第3部 第6話 返ってくる槍
「貴様、腕は何本まで作れる?」
朝食の途中で、ルナが突然そんなことを聞いてきた。
俺は動きを止めた。
……腕?
何本って言われてもな。
作るだけなら、結構な数を作れると思う。
ただし、その分だけ1本ずつ細くなるし、全部をまともに動かせるとは限らない。
俺は身体の横から、短い触手を4本伸ばしてみせた。
「……これ?」
「いや、数を知りたいわけではない」
ルナは首を振った。
「昨日の競技を見て、少し思ったのだ。貴様は戦うとき、手数を増やそうとするであろう?」
……ああ。
確かに。
触手を増やせば、相手の注意を散らせる。
逃げ道を塞ぐこともできるし、複数のものを同時に掴める。
「だが、細い腕を何本も作るより、強い腕を1本作った方がよい場面もあるのではないか?」
……。
なるほど。
俺は思わずルナを見た。
意外、と言ったら失礼だけど、なかなかいい着眼点だ。
「何だ、その顔は」
……いや。
感心してた。
「ふん。我とて、いつも食べ物のことばかり考えておるわけではないぞ」
……別に何も言ってないだろ!
俺は触手を振った。
ルナは涼しい顔で食事を続けている。
……まったく。
でも、今の話は面白い。
俺は自分の身体を眺めた。
《硬質外皮》で先端を固める。
《弾性組織》で、伸び縮みする部分を作る。
《粘着性》で、足場を確保する。
それらを、1本の腕に集中させたら。
……どうなるんだろう。
試してみたくなった。
◇
「腕を伸ばして敵を殴りたい?」
目の前の女性が、眉を上げた。
……いや。
もっと他に説明の仕方、なかったかな。
ルナは当然のように頷いている。
「うむ。そういうことだ」
……まあ、間違ってはいないけどさ。
俺たちが訪れていたのは、レムナの職人街にある道具工房だった。
水運に使う金具や縄、荷車の部品などを作っている店だ。
店の奥では職人たちが鉄を叩き、表では木製の滑車がいくつも吊るされている。
その工房を取り仕切っているのが、目の前の女性だった。
名前はドーラ。
背はそれほど高くないが、肩幅が広く、腕も太い。
短く結んだ茶色の髪と、煤のついた作業着が印象的だ。
「話は分かったけどね」
ドーラは俺を見下ろした。
「何で、それをうちへ相談しに来たんだい?」
……あ。
そう言われると、確かに。
俺は身体を少し縮めた。
本当の用事は、旅の荷物を固定する革紐の補修だった。
身体の形を頻繁に変えるせいで、普通の紐では擦れたり緩んだりする。
そこで水運用の丈夫な留め具を探しに来たのだが、作業場に置かれた大きな弩のような道具が目に入ってしまった。
そして、ルナが今朝の話を持ち出した。
……というわけだ。
「なるほどねえ」
説明を聞いたドーラは、少し考え込んだ。
それから、作業台に置かれていた道具を指した。
「これが気になったんだろ?」
大きな木製の台。
両側から太い腕が伸び、その間には丈夫な弦が張られている。
先端に取りつけられているのは、鉄の鉤だ。
「河舟を固定するときに使う射鉤器だよ。離れた杭や岩場へ鉤を飛ばして、縄を掛けるんだ」
……なるほど。
船で使う道具なのか。
「仕組みは単純さ。弦を引いて、力をためて、一気に放す」
ドーラは近くにあった小型の模型を手に取った。
弦を引く。
留め具へ固定する。
そして、小さな木の棒を載せる。
――カチン。
留め具が外れ、棒が前へ飛んだ。
――コンッ!
数歩先の木箱へ当たる。
……おお。
俺は思わず身を乗り出した。
「同じようなことを身体でやりたいって話なら、先に考えることがあるよ」
……ん?
ドーラは模型の台を指で叩いた。
「何を飛ばすかじゃない。何で支えるか、だ」
……支える?
「ほら、持ってごらん」
俺は触手で模型を掴んだ。
「そのまま弦を引いて」
……よし。
俺は言われたとおり、弦を引いた。
ぐっ。
……結構、重いな。
「そこで放す」
俺は留め具を外した。
――カチン!
模型が大きく跳ねた。
……っ!?
俺は慌てて持ち直す。
ドーラが笑った。
「台を押さえなきゃ、飛ばす側も動いちまう。力ってのは、都合よく前だけへ出るもんじゃないんだよ」
……ああ。
そういうことか。
俺は模型を見つめた。
力をためる。
放つ。
そのとき、自分の身体まで引っ張られないようにする。
……なるほど。
確かに、考えてなかった。
「裏庭なら試してもいいよ。ただし、壊していい的を使いな」
ドーラが親指で奥を示した。
「うちは病人を増やす商売じゃないからね」
……了解です。
◇
工房の裏庭には、廃材が積まれていた。
壊れた木箱。
使えなくなった櫂。
古い船板。
ドーラはその中から、薄い木板を1枚立てた。
「まずはこれ。壊せるなら壊してみな」
……よし。
俺は木板から数歩離れた位置へ移動した。
身体の下側を広げ、4か所を地面へ固定する。
《粘着性》。
次に、前方へ太い触手を作った。
先端へ《硬質外皮》。
根元には《弾性組織》。
……うん。
形はできた。
俺は触手を後方へ引き絞る。
弾性のある部分へ、力をためる。
……よし。
これを一気に戻せば。
俺は先端を木板へ向けた。
「……いく!」
そして、力を放した。
――ビュン!
触手が伸びる。
だが。
――べちゃっ!
俺自身が、前へ引っ張られた。
……えっ!?
固定していた部分の1つが地面から剥がれ、身体が斜めに崩れる。
伸ばした触手は木板へ届いたものの、先端が横へ流れ、表面を軽く叩いただけだった。
……。
…………。
……何だ、これ。
全然駄目じゃん。
「はっはっは!」
ドーラが豪快に笑った。
「そりゃそうなるよ! 前へ伸ばす力を受けきれてない!」
……うぐ。
分かってます。
今、身をもって理解しました。
ルナは少し離れたところで、興味深そうに俺を見ていた。
「ふむ。脚を増やしても、土台が弱ければ意味がないのだな」
……そうみたいだ。
俺は身体を整え直した。
ただ地面へ張りつくだけじゃ、強い動きには耐えられない。
ならば。
……支える形から変えてみよう。
俺は地面に接する部分を広げた。
後ろ側を少し厚くし、岩に押し当てる。
《硬質外皮》で支点となる部分を固める。
さらに、力を放つ触手の根元を、身体の中央へ近づけた。
……よし。
今度はどうだ?
俺は触手を引き絞った。
さっきより、少し短く。
その代わり、根元を太くする。
そして。
――バンッ!
硬い先端が木板へぶつかった。
――バキッ!
……っ!
板が割れた。
中央から亀裂が走り、上半分が後ろへ倒れる。
……おお!
俺は思わず身体を持ち上げた。
やった!
今のは、ちゃんと当たったぞ!
「……ふむ」
ルナが近づいてくる。
「なかなかの威力だな」
……だろ?
俺は少し得意になった。
だが、ドーラは木板の破片を拾い上げ、首を傾げた。
「悪くない。でも、その腕で何回撃てる?」
……え?
何回?
俺は自分の身体を確かめた。
……あ。
結構、疲れてる。
しかも、弾性を集中させた部分が少し動かしにくい。
すぐに同じ威力を出せるかと言われると、微妙だ。
俺は触手を揺らした。
「……すこし」
ドーラが頷く。
「だろうね。大きな力を出せる形を作っても、身体が持たなきゃ意味がない」
……なるほど。
「だから、使いどころを考えるんだよ」
ドーラは俺の硬い触手を軽く叩いた。
「それと、まっすぐ伸ばすことだけ考える必要もない。横から打ったっていいし、相手を引っかけて崩すのも手だ」
……あ。
確かに。
俺は触手を見つめた。
突く。
払う。
巻きつける。
引っ張る。
そして、戻す。
全部、同じ腕でできる。
しかも、形は途中で変えられる。
……これ。
思っていた以上に使えるんじゃないか?
◇
「……では、我が相手をしよう」
ルナが突然、そんなことを言った。
……え?
俺は顔を上げた。
「動かぬ板を叩いても、実戦の練習にはならぬであろう?」
……いや。
それはそうだけど。
まさか、お前を突けってこと?
俺は慌てて触手を振った。
「……だめ!」
ルナは鼻を鳴らした。
「誰が直接当てろと言った」
……あ。
そうじゃないのか。
「我が的を動かす。貴様は当てることだけ考えればよい」
……なるほど。
それなら。
俺はドーラを見た。
彼女は少し考え、廃材から丸い木箱の蓋を取り出した。
「これならいいだろ。壊れても構わないしね」
ルナは蓋の端を前脚で押さえた。
そして、俺から離れた位置へ置く。
「……準備はよいか?」
……おう。
俺は身体を低くした。
《構造形成》。
太い触手を1本。
先端を硬くする。
根元に弾性を持たせる。
そして、足元を固定。
……よし。
さっきと同じだ。
俺は狙いを定めた。
……今!
――ビュン!
触手が伸びた。
だが、その瞬間。
「《衝撃》」
――トンッ!
小さな衝撃が木箱の蓋を横へ弾いた。
……あっ!
俺の触手は空を切り、的の横を通り過ぎる。
……くそっ。
外した!
「ふん。動く相手なら、そう簡単には当たらぬぞ」
……分かってるよ!
俺は触手を引き戻した。
ただし、今の動きで1つ分かったことがある。
硬い先端を作ってから狙うと、方向を変えにくい。
伸ばす途中で無理に曲げようとしても、勢いが落ちてしまう。
だったら。
……最初から、軌道を変えられる形にすればいい。
俺は次の準備を始めた。
今度は、触手を少し細くする。
ただし、先端は硬いまま。
根元から中央にかけては、柔らかさを残す。
……よし。
俺はルナを見た。
「……もう、1回」
「うむ!」
ルナが楽しそうに頷く。
俺は身体を低くした。
的を見つめる。
ルナが前脚を上げる。
……来る。
俺は触手を放った。
――シュッ!
ルナが《衝撃》を使う。
木箱の蓋が、横へ動いた。
……今!
俺は伸びる触手の途中を曲げた。
《構造形成》。
硬い先端を維持したまま、柔らかな部分で方向を変える。
……っ!
思ったより難しい!
先端が横へ流れ、勢いが弱くなる。
だが、届く。
……いけ!
――コンッ!
硬い先端が、動いた蓋の端へ当たった。
木箱の蓋が大きく揺れる。
……おお!
当たった!
さっきほどの威力はない。
でも、動いた相手を捉えられた。
ルナが目を細めた。
「……ほう」
俺は少し得意になった。
「今のは面白いな」
ドーラも感心したように頷く。
「普通の武器なら、途中で曲がったりしないからね」
……そう。
それなんだよ。
俺の触手は、普通の槍じゃない。
伸びる。
曲がる。
絡む。
そして、引き戻せる。
……うん。
これなら、戦い方が大きく変わりそうだ。
ただし、ドーラがすぐに釘を刺した。
「今のを連発できるようになるまで、無理はするんじゃないよ。自分の身体を壊したら意味がないからね」
……はい。
本当に、そのとおりです。
俺は素直に身体を丸めた。
◇
昼過ぎ。
工房の裏庭には、割れた木板が何枚か転がっていた。
俺の練習は、そこで終了となった。
ドーラがこれ以上は休めと言ったからだ。
……まあ。
正直、ちょうどよかった。
身体を動かすたびに、少し重さを感じる。
今の段階で無理をすれば、またしばらく動けなくなるかもしれない。
俺は作業台の横で身体を休めていた。
すると、ドーラが革紐と金具を持ってきた。
「ほら。こっちが本来の注文だよ」
……あ。
そうだった。
補修を頼みに来たんだっけ。
すっかり忘れてた。
「身体の形が変わるなら、胴体へ直接巻くより、荷物の方を固定した方がいいね」
ドーラは革紐を2重にし、金具を通して見せた。
「こうしておけば、多少揺れても外れにくい。必要なら、すぐ取り外せるよ」
……おお。
便利そうだ。
俺は触手で金具を動かしてみた。
カチッ。
簡単に留まる。
外すときも、少し押すだけだ。
……なるほど。
これなら、身体を変形させても荷物が落ちにくそうだ。
「ただし、金具そのものは水に浸けっぱなしにしないこと。錆びるからね」
……了解。
俺は礼を言って、代金を渡した。
ドーラはそれを受け取りながら笑った。
「また変わったものを作りたくなったらおいで。あんたの身体は、職人としても興味があるよ」
……はは。
そうなのか。
俺は少し嬉しくなった。
自分の身体が、誰かの仕事の参考になる。
そんなこと、今まであまり考えたことがなかったからな。
◇
帰り道、俺たちは運河沿いの広場で休んだ。
石畳の脇には大きな木があり、その下には旅人向けの長椅子が置かれている。
ルナは俺の隣で身体を丸めた。
「……今日は、よいものを見た」
……ん?
俺は顔を向けた。
「貴様の新しい技だ」
……ああ。
あれか。
俺は触手を1本伸ばしてみた。
先端を硬くする。
根元に弾性を持たせる。
ただし、今は力をためない。
形を確かめるだけだ。
……うん。
だいぶ分かってきた。
でも、まだ技と呼ぶには早いかな。
当てるだけでも難しいし、威力も安定しない。
「ふむ」
ルナは俺の触手を眺めた。
「だが、あれは我にはできぬ技だ」
……まあ。
そうだな。
ルナには《衝撃》がある。
俺には《構造形成》がある。
使える能力が違えば、戦い方も変わる。
「我が正面から攻め、貴様が横から突けば、かなり厄介な相手にも通用するやもしれぬな」
……あ。
それ、いいな。
俺は少し考えた。
ルナが敵の注意を引く。
俺は地面や壁へ身体を固定し、離れた位置から触手を伸ばす。
相手が避けたら、途中で方向を変える。
もし反撃されたら、触手を引き戻して別の形へ。
……うん。
面白い。
ちゃんと練習すれば、今までよりずっと強い相手にも戦えそうだ。
俺は思わず身体を持ち上げた。
すると、ルナが俺を見た。
「……また、すぐに試したくなったのであろう?」
……っ。
ばれた。
ルナは呆れたように鼻を鳴らす。
「今日は休むのだぞ」
……はいはい。
分かってますよ。
俺は渋々、身体を低くした。
だが、そのとき。
ルナが俺の隣へ、もう少しだけ近づいてきた。
白銀の毛並みが、身体の端へ触れる。
「……ノア」
……ん?
「強くなるのはよい」
ルナは前を向いたまま続けた。
「我も、負けぬように鍛えるつもりだ」
……おう。
それはいいな。
「だが、貴様が強くなっても、無理をする癖まで強くなっては困る」
……。
……ごもっとも。
俺は少しだけ身体を縮めた。
すると、ルナは小さく笑った。
「ふん。分かっておるならよい」
しばらく、俺たちは黙って運河を眺めていた。
水面には荷船が行き交い、遠くから職人たちの声が聞こえてくる。
何でもない午後。
ただ、日陰で休んでいるだけの時間だった。
……でも。
俺は少し思った。
こんなふうに、誰かと一緒に休めるのも、結構いいものだな。
人間だった頃は、仕事の休憩時間なんて、スマートフォンを見ながら1人で過ごすことが多かった。
別に寂しいとは思っていなかったけど。
今は、隣にルナがいる。
それが当たり前になっている。
……不思議だな。
俺は触手を伸ばし、ルナの前脚へ軽く触れた。
「……ありが、と」
ルナが顔を上げた。
「……何がだ?」
俺は少し考えた。
何が、って言われると難しい。
今日の練習に付き合ってくれたこと。
昨日の競技で一緒に勝ったこと。
それから、ずっと隣にいてくれること。
……全部、かな。
でも、そんな長いことはまだ言えない。
俺は短く答えた。
「……いろいろ」
ルナは一瞬、きょとんとした。
それから、少しだけ目を細める。
「……妙なやつだな、貴様は」
……知ってる。
俺は触手を揺らした。
ルナは前脚を引っ込めなかった。
代わりに、俺の触手へ軽く押し返してくる。
「礼を言うなら、我も同じだ」
……え?
俺は顔を上げた。
ルナは運河の向こうへ目を向けたまま続ける。
「貴様と旅をしておると、退屈せぬ」
……。
……そっか。
それなら、よかった。
俺は少しだけ身体を持ち上げた。
すると、荷物につけた銀色の鈴が、小さく鳴った。
――ちりん。
ルナの荷物からも、少し遅れて同じ音がする。
俺たちは顔を見合わせた。
そして、どちらからともなく笑った。
◇
夕方、宿へ戻る途中でギルドの前を通りかかった。
入口には、新しい依頼がいくつも貼り出されている。
俺は何となく足を止めた。
今なら、もう少し難しい仕事にも挑戦できるかもしれない。
そんな気がしたからだ。
ただ、今日は受けない。
ドーラにもルナにも、休めと言われたばかりだからな。
俺が掲示板を眺めていると、受付のシエナが外へ出てきた。
「あら、ノアさん。ルナさんも」
……お。
こんにちは。
俺は触手を上げた。
シエナは手に持っていた書類を見て、少し考えた。
「ちょうどよかったです。お二方に紹介したい仕事があるんですよ」
……え?
俺は顔を上げた。
「レムナの南側に、古い水路があるんです。そこへ調査員を派遣することになりまして」
……古い水路?
「水位が下がる時期にしか入れない場所なんですが、今回は流れが変わったらしく、調査が必要になったんです」
……なるほど。
それなら、俺の《水流感知》が役に立つかもしれない。
シエナは続けた。
「ただ、危険な生き物がいる可能性もあるので、護衛を探しているんです」
ルナが耳を立てた。
「ほう」
……お。
興味ありそうだな。
俺も、少し気になってきた。
新しい水路。
知らない地形。
そして、そこで暮らす生き物たち。
……いいじゃないか。
シエナは微笑んだ。
「明日の午後、調査員の方と顔合わせがあります。興味があれば、ギルドへいらしてください」
俺はルナを見た。
ルナもこちらを見返した。
……どうする?
「決まっておる」
ルナが笑った。
「行こうではないか」
……だよな。
俺も、そう思ってた。
俺はシエナへ向き直った。
「……いく!」
シエナが頷いた。
「では、明日お待ちしていますね」
俺たちは礼を言って、ギルドを後にした。
歩きながら、俺は今日覚えた動きを思い出していた。
力をためる。
支える。
そして、放つ。
ただ伸ばすだけの触手じゃない。
槍のように突き、鞭のように曲がり、必要なら相手を掴む。
しかも、使い終われば自分の身体へ戻せる。
……うん。
なかなかいいじゃないか。
俺は小さく触手を伸ばしてみた。
そして、すぐに戻す。
今はまだ、ただの練習だ。
でも、いつか。
もっと速く。
もっと強く。
相手が何をしてくるか分からなくても、その場で形を変えて対応できるようになりたい。
……よし。
明日は、どんな場所へ行くんだろうな。
俺がそんなことを考えていると、ルナが隣から声をかけた。
「……ノア」
……ん?
「今日は、もう練習禁止だぞ」
……。
……はい。
分かってます。
俺は素直に触手を引っ込めた。
ルナは満足そうに頷く。
「よろしい」
……まったく。
厳しい相棒だな。
でも、そんなルナが隣にいることを、俺は少し嬉しく思っていた。




