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『みるくラテ』〜人見知り独身の私、ドラマの恋に憧れてたら……チワワと〇〇で異世界を無双していました。  作者: 日和
第一章

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第十話 洞窟前線と転職陣

 洞窟の奥から響く、低い唸り声。


 それは、今までの相手とは比べ物にならない大物の気配であり、この場にいる全員の背筋を、無言でなぞるような圧を持っていた。


 けれど、まずは目の前だ。


 岩陰の向こうで、何かが動いた。


 ぬらり、と。


 地面を擦るような音。


「……来るぞ」


 グレンは小声で囁く。


 直後に影が跳ねた。


 四足の小動物?


 だが、その関節は逆向きに折れ曲がり、筋肉は不自然に膨張している。


 口は裂け、牙が外へと剥き出しになっていた。


 門番とは別種の魔物。


 速い。


「っ!」


 エルナが一歩後退りする。


 みるくの心臓が跳ねる。


(……速い……!)


 でも。


 視界が、また揺れた。


 魔物の軌道。

 踏み込み。

 着地点。


(……分かる)


「左に!避けて!」


 自分でも驚くほど自然に、声が出た。


 その瞬間、全員が動く。


 直後。


 魔物が、さっきまでいた場所を噛み砕いた。


 岩が砕け、破片が飛び散る。


「……おいおい、破壊力ありすぎだろ」


 グレンが息を呑む。


「今の……見えてたのか?」


「……はい……たぶん……」


 本人が一番信じていない顔だった。


 だが、現実は明確だ。


 避けれる。


 しかも、余裕を持って。


「ラテ!」


「きゅん」


 小さな返事。


 次の瞬間、ラテの姿が消えた。


 ――ドンッ!!


 鈍い音。


 魔物の体が、横へと吹き飛ぶ。


 岩壁に叩きつけられ、ひびが走る。


 ラテは、着地して小さく首をかしげる。


(さっきよりはちょっと強いね)


 しっぽが、ふわりと揺れる。


 そのとき。


 魔物が、立ち上がった。


 骨が軋む音を響かせながら再生する。


「……しぶといな」


 グレンが顔をしかめる。


「普通の魔物じゃない」


 エルナも頷く。


「巣窟に近いほど、()()()の影響を受けるのね……」


 ラテは、じっと見つめる。


(ちょっとだけ、面倒かも)


 ほんの少しだけ、考える。


 その隙に魔物が消えた。


「っ!?」


 次の瞬間、みるくの背後に現れる。


(後ろ!!来る!)


「しゃがんで!」


 エルナが叫ぶ前に、自分でしゃがむ。


 同時に、ラテが動く。


 ――バチンッ!!


 空気が弾けた。


 見えない何かが、魔物の進行を止めていた。


 そのまま。


 ぎり、と押し返す。


(……危ないなぁ、もう)


 ラテが、ほんの少しだけ目を細める。


(みるくに当たったらダメでしょ)


 次の瞬間。


 魔物の体が、ぐしゃりと押し潰された。


 ――が。


 まだ、動く。


「……え、まだ生きてるの……?」


 みるくの声が震える。


(あ、やっぱり)


 ラテは、小さくため息をついた。


(手加減するとダメなやつだ)


 そのときだった。


「グレン、あれ!」


 エルナが指さす。


 洞窟の壁。


 苔のように見えたそれが、淡く光っていた。


「……魔法陣?」


 グレンが眉をひそめる。


 古い。

 だが、強い魔力を放っていた。


「転職陣……?」


 エルナが呟く。


「こんなところに……?」


 みるくが振り返る。


「転職……?」


「本来は、王都の神殿にしかないはずのものよ……これが()()()の目的だったのね……」


 エルナの声は、明らかに驚いていた。


 だが、その瞬間。


 魔物が、再び動く。


「来るぞ!」


 グレンが叫ぶ。


 だが――


 次の瞬間、足を滑らせた。


「うおっ!?」


 見事に転ぶ。


 しかも顔面から。


「グレン!?」


「だ、大丈夫だ……!」


 起き上がろうとして、また滑る。


 完全にコントだった。


 緊張感が、一瞬だけ崩れる。


(……あの人、たまにドジだよね)


 ラテが、ちょっとだけ呆れる。


 だが、その予期せぬ動きが、魔物を戸惑わせて、逆に時間を生んだ。


 みるくの視界が、再び揺れる。


(……今)


 魔物の動き。


 再生の癖。


 わずかな“止まり”。


「ラテ、右!」


「きゅん」


 ラテが跳ぶ。


 魔物の側面へ。


 その瞬間。


 みるくの中で、何かが“繋がった”。


(……ここ)


「そこ、止まる!」


 ラテが、ぴたりと動きを合わせる。


 ――ギンッ!!


 空間が、硬質な音を立てた。


 見えない力が、魔物の“核”を捕らえる。


(見えた)


(そこが、中心)


 ラテが、ほんの少しだけ笑う。


(いいね、みるく)


 ――パキン。


 今度こそ。


 魔物の体が、崩れた。


 再生する間もなく、完全に沈黙した。


「……はぁ……」


 みるくが、その場にへたり込む。


 手が震えている。


「……怖かった……」


 素直な言葉。


 でも、その目は、逃げていなかった。


 グレンが立ち上がる。


 少し土まみれになりながら。


「……今の連携」


 ラテを見る。


 次に、みるくを見る。


「息ぴったりだったな」


 エルナも頷く。


「みるくちゃんの“予測”と、ラテちゃんの力が噛み合ってる」


 みるくは、戸惑いながらラテを見る。


「……ラテ、すごいね」


「きゅん」


(まあね)


 ドヤ顔っぽい仕草。


 でも次の瞬間、ぺろっと舌を出す。


 しっぽが、ちょっとだけ控えめに揺れる。


 洞窟の奥。


 “あいつ”の気配は、さらに濃くなっていた。


 グレンが、静かに言う。


「……ここから先が本番だ」


 エルナも、頷く。


 そして、ちらりと壁の魔法陣を見る。


「……あれ、使えたら」


 言いかけて、やめる。


 でも、可能性はある。


 みるくが、立ち上がる。


 足は震えている。


 それでも。


「……行きましょう」


 一歩、踏み出す。


 その背中は、昨日よりも確かに強かった。


 ラテが、その隣に並ぶ。


(うん)


(今回は、間違えずに、みんな守るからね)


 小さな守護者は、静かに牙を研ぐ。


 その奥で待つ“あいつ”へ向けて。

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