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『みるくラテ』〜人見知り独身の私、ドラマの恋に憧れてたら……チワワと〇〇で異世界を無双していました。  作者: 日和
第一章

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第五話 震える勇気

 ぼくの名前は、ラテ。


 チワワで、みるくの唯一の家族。


 そして、みるくを幸せにするために存在している。


 みるくは、やさしい。


 やさしすぎるくらいに、やさしい。


 だから利用される。


 さっきの女性たちみたいに。


 笑って、近づいてきて、やさしい言葉を使って、気づかないうちに、奪おうとする。


(……ああいうの、いっぱい見てきたよ)


 世界がどうとか、時代がどうとか、関係ない。


 やさしい人が損をする構造は、どこにでもある。


 だから、ぼくがいる。



 村長の家の中は、静かだった。


 木の香りと、薄い灯り。

 外の風の音。


 みるくは、湯気の立つお茶を両手で包みながら、小さく息をついている。


 少しだけ、安心した顔。


 それを壊したくない。


 ぼくは床に座ったまま、ゆっくりと鼻を動かす。


 においを探る。


 人のにおい。

 恐怖のにおい。

 そして――


(……まだあるね)


 消えきっていない“黒いにおい”。


 さっき倒れた二人とは別。

 もっと粗くて、隠す気もない悪意。


 静寂を破るように、外から、乱暴な足音。


 次いで――


「おい!! いるんだろう!!」


 怒鳴り声。


 空気が、一瞬で変わる。


 みるくの肩が、小さく震えた。


 扉が乱暴に開かれ、入ってきたのは、三人の男たちだった。


 粗末な鎧に、剥き出しの敵意。


「約束が違うじゃねぇか、村長」


 苛立った声。


「女を渡すって話だったろうが」


 みるくの視線が、ゆっくりと村長へ向く。


 ぼくも、同じ方向を見る。


「なんでこの二人は逃がそうとしてたんだ!」


 そう言って、扉の前で倒れている夫婦を示した。


 村長は、一瞬だけ言葉に詰まった。


(あれ?その二人は何か企んでたんじゃないの?)


「……その話は、もうやめました」


 村長が、静かに言った。


 男の眉が、ぴくりと動く。


「はぁ?」


「この人は、関係のない人です。巻き込むべきではありません」


 言葉は落ち着いている。

 でも、その手は、わずかに震えていた。


 恐れている。


 みるくが、戸惑った声を出す。


「……どういう、ことですか……?」


 誰もすぐには答えなかった。


 空気が重い。


 沈黙を破ったのは村長だった。


「……話すわ」


 覚悟を決めた声だった。


「この村の北には、魔物の巣があるの」


 みるくの瞳が揺れる。


「定期的に、村に降りてきて、若い娘を攫っていくの」


 息を呑む音。


「抵抗したわ。何度も。だけど……無理だった」


 村人の一人が、拳を握る。


「だから……あるときから、差し出すようになったの」


 静かに、残酷な言葉が落ちる。


「一人、差し出せば……しばらくは襲われない」


 みるくの呼吸が、止まる。


「そんな……」


「最低だと思うよね?」


 村長が、真っ直ぐにみるくを見る。


「え……」


「思ってよ。それが正しいから」


 でも、と続ける。


「この村の人々を守るためには、それしかなかった」


 その言葉に、誰も反論しなかった。


 できなかった。


「……だから、私を……?」


 みるくの声は、小さかった。


 責めるでもなく、ただ確認するような声音。


 村長は目を伏せた。


「……最初は、そのつもりだった」


 はっきりと、認めた。


「外から来た、身寄りのない人。いなくなっても問題にならない」


 自分たちの村が優先。


 村民を守る為の、その言葉は正しいのかもしれない。


 だからこその葛藤。


「でも」


 村長は、もう一度みるくを見る。


「あなたの顔を見て……やめた」


 その声は、かすかに震えていた。


「あなた、まだ若いのに、きっと……人の犠牲になってばかりだったでしょ」


 みるくは驚いて村長の顔を見た。

(若くは……ないですけど……)


「分かるの……あなたは優しい目をしている。さっきの病人の世話の話をした時に分かったわ」


「そんな人を犠牲にしたら、この村は……もう終わってしまうと思った」


「人として、完全に」


 重く、長い沈黙があった。


(……ああ)


 ぼくは、少しだけ思う。


(この村長は、完全な悪じゃないんだね)


 だから厄介だ。


 だから、救う必要がある。


 みるくが、一歩前に出た。


 震えている。


 でも、勇気を振り絞っている。


「……その人」


 ぽつりと、呟く。


「右足……大丈夫ですか?」


「は?」


 男が顔をしかめる。


 みるくの目は、まっすぐだった。


「さっき、裏で転んだときに……強く打ってるはずです」


 空気が変わる。


 ざわ、と揺れる。


「だから、私に近づくと、転びます」


 男が、苛立ったように踏み出す。


 一歩。

 二歩。


 そして三歩目で、派手に転んだ。


「なっ――!?」


 みるくは、怖いはずなのに続ける。


「あと……」


 視線が別の男に向く。


「あなたは、左に注意したほうがいいです」


 男が、咄嗟に構える。


 次の瞬間、背後で誰かが動き、男の左からぶつかった。


 体勢が崩れて床に倒れ込む。


 男たちは、顔を引きつらせた。


「……なんだ、こいつ……」


 理解できないものへの恐怖が全身を支配する。


「……くそっ!」


 男たちは捨て台詞を吐いて、逃げ出していった。


「……え……?」


 みるくが、自分の手を見る。


「……なに、いまの……」


 自分のした事が理解できていない。


 ぼくは、そっと近づく。


「きゅん」


 みるくが、はっとしてぼくを見る。


「……ラテ……」


 その顔が、少しだけ安心する。


(うん、みるくも何かの能力をもらったんだね)


 やさしい人が、損をする世界。


 でも、その“やさしさ”が、最適解になるなら。


(みるくは、もう負けない)


 だって……みるくは、震えながらも一歩前に踏み出す事ができたから。


 ぼくは、その隣で全力で守るよ。


 それが、ぼくの、しあわせのつくり方だから。

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