第十三話 血に染まる
洞窟の空気が、わずかに揺れた。
その瞬間みるくの視界が歪む。
世界が、二重に重なる。
「……え……?」
足元が、崩れるような感覚がした。
みるくの脳裏に経験した事のない誰かの記憶が流れ込んできた。
⸻
暗い洞窟。
今いる同じ場所。
だけど、今より壁も地面も綺麗だった。
そして縄で縛られた一人の少女がいた。
若く美しい。
まだ幼さの残る顔が、涙でぐしゃぐしゃになっている。
「……やめて……」
かすれた声で懇願する。
その前に立つのは、まだ人だった頃のレヴァン。
紳士のように落ち着き、整った顔だが、目だけが冷たかった。
「安心しろ」
静かに言う。
「これは、進化のためだ」
少女の言葉は、もう届いていない。
“人”として見ていない。
ただの材料。
ただの“血”。
刃が、振り下ろされ、縄をされたまま、服が剥ぎ取られる。
上着も下着も全て切り裂かれ、一糸纏わぬ姿となる。
少女は恥じらいよりも恐怖で体が震えて床に倒れ込む。
レヴァンは頭を掴み少女の初めてを奪う。
涙と血と脱力で無気力となった少女に刃を振り下ろす。
一瞬で血が噴き出し、魔法陣が脈打った。
そして光が歪んだ。
⸻
「……っ!」
みるくが現実に戻る。
手が震えている。
「……見えたのか?」
グレンの声が遠く感じる。
みるくは、かすれる声で言う。
「……この人……」
レヴァンを見る。
「……何度も……やってる……」
洞窟の空気が、さらに重くなる。
レヴァンは、ゆっくりと笑った。
「……なるほど」
興味深そうに、みるくを見た。
「やはり、ただの娘ではないな」
その目が、わずかに輝く。
「見たのか?」
みるくは、何も言えない。
ただ、震えている。
「美しいだろう?」
レヴァンが言う。
「進化の過程だ」
ラテの目が、すっと細くなる。
(……ダメだね、この人)
しっぽが、ゆらりと揺れた。
「その娘」
レヴァンが指を向ける。
「いい素材だ」
空気が、凍る。
「やめろ」
グレンの声が怒りに震える。
だが。
レヴァンは止まらない。
「これまでのどの犠牲よりも、質がいい」
にやり、と笑う。
「最高の進化が期待できるぞ」
その瞬間。
「きゅん」
ラテが前に出た。
(もういいよね)
(ちょっと本気出すね)
次の瞬間。
レヴァンの笑みが、初めて止まった。




