうんじゃ無いかと思うと、心配になっちまう。まったく、損な性分だぜ・・・。
けど俺も人間だ、複雑な感情がある。馬鹿みてぇに頑張るおじょーちゃんのその姿に苛立ちを覚えるのも確かだ。俺から見ておじょーちゃんは人間の醜さも、残酷さも知らねぇように見える。綺麗なものしか知らないであろう、その心や姿は俺の可逆心を刺激するには十分だった。その薄汚ねぇ感情は、日を追うごとに俺の心を黒く染めていきやがる。
--さっさと、諦めて、泣きついちまえばいい・・・。
そんな考えが頭に浮かぶ。毎日の昼間の修行後に日課になっている昼寝を終えて、まだ眠そうな眼をこすりながら起きてきたおじょーちゃんへ俺は背中を向けて悪意を含んだ言葉をかけた。
「・・・おじょーちゃんは、笑っちまうほどに俺から見れば魔法も、剣や弓なんかも才能がねぇぜ。
一生懸命頑張ったところで、人並み以上にできるようになるとは思えねーけどな?
さっさと諦めて、あいつの世話でもしている方がまだましだと思うぜ。」
・・・・・言葉にしてから俺は後悔した。大人が5歳の子どもに言う言葉じゃあ無かった。けれど、謝ればおじょーちゃんの行動を認めちまうようで、謝ることも出来無かった。
しばらく俺も、おじょーちゃんも黙っていた。さすがのおじょーちゃんも、静かに泣いているかもしれないという事に気がついた俺はおじょーちゃんを視界に映すために振り向いた。
けれどそこには俺が考えていた静かに泣いているおじょーちゃんの姿は無かった。
おじょーちゃんは、泣くこともせず、まして怒る訳でもなく静かに俺を見つめていた。
「・・・心配してくれてありがとうございます。
でも、大丈夫です。私も自分に全く才能が無いことはわかってますから。」
おじょーちゃんは、自分に才能が無いことを否定することも、嘆くことも無く、肯定して見せた。他のガキなら強がりを言っていると思ったかもしれねぇが、おじょーちゃんは凪いだ水面のように静かな表情で俺に微笑みかけた。
「・・・・・強がりか?
おじょーちゃんは、この森の中の狭い世界しか知らねぇもんな。
いいか、この世界は残酷だ。
たとえ、強い奴でも汚ねぇ手を使われて殺されることのある世界だ。
おじょーちゃんみたいに弱ければなおさらだな。
それ以外にも、自分勝手な理由で他人の大切な"人"を奪う奴もいる。
おじょーちゃんみたいな才能もねぇ、お人好しな奴はすぐに奪われるだけなんだよっっ!!」
最後はまるで自分の気持ちを叫ぶように言ってしまう。
--違う、こんな事が言いたかった訳じゃねぇっ。
すでに自分が目の前の幼い少女に何を言っているのかわからなくなってしまった。
口を開けば余計なことを言ってしまいそうで、だんまりを決め込んだ俺におじょーちゃんは静かに語りかけてくる。
「そうかもしれません。
弱い私は、居場所を失いました。
弱いからどんなに願ってもできない事があります。
・・・でも、たとえ無駄であったとしても前を向いて、少しでも努力するしかないんです。
努力しても変わらないこともあります。大人になっても変わらないかもしれません。
でも、今は信じて努力するしか無いんだと思います。
幼い私には、選べる選択肢は少なすぎるんですから・・・・・。」
そう言ったおじょーちゃんは、唇を噛みしめ、溢れそうになる涙を必死に堪えていた。




