キース・アズノルクと5歳児その1。
《キース・アズノルク》
ずっと感じていたんだが、あの破壊魔と一緒に住んでるあのおじょーちゃんは色々と頑張り過ぎじゃね-か?
普通に考えて家事全般をする5歳児がいるとは思えねー。俺がガキの頃はもっとこう、小さな村だったから確かに家の手伝いくらいはしたが手のかかる悪ガキだったし、遊んでることも多かったと思うぜ?それを思えば、あのおじょーちゃんは我が儘は言わねーし、どっちかつーと破壊魔の世話をしてやがる。朝食でも、説教してたからな。・・・あの破壊魔が涙目になって大人しく5歳児に説教されている姿は笑いを通り越して気持ち悪かったぜ。記憶の中の破壊魔は、傲岸不遜な態度で気に入らないことがあれば得意の攻撃魔法をぶっ放すような奴だったからな。自分の目で見ていなけりゃあ、全く信じなかったな。ぜってーに。
破壊魔がおじょーちゃんに魔法を教えるんだと、張り切って2人で庭に出て行った。俺も特にすることはね-から距離を取って観察する。俺は普通の奴よりも多少多い魔力はあるが魔法使いを名乗れるほどじゃあねー。だから、あのおじょーちゃんにどれだけの魔力が秘められているのかはわからん。けどよ、あの破壊魔が弟子にするくらいだぜ?すげ-魔力を秘めているんだと思うよな?少なくとも俺はそう思ってたんだよ。
あのおじょーちゃんが力ある言葉を口にする瞬間までは・・・。
まぁ、そのな、なんつっていーか・・・。
結論を言えば魔法は失敗した。一般人でも使える奴が多い初歩の魔法だったんだが発動すらしなかった。その後に破壊魔が教えようとした剣術、弓術を教えていたみてーだが・・・才能以前の話しだったぜ、ありゃあな。剣の握り方を教えて素振りさせてみれば、手からすっぽ抜けて飛んでいく。弓の持ち方を教え、的に見立てた案山子を射ろうとすれば違う方向に飛んでいく。走らせれば何も無いところで転んじまうしな・・・。まるで、一種の呪いだと考えちまうほどに才能がねー。
おじょーちゃんは、5歳児にしちゃあ頭が良いみてえだから自分でも理解しちまったんだろうな。影を背負って自分の部屋の片隅で体育座りして落ち込んでやがる。
「・・・・・・(ずーん)。」
「リク、リク、そんなに落ち込まないで・・・。
えーっとっ、そうよ、誰だって最初から成功なんてしないわ?ね、元気出して?」
おじょーちゃんを励まそうと破壊魔が一生懸命慰めている姿が気持ちわりぃ。でもよ、前は違うこと言ってなかったか?
「・・・よくゆーぜ、前は発動できなかった奴に対して、
"能なしが、あたしの貴重な時間を無駄にさせないでちょうだい"とか言ってなかったか?」
「・・・・・・・・・・(ずずずーん)。」
「あんたはっ、黙ってなさいっっ!
いやぁっ!!リクっ、リクに対してそんな事砂粒ほども思ってないからっっ!!!」
破壊魔の言葉に思わず突っ込んじまった。おじょーちゃんをさらに落ち込ませちまって、わりぃ事したな。・・・基本的に俺は人のことに口を突っ込むのは好きじゃねー。俺自身も仲間ならまだ良いが他人に指図されるのは嫌いだ。踏み込んで欲しくねぇ領域もある。だけどな、今の破壊魔の姿を見ていると口に出した方が良いんじゃねぇかと思っちまうことがある。
破壊魔のおじょーちゃんに対する態度だ。俺の認識としてのこいつは、基本的に人間に興味がねぇ奴だった。執着が無いとも言える。多分、仲間だった奴のことはある程度認めているが、それ以外への人間への線引きは至極単純明快だ。こいつにとって仲間以外は雑草と同じ。こいつを不快にさせなければ有っても、無くても同じ物。
そんなこいつがおじょーちゃんに対してはどうだ?まるで、構って欲しくてしかたがねえ"犬"だ。おじょーちゃんに興味を持つものや、関わろうとするもの全てに威嚇して自分の側から離さねぇ・・・。この2日しか二人を観察していねぇが、わからないはずがねぇほどに言動に現れてやがる。
破壊魔は魔法の才能に溢れた天才だ。おじょーちゃんくらいの頃には魔法は使えたんだろうな。けどよ?ここまで大切にしているおじょーちゃんに魔法を教えるのはまだわかる。だが、剣術や弓術を教えるには早すぎる。
そこまで、考えた俺は嫌な予感で胸が一杯になった。破壊魔の考えが読めてしまったからだ。
破壊魔は成功しようが、失敗しようが、どっちでも良いんだ。おそらく、失敗したおじょーちゃんの心が折れるのを待ってやがるんだ。優しい慰めの言葉を言いながら、本心ではおじょーちゃんの心が自分の庇護下に入るのを待っている。まるで、肉食動物が獲物を狙うように気配を消して、身を潜めて絶好の機会を待つように・・・。
俺は、どうするべきか迷ったが口を出すことに決めた。目の前のまだ幼い少女の未来を潰さないためにも。
けれど、俺のそんな考えは杞憂に終わった。他ならぬ幼い少女自身の手によって・・・。
うつむいていた顔を上げ、破壊魔を真っ直ぐに見つめる力強い意志の宿った、燃え上がるように輝く紫水晶の瞳のまえに。
いつも読んで頂きありがとうございます。
先日、ブックマークが20人を超えました。正直驚きました。読んでくれている人がこんなにいるのかと・・・。読んで頂いている方々に心より感謝しています。
これからも頑張って書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。