閑話 5歳児の胸中と厳しい言葉。
「・・・おじょーちゃんは、笑っちまうほどに俺から見れば魔法も、剣や弓なんかも才能がねぇぜ。
一生懸命頑張ったところで、人並み以上にできるようになるとは思えねーけどな?
さっさと諦めて、あいつの世話でもしている方がまだましだと思うぜ。」
キースさんに投げつけられたその言葉に一瞬目の前が真っ赤に染まりました。
"そんなこと私が一番知っていますっっ!"
思わず叫び返しそうになった言葉は、唇を噛みしめることで消し去りました。
私は毎日の修行を欠かすことなく続けています。しかし、その成果は現れる気配すら有りません。ですから、キースさんに投げつけられた言葉を否定することは今の私には許されません。どんなに努力をしても、結果が付いてこなければ出来ていないことに代わり有りません。否定したければ、まずは結果を出すことが最低条件です。
たとえばの話しです。前世において、専門職である看護師の服を着ていれば患者さんや家族の方達にとって、その看護師が新人でも、玄人でも看護技術に経験の差はあれど、できて当たり前と考えられます。だからこそ、できない事は努力して出来るようになることが当たり前なんです。
この世界においても、社会人として当たり前に考えていた事の意味合いはあまり変わらないと思います。だって、この世界で身を守る術を得ることが出来無いということは命の危険が身に迫った時に怪我や死ぬ以外の選択肢は無いということなのですから。
それを思えば、キースさんが私に厳しい言葉をかけるのは当然です。
「・・・心配してくれてありがとうございます。
でも、大丈夫です。私も自分に全く才能が無いことはわかってますから。」
だから、たとえ一瞬であったとしてもキースさんの言葉に怒りを感じた己自身を恥じます。己の不甲斐なさを言い訳することなく、受け止めてみせると言わんばかりにキースさんへ微笑んで見せます。
「・・・・・強がりか?
おじょーちゃんは、この森の中の狭い世界しか知らねぇもんな。
いいか、この世界は残酷だ。
たとえ、強い奴でも汚ねぇ手を使われて殺されることのある世界だ。
おじょーちゃんみたいに弱ければなおさらだな。
それ以外にも、自分勝手な理由で他人の大切な"人"を奪う奴もいる。
おじょーちゃんみたいな才能もねぇ、お人好しな奴はすぐに奪われるだけなんだよっっ!!」
・・・・・世界が残酷なことなど"あの日"から知っています。
幼く弱い私は、勝手な大人達の理由で家族と一緒に過ごすはずだった時間と居場所を奪われました。あれから、5年が過ぎましたが私の身体は変わらず弱いままです。ですが、奪われた替わりに得た時間と居場所は私の精神面を確実に強くしたと思います。だから、いままでの時間は無駄ではなかったし、これからも無駄になることはないでしょう。だからこそ、言えることがあります。
「そうかもしれません。
弱い私は、居場所を失いました。
弱いからどんなに願ってもできない事があります。
・・・でも、たとえ無駄であったとしても前を向いて、少しでも努力するしかないんです。
努力しても変わらないこともあります。大人になっても変わらないかもしれません。
でも、今は信じるしか無いんだと思います。
幼い私には、選べる選択肢は少なすぎるんですから・・・・・。」
選べる数少ない選択肢のなかで、自分が選んだ道を信じて前を向き突き進んでいく。
その先にあるのは、最悪な未来かもしれません。でも、今はまだ将来の事なんて誰にもわかりませんよね?それならば、まだ遠い未来よりも私は今を懸命に生きていきたいと思います。
苦しそうに厳しい言葉を私へ突きつけるキースさんに、心の何処かで傷つきながらも負けてなるものかという思いを込めて、唇を噛みしめ、溢れそうになる涙を必死に気がつかない振りをして見せました。




