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ゲームだと思ったら原初の生命に転生しました。  作者: くんくん
第2部

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第3部 第10話 青灯の回廊

「本当に、こんなところに入口があるのか?」


ジェドが首を傾げた。


目の前にあるのは、古びた洗い場だった。


石造りの大きな水槽が3つ並び、その脇には洗濯物を干すための木の柱が立っている。


朝から数人の女性たちが布を洗っていたが、ネリが許可証を見せると、作業を中断して場所を空けてくれた。


「昔からある洗い場らしいわ。記録では、この下に水路の点検設備があるはずなの」


ネリは古い図面を広げた。


昨日、地下の大きな水門を発見したあと、彼女は町の古い記録を調べ直していた。


その結果、同じ印が描かれた場所を2つ見つけたという。


そのうちの1つが、ここだった。


……でも。


俺は水槽を見た。


どう見ても、普通の洗い場だ。


地下へ続く階段なんて見当たらない。


「昔の設備を埋めて、その上に建てた可能性もあるわ」


ネリは水槽の奥を指した。


「まずは、あそこを調べましょう」


俺たちは洗い場の裏手へ回った。


そこには、水槽へ水を引くための細い溝があり、石の蓋が何枚か並んでいた。


ネリが1枚ずつ確かめていく。


そして、3枚目で手を止めた。


「……あった」


……ん?


俺は近づいた。


石の表面に、小さな模様が刻まれている。


四角い枠。


その中に、重なった3本の曲線。


ネリが図面を見せた。


「同じ印でしょう?」


……本当だ。


完全に一致している。


「よし、開けてみるか」


ジェドが鉄の棒を取り出した。


石蓋の隙間へ差し込み、ゆっくり力を込める。


――ギギッ。


……お。


動いた?


いや。


駄目だ。


少し浮き上がったところで、引っかかっている。


「……くそ。中で何か噛んでるな」


ジェドが顔をしかめた。


「無理にこじ開けると、蓋が割れちまう」


ネリが屈み込む。


「古い設備だから、壊すのは避けたいわね」


……ふむ。


俺は隙間を覗いた。


幅は、指が入るかどうかという程度。


人間の道具では、奥まで届かない。


……だったら。


俺の出番かな。


「……みる」


俺は細い触手を伸ばした。


ネリが顔を上げる。


「中を確かめられる?」


俺は頷いた。


「お願い。ただし、蓋を支えている部分には触らないで」


……了解。


俺は石の隙間へ身体の先端を差し込んだ。


《構造形成》。


薄く、細く。


石の表面に沿わせて進む。


……お。


入った。


中には、錆びた金属の部品があった。


横へ滑る仕組みらしいが、留め金の1つが途中で引っかかっている。


……なるほど。


俺は先端を小さな鉤の形へ変えた。


そして、金具を軽く押す。


――カチッ。


……あ。


動いた。


俺は触手を引き戻した。


「……もう、1回」


ジェドが鉄棒を持ち直す。


「よし、いくぞ」


――ゴゴッ。


今度は、石蓋がゆっくり持ち上がった。


その下から、暗い空間が現れる。


……おお。


本当にあった!


冷たい空気が、隙間から吹き上がってきた。


ジェドが蓋を横へずらす。


中には、石造りの階段が続いていた。


「……なるほど」


ネリが目を輝かせた。


「古い点検口だわ」


ルナが入口を覗き込む。


「ふむ。これなら我も通れそうだな」


……ああ。


ようやく見つけたな。


俺は少し嬉しくなった。


これで、あの青い光をルナにも見せられるかもしれない。


◇


階段は、想像していたより深かった。


壁には古い照明用の金具が残り、足元には水が薄く溜まっている。


ネリが携帯用の灯りを掲げた。


「足場が崩れているところもあるから、気をつけて」


……了解。


俺は身体を低くし、石段に沿って進んだ。


ルナはその隣を歩いている。


白銀の毛並みが、灯りを受けて淡く輝いていた。


「……ノア」


……ん?


「貴様が昨日見た場所は、この先か?」


俺は少し考えた。


昨日の地下水域へ入ったのは、別の場所からだ。


でも、古い点検通路が繋がっているなら、同じ空間へ出られる可能性は高い。


「……たぶん」


「ふむ」


ルナは階段の先へ目を向けた。


「楽しみだな」


……ああ。


俺もだ。


しばらく進むと、階段が終わった。


その先には、横へ長く伸びる石の通路がある。


片側は壁。


もう片側には、腰の高さほどの石柵。


柵の向こうは、真っ暗だった。


……ん?


俺は目を向けた。


そして。


……あ。


見えた。


暗闇の下。


遠くの水面に、青白い光が漂っている。


1つ。


2つ。


さらに、その奥にも。


……おお。


繋がってた!


俺は思わず、身体を持ち上げた。


「……ルナ!」


「何だ?」


俺は石柵の向こうを指した。


「……あおい!」


ルナがそちらを見る。


最初は、何も言わなかった。


ただ、じっと水面を見つめている。


その間にも、青い光がゆっくり動いていく。


透明な傘が開き、閉じる。


水面へ光が映り、暗い岩壁を淡く照らした。


……綺麗だな。


昨日もそう思ったけど、こうして上から眺めると、また違って見える。


まるで、地下にもう1つ夜空があるみたいだ。


「……これは」


ルナが小さく呟いた。


俺は顔を向けた。


ルナは、まだ水面を見ている。


「……見事だな」


……だろ?


俺は嬉しくなった。


あの光を見つけたときから、ずっとルナにも見せたかった。


言葉では上手く説明できなかったけど。


実際に見れば、きっと分かってくれると思っていたんだ。


ルナは石柵のそばへ座り、しばらく青い光を眺めていた。


「……ノア」


……ん?


「貴様が見せたがっていた理由が、少し分かった」


俺は触手を小さく動かした。


「……よかった」


「うむ」


ルナの尻尾が、ゆっくり揺れた。


「我は、こういうものも好きだぞ」


……あ。


そうなのか。


何だか、ちょっと意外だな。


いや、考えてみれば当然か。


ルナだって、食べ物と戦いだけに興味があるわけじゃない。


綺麗な景色を見れば喜ぶし、知らない場所へ行けば目を輝かせる。


……俺、そういうところも好きなんだよな。


相棒として、一緒にいて楽しいところが。


俺はルナの隣へ身体を寄せた。


石柵の向こうでは、青い光が静かに揺れていた。


◇


「……さて」


少し離れた場所で、ネリが図面を広げていた。


「景色を楽しむのもいいけど、調査を始めるわよ」


……あ。


そうだった。


俺たちは仕事で来たんだっけ。


俺は慌ててネリの方へ向かった。


ルナも、少し名残惜しそうに立ち上がる。


ジェドが石柵の向こうを覗き込んだ。


「しかし、すげえ場所だな。こんなもんが町の下にあるなんて」


「建設された年代も、まだ分からないわ」


ネリが答える。


「少なくとも、今使っている水路よりは古いはずよ」


……へえ。


俺は通路の壁へ目を向けた。


石は大きく、継ぎ目も少ない。


場所によっては、表面が滑らかに磨かれている。


……昔の人って、結構すごいものを作ってたんだな。


ネリは水面より高い位置に刻まれた線を指した。


「見て。あれが水位の記録よ」


……水位?


俺は目を凝らした。


壁には、横向きの線が何本も刻まれている。


それぞれの線の横には、小さな文字が並んでいた。


「ここまで水が上がったことがある、という意味ね」


……なるほど。


俺は一番上の線を見た。


今の水面から、かなり高い位置にある。


……え。


あそこまで上がるのか?


「昔、大きな増水があったのかもしれない」


ネリは慎重に言った。


「ただ、ここを造った人たちが危険な高さとして印をつけただけの可能性もあるわ」


……なるほど。


まだ、分からないんだな。


俺は水面へ触手を伸ばした。


《水流感知》。


……うん。


ここからでも、水の動きが少し分かる。


今は穏やかだ。


昨日のような強い流れは感じない。


「……ネリ」


俺は手前の水を指した。


「……いま、よわい」


ネリが頷く。


「ええ。こっちで測った水位も安定しているわ」


……よし。


それなら、今のうちに調べられそうだ。


俺たちは通路を奥へ進んだ。


◇


半円形の水門は、通路の突き当たり近くにあった。


昨日、水中から見上げたときも巨大だと思ったが、近くで見るとさらに大きい。


石柱の間に、分厚い石板がはめ込まれている。


両側には深い溝。


上部には、太い金属製の輪が並んでいた。


……おお。


これは、迫力あるな。


ジェドが口笛を吹いた。


「こんなもの、どうやって動かしてたんだ?」


ネリは石板の横へ回り込んだ。


「……この辺りに、操作する仕組みがあるはずよ」


彼女は壁の一部を指した。


そこには、古い金属の棒が突き出していた。


ただし、先端は折れている。


「手動の操作装置だったのかもしれないわね」


……なるほど。


俺は石板へ近づいた。


表面には、水の流れによって削られたような跡がある。


だが、その中に少し違う傷が混じっていた。


……ん?


俺は目を近づけた。


細長い溝。


しかも、同じようなものが何本も並んでいる。


……何だ、これ。


俺は触手を伸ばした。


石の表面をなぞる。


ざらざらした古い傷。


その横に、比較的新しく見える傷。


……あ。


こっちは、削れ方が違う。


俺はネリを呼んだ。


「……ここ」


彼女が近づいてくる。


「何?」


俺は傷を指した。


ネリは少し屈み込み、表面を確かめた。


「……変ね」


……だよな。


「水が流れてできた傷には見えないわ。何か硬いものが、横から擦れたような……」


ジェドも覗き込んだ。


「……おい。これ、爪の跡じゃねえのか?」


……え?


俺は顔を上げた。


爪?


こんな大きな?


ジェドが指で傷の間隔を示す。


「大型の水棲魔獣なら、こういう傷をつける奴もいる。もっとも、俺が知ってる連中よりずっと大きそうだがな」


……。


俺は石板を見上げた。


昨日、暗闇の奥で動いた大きな影。


もし、あれが生き物だったなら。


……まさか。


俺は水門の向こうへ目を向けた。


そのときだった。


――ドゥン。


……っ。


低い振動。


昨日と同じだ。


俺は反射的に地面へ身体を広げた。


《微振動感知》。


石床を通じて、鈍い衝撃が伝わってくる。


……来た。


もう1度。


――ドゥン。


石板が、わずかに揺れた。


その直後、水面の下で大きな渦が生まれる。


……まずい!


俺は顔を上げた。


「……みず、くる!」


ネリが即座に叫んだ。


「全員、通路の高い方へ!」


俺たちは急いで後退した。


だが、そのとき。


――ガンッ!


水門の横にある金属製の覆いが、大きく揺れた。


……ん!?


どうやら、古い金具が外れかけているらしい。


分厚い金属板が、通路側へ倒れようとしていた。


その下には、ネリとジェド。


……っ!


俺は反射的に身体を伸ばした。


《構造形成》。


太い触手を2本。


先端へ《硬質外皮》。


根元には《弾性組織》。


……よし!


俺は石床へ身体を固定した。


《粘着性》。


そして、倒れかけた金属板へ触手を突き出した。


――ガンッ!


……重い!


俺の身体が、後ろへ引っ張られる。


……くそっ!


このままじゃ、支えきれない!


俺は触手の先端を広げた。


《緩衝膜》。


柔らかい層を作り、衝撃を受け止める。


――ぐにっ!


金属板の動きが、ほんの少し鈍った。


……よし!


だが、止められたのは一瞬だけだ。


腕の根元が強く引かれ、固定していた身体までずれ始める。


……まずい。


長くは持たない!


「ルナ!」


俺が呼ぶと、白銀の相棒はすでに動いていた。


「分かっておる!」


ルナが通路の横へ跳んだ。


その先には、金属板を支えていた古い留め具がある。


半分外れ、斜めに傾いていた。


「《衝撃》!」


――ドンッ!


留め具が、横から叩かれた。


金属板の動きが一瞬変わる。


……あ。


角度が変わった!


俺はその隙を逃さず、触手を動かした。


正面から押し返すのではなく、板の端を横へずらす。


《構造形成》。


太い触手の途中を曲げ、力を横へ逃がす。


……今だ!


――ガシャンッ!


金属板が、壁側へ倒れた。


通路ではなく、水門の脇にある空いた場所へ。


……っ!


助かった!


俺はすぐに触手を引き戻した。


ルナも安全な場所へ下がる。


ジェドが駆け寄ってきた。


「おい! 無事か!」


俺は身体を確かめた。


……うん。


少し負担はかかったけど、大きな損傷はない。


《緩衝膜》が、衝撃を和らげてくれたらしい。


「……へいき!」


俺が答えると、ジェドは大きく息を吐いた。


「……ああ、よかった」


ネリも近づいてくる。


「ありがとう、ノア。ルナも」


……いや。


無事でよかった。


俺は触手を小さく振った。


だが、ネリはすぐに水門へ目を向けた。


「……これ以上は危険ね」


……そうだな。


さすがに、今の状態で調査を続けるのは無理がある。


俺たちは一度、通路の高い場所へ戻ることにした。


◇


「……しかし」


ジェドが水門を見つめながら言った。


「今の揺れ方、妙だったな」


……ん?


俺は顔を向けた。


「水の流れで揺れたというより、向こう側から何かに押されたように見えた」


……あ。


それ、俺も思った。


石板が動いたあと、水の流れが変わっていた。


なら、水が石板を動かしたんじゃなくて。


何かが石板を動かした結果、水が流れた?


……いや。


まだ、そこまでは分からない。


俺は水門を見つめた。


古い金属板。


大きな石の構造。


そして、その表面に残された細長い傷。


……もし。


もし、この向こうに何かがいるなら。


そいつは、この水門を開けようとしているんだろうか。


それとも。


……ただ、ぶつかっているだけなのか?


俺が考えていると、ネリが声を上げた。


「……待って」


……ん?


彼女は倒れた金属板の近くで、何かを見つけたらしい。


俺たちは慎重に近づいた。


そこには、水に濡れた黒いものが引っかかっていた。


……何だ?


俺は目を凝らした。


薄い板のようなもの。


表面は滑らかで、端が少し欠けている。


……鱗?


ネリが慎重に拾い上げた。


「……これは」


ジェドが覗き込む。


「……でかい鱗だな」


……やっぱり。


俺は少し驚いた。


鱗は、人間の手のひらより大きい。


黒に近い深緑色で、光が当たると鈍く輝いていた。


「こんな大きな鱗、普通の川魚じゃありえねえぞ」


ジェドが呟いた。


ルナが低い声で尋ねる。


「大型の魔獣か?」


「……ああ。少なくとも、かなり大きな生き物だろうな」


……なるほど。


俺は水門を見上げた。


さっきの爪のような傷。


そして、この鱗。


……やっぱり。


何かがいる。


あの向こう側に。


ネリは鱗を布へ包んだ。


「ギルドで調べてもらいましょう。種類が分かれば、何がいるのか絞れるかもしれない」


……うん。


それがいい。


俺は小さく頷いた。


そのとき。


――ドゥン。


また、低い振動が響いた。


全員が水門へ目を向ける。


だが、今度は石板が動かなかった。


代わりに。


――ごぼっ。


水面から、大きな泡が浮かび上がった。


続いて、青灯クラゲの群れが、一斉に散っていく。


……っ。


俺は目を凝らした。


水門の向こう。


暗い水の奥。


そこに、何かが動いた。


昨日より、ずっと近い。


大きな影。


水面の下を、ゆっくり横切っている。


……おい。


でかすぎないか?


俺は一瞬、呼吸を忘れたような気分になった。


もちろん、今の俺に人間のような呼吸はない。


でも、それくらい驚いた。


影の一部が、青い光の中へ入る。


そこで初めて、形が少し見えた。


黒緑色の鱗。


長く伸びた身体。


そして、背中から突き出した大きな鰭。


……魚?


いや。


魚にしては、あまりにも大きい。


まるで、小舟が水の中を泳いでいるみたいだ。


その影は、ゆっくり向きを変えた。


そして、俺たちのいる方へ。


……え?


俺は動きを止めた。


暗闇の中で、大きな瞳が一瞬だけ光った。


……っ!


見られた。


そんな気がした。


だが、次の瞬間。


影は深い水の中へ沈み、姿を消した。


……。


…………。


誰も、すぐには口を開かなかった。


やがて、ジェドが小さく呟いた。


「……おいおい」


……ああ。


俺も同じ気分だ。


「あんなの、レムナの川にいたのかよ……」


ルナは水面を睨んでいた。


「……相当な大物だな」


……だな。


しかも、ただ大きいだけじゃない。


あの身体で水門へぶつかれば、古い構造物が動いてもおかしくない。


……なるほど。


少しだけ、見えてきたかもしれない。


この地下水域で起きていることが。


ただし。


それが何のために水門へ近づいているのか。


なぜ、今になって水路の流れが変わり始めたのか。


そこまでは、まだ分からなかった。


◇


地上へ戻った頃には、すっかり午後になっていた。


洗い場では、再び人々が作業を始めている。


俺たちは石蓋を元へ戻し、ネリが通行止めの札を設置した。


「正式な調査が終わるまでは、勝手に入れないようにしておくわ」


……うん。


それがいいと思う。


古い通路が残っているとはいえ、金属板が倒れかけたばかりだ。


人が知らずに入り込んだら危ない。


「鱗は、ギルドへ持っていく」


ネリが布包みを持ち上げた。


「それから、水門の状態も報告するわ。町の水路と繋がっている以上、放っておけないもの」


ジェドが頷いた。


「必要なら、修理のための職人も呼ぶことになるだろうな」


……そうか。


それなら、少し安心だ。


俺たちは一度、そこで別れた。


ネリとジェドはギルドへ。


俺とルナは、宿へ戻ることにした。


◇


帰り道。


レムナの運河には、いつもどおり荷船が行き交っていた。


橋の上では、子どもたちが青い布を揺らして遊んでいる。


水路のそばには、魚を売る屋台が並んでいた。


……平和だな。


さっきまで地下で巨大な魔獣を見ていたのが、嘘みたいだ。


俺は水面へ目を向けた。


この町の下には、まだ知らない世界がある。


しかも、そこには、あんな大きな生き物まで暮らしている。


……面白い。


けど。


ちょっと、怖いな。


俺は自分の身体を見た。


今日、金属板を受け止めたとき。


《緩衝膜》がなければ、もっと大きな傷を負っていたかもしれない。


《弾性組織》だけでも、あの重さを支えるのは難しかった。


そして、ルナの《衝撃》がなければ、横へずらすこともできなかった。


……なるほど。


使える性質が増えると、戦い方だけじゃなく、守り方も増えていくんだな。


俺は少し考えた。


これまでは、攻撃を避けることばかり考えていた。


でも、今は違う。


受け止める。


流す。


そして、必要なら押し返す。


……うん。


これも、練習してみたい。


「……ノア」


ルナが隣から声をかけた。


……ん?


「今日は、あの光を見せてくれてありがとう」


俺は足を止めた。


……え?


ルナは前を向いたまま続ける。


「地下の景色だ。あれは、なかなか見事だった」


……ああ。


そうか。


俺は少し嬉しくなった。


「……よかった」


「うむ」


ルナは小さく頷いた。


「ただし」


……ん?


「次は、もう少し安全な場所で眺めたいものだな」


……はは。


それは、そうだな。


俺は身体を揺らした。


ルナも小さく笑った。


しばらくして、俺たちは橋の中央で足を止めた。


下には、静かな運河が流れている。


俺はその水面を眺めながら、ふと思った。


地下で見た大きな魔獣。


あいつも、ただそこで暮らしているだけなのかもしれない。


人間たちが造った古い水門の向こうで。


誰にも知られずに。


長い間、ずっと。


……いや。


そうと決まったわけじゃない。


でも、あの目を見たとき。


ただの凶暴な魔物だと、簡単に決めつけたくはなかった。


「……ノア?」


ルナが俺を見る。


俺は短く答えた。


「……また、みる」


「……あの大物か?」


俺は頷いた。


ルナは少し考えたあと、鼻を鳴らした。


「ふん。ならば、次は我も目を離さぬ」


……おう。


頼りにしてる。


俺は触手を伸ばした。


ルナも前脚を持ち上げる。


軽く触れ合ったところで、荷物についた銀色の鈴が鳴った。


――ちりん。


レムナの運河は、今日も静かに流れている。


だが、その地下では。


誰も知らなかった巨大な生き物が、古い水門の向こうを泳いでいた。


そして俺たちは、ようやくその姿を見たのだった。

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