時空を超える魔女
「君たち。
悪いがシェルター内には入らないでくれるか?」
「ああ、別にいいですよ。
自分の身は自分で守れますし。」
「俺もなんか申し訳ねえし。」
「そ、そうか。
すまない。」
そう言って頭を下げる彼は後藤というらしい。
しかし、どうしたものか。
モンスターは問題ないとしても寝床はほしい。
どこか適当に空き家を探すか?
とは言ってもガノンが寝れるようなとこあるんだろうか。
そんなことを考えていると、ガノンが顔を覗き込んできた。
「ん?」
「あ、いや。
どうせ俺の寝床のことでも考えてるだろうと思って、俺は地面で寝ても平気だぞ?」
そう言って体を自慢するガノン。
こいつエスパーか?
そんなにシェルターから離れないほうがいいか。
そんなことを考えながら辺りを見回す。
どこもかしこもボロボロでよく見れば血痕もちらほら見受けられる。
今までに何があったのか、簡単に想像できる。
この世界は必要か、ねえ。
「ははっ。」
申し訳ないけど、僕は今最高の気分だ。
力を持った人間と持たない人間。
今まではずっと持たない側だった。
それがどうだ、一瞬にして立場は逆転した。
もちろん自分のせいでこうなったのだから多少の罪悪感はある。
あるんだけど。
「おい、ドルフ。
何か聞こえないか?」
「ん?」
言われて気づいた。
微かに何か鳴き声のような...
「モンスター?」
「かもな。」
言って構える。
音のする方向を睨み、状況の把握に努める。
「ど、どうしたんだ?」
「何か来ます。
避難を。」
「わ、わかった!
俺たちも力になる!」
そう言って胸を張る後藤さん。
すごいな、ノンプレイヤーなのに戦おうとするなんて。
プレイヤーの僕ですら多少の恐怖を感じるというのに。
「大丈夫です。
僕たちが心配でしたら、後ろの方で見守っててください。」
「し、しかし!」
「...まだ実戦少ないんです。
守りながらじゃやりにくい。」
「そ、そうか。」
なんとか理解してくれたのか渋々といった様子で下がる後藤さん。
敵を観察しているのか僕たちを観察しているのか、しっかりとこちらを伺っている。
「見えた。」
「あれは、なんかやばそうだな。」
道路の真ん中を四本足で向かってくる巨体。
未だに遠くに居るだろうそのモンスターは体の大きさに距離感を狂わせられる。
「ボス個体じゃないか?」
「そう願うぜ。
あんなのがわらわら居ちゃ堪らない。」
隣のトラックが小さく見えるほどの巨体。
ガノンよりもでかいかもしれない。
全長五、六mはありそうだ。
「いきなりきついな。」
「まあ、あのドルフが居るんだ。
こっちは安全だろうよ。」
「無茶言うな。」
そんな軽口を叩いて居られる位には余裕を持っている。
あのくらいのレベルのモンスターならいくらでも狩ってきた。
やれる。
「僕は元々ソロプレイヤーなんで、連携とか取れないから。」
「おお、邪魔するなってか、こりゃ頼もしいぜ。」
「いや、一対一と一でなんとかしよう。」
じとりと視線が向けられる。
いや、一人じゃ怖いだろ。
いきなりボス個体と実戦だぞ。
一人より二人のほうが心の持ちようが変わるだろう。
「グギャアアアッ!」
「っ?!」
「うるさっ?!」
爆音とともに突っ込んでくる狼型のモンスター。
狼型ともあってスピードはなかなか。
けど目で追えない速さじゃない。
「壁よ!」
「ガアッ!?」
ドシンと轟音を立てながら僕の作った壁にぶち当たるモンスター。
「寝てろよ。」
そのまま壁を飛び越えモンスターの頭上から魔法を仕掛ける。
「炎よ!」
「ギャアアアッ!!」
炎に包まれた哀れなモンスターはそのまま炭に早変わり。
魔石をポップした。
すかさずアイテムボックスへ。
今回は念のため全力で炎の魔法を使ったことによりモンスターの肉体が消失してしまったが、普通にやれば肉体も利用可能である。
肉は食用にできるし、毛皮で服なんかも作れる。
今度からはしっかりと調整しよう。
食料や衣服なんかは足りないみたいだし。
僕のジョブがあれば簡単に作成可能だ。
武器や防具を作って支給するのもいいかもしれない。
終わって仕舞えばなんてことはない、余裕だった。
「何が二人でやろうだよ、全部一人で片付けやがって。」
シェルターの方へ戻ってみれば微妙な顔をしたガノンと信じられないものを見た様な顔の自衛隊員。
魔法を使ってみせたのは一回のみで、実戦は初めてだったのだ。
これでプレイヤーのすごさを認識してくれただろうか。
できれば前に出て一緒に戦うなんてことしないでいただきたいのだけど。
「た、助かった!
あんな巨大なモンスター初めて見たぞ!
俺たちだけだったら何もできずに殺されていた!」
「いえ、これも役割です。
プレイヤーがノンプレイヤーの方を全力で守ります。」
「おお、心強い。」
「いえ。」
うん、モンスターとの戦闘は全く問題ない。
思ったように動けるし、魔法も問題ない。
問題は。
「ガノン。」
「あ?
なんだ?」
「結界術師を探したい。
フレンドにいたりしない?」
「ああ、なるほどな。
ちょっとまってろ。」
そう言って虚空を見つめるガノン。
おそらくメニューを開いているのだろう。
僕のフレンドはゼロ。
伝はない。
頼みの綱はガノンのみ。
早いとこ結界術師を呼んで安全な地区を作りたいところである。
「あー、わりい。
近くにはいねえみたいだ。
どうする?
護送でもするか?」
「その可能性もあるね。」
実際、さっきレベルのモンスターならいくらでも戦える。
傷一つ負わずにやれる自信がある。
けど、安心して休憩できないというのはでかい。
y.pの時だって四六時中戦ってたわけじゃない。
しっかり休んで、戦って、休んでの繰り返しだ。
しかし、この世界ではまだ安心できるポイントが存在してない。
それは長い目で見れば非常に痛い。
チャット機能を使ってみたが、同じことを考えている人間は多数居て、結界術師が不足しているようだった。
早くなんとかしなければ。
「できれば結界術師に来てもらうのが一番だけど。
難しそうならすでに結界が張ってあるとこまで移動したいね。
それも僕たちの体力が残ってるうちに。」
「そうだな。
この近くで結界術師がいるのは、隣の県みたいだな。」
隣の県か。
遠いな。
なんて悩んでいたその時。
「はいはーい。
ドルフくんが悩んでるらしいから飛んで参りましたよー。」
「なっ。」
「えっ!?
『空渡り』!?」
現れたのはいかにもな魔女。
黒いとんがり帽子に大きな杖に露出の激しい服。
「ふふ。
お迎えに来ましたよ?」
可愛くウインクをしたのはランキング九位のミツキさん。
いきなりの展開に僕は何も言い返すことができなかった。




