第3部 第4話 反則じゃない
木剣が、俺の頭を横切った。
正確には、頭があった場所を横切った。
……危なっ!
俺は首を胴体へ引っ込め、床を滑るように後退した。
直後、木剣が石畳を叩く。
――カンッ!
「ほう。今のを避けるか」
目の前の男が、楽しそうに笑った。
……いやいや。
笑い事じゃないんですけど。
俺は身体を立て直した。
男の名はガレス。
河港都市レムナの冒険者ギルドで、実技試験を担当している教官だ。
そして俺は今、なぜかその男と戦っている。
……どうしてこうなった?
◇
話は、今朝に遡る。
「ここがレムナの冒険者ギルドか」
ルナが建物を見上げた。
運河沿いの広い通り。
そこには、石造りの大きな建物があった。
入口には剣と盾を組み合わせた紋章が掲げられ、様々な種族の冒険者たちが出入りしている。
トルゼやハルザのギルドとは、比べものにならないほど大きい。
……おお。
さすが交易都市。
俺は少し期待しながら入口へ向かった。
レムナでは人と魔獣が一緒に働いている。
だったら、俺たちにも正式な冒険者登録の道があるかもしれない。
そんな期待があったのだが。
「申し訳ありません。魔獣の正式登録には、今も個別の審査が必要です」
……ですよね。
受付の女性は、丁寧にそう説明した。
長い耳を持つ、落ち着いた雰囲気の女性だ。
名前はシエナというらしい。
「ですが、こちらの都市では少し事情が違います」
……ん?
俺は顔を上げた。
シエナは書類を1枚取り出した。
「レムナでは、人間以外の種族や、知性を持つ魔獣が作業に参加することも珍しくありません。そのため、正式な冒険者とは別に、ギルド協力者として仕事を受ける仕組みがあります」
……お。
それは初耳だ。
「ただし、身元の確認と、簡単な能力試験が必要になります」
……試験?
俺はルナを見た。
ルナも、興味を持ったらしい。
「どのような試験だ?」
「危険な状況で、自分の能力を適切に扱えるかを確認します」
……なるほど。
力があるだけじゃ駄目ってことか。
シエナは続けた。
「ハルザでの依頼完了記録と、東の関所からの書類は確認しました。お二方が人間と協力できることは、十分伝わっています」
俺は少し嬉しくなった。
ハルザで受け取った書類。
ちゃんと役に立ってるじゃないか。
「なので、残るのは実技だけですね」
シエナが微笑んだ。
「本日、試験担当の教官が空いています。受けてみますか?」
……。
俺はルナを見た。
ルナは俺を見返した。
そして、当然のように言った。
「受けよう」
……即決かよ!
いや、俺も受けたいけどさ。
「ただし」
シエナが付け加えた。
「協力者になっても、正式な冒険者登録とは異なります。依頼ごとに担当者の許可が必要になりますので、その点はご了承ください」
俺は身体を上下させた。
……十分だ。
少なくとも、毎回一から事情を説明する必要は減りそうだしな。
こうして俺たちは、ギルドの訓練場へ向かうことになった。
◇
「話は聞いた。お前がノアだな」
訓練場で待っていたのは、短い黒髪の大柄な男だった。
片手には木剣。
背中には、長年鍛えたことが分かる厚い筋肉。
……強そう。
いや、絶対強いだろ。
「俺はガレス。ここの試験を担当している」
男は俺を見下ろした。
「……本当に、面白い身体だな」
……まあ。
それはよく言われます。
俺は軽く身体を持ち上げた。
すると、ガレスは笑った。
「心配するな。見た目で落とすような試験じゃない」
……お。
それはありがたい。
「ただ、甘くするつもりもないぞ」
……ですよね。
俺は少し身構えた。
ガレスは訓練場の中央へ歩き、腰の布を指した。
そこには、赤い小さな布が結びつけられている。
「試験内容は簡単だ。俺からこれを奪え」
……え?
それだけ?
「制限時間は3分。俺は木剣で妨害する。お前は好きな能力を使っていい」
……なるほど。
旗取りみたいなものか。
俺は少し考えた。
俺の身体なら、細い触手を伸ばして取れるんじゃないか?
そう思ったが、ガレスが先に言った。
「ただし、俺も動くぞ。届けば勝ちだと思うなよ」
……あ。
ですよね。
「それと、相手に大怪我をさせる攻撃は禁止だ。これは殺し合いじゃないからな」
俺は頷いた。
……了解。
ガレスはルナへ目を向けた。
「そっちの相棒は、あとで別の試験を受けてもらう。まずはノアからだ」
ルナが鼻を鳴らした。
「ふん。しっかり見ておくがよい、ノア」
……おう。
そっちもな。
俺は訓練場の中央へ進んだ。
少し離れた場所で、シエナが記録用の板を用意している。
どうやら、試験内容を書き留めるらしい。
ガレスが木剣を構えた。
「準備はいいか?」
俺は身体を低くした。
《構造形成》。
4本の短い脚を作る。
今朝は、久しぶりにこの形を安定して維持できた。
採石場で失った身体も、食事と休息のおかげで少しずつ戻ってきている。
まだ以前と同じ量ではないが、短時間なら戦闘用の形を作れそうだった。
……よし。
俺は目を上げた。
「……いい」
ガレスが笑った。
「始め!」
◇
最初の攻撃は、驚くほど速かった。
――ヒュッ!
木剣が、横から振り抜かれる。
……っ!
俺は慌てて身体を低くした。
剣が頭の上を通り過ぎる。
……危なっ!
そのまま前へ出ようとしたが、ガレスの足が動いた。
次の瞬間、剣の先端が俺の進路へ突き出される。
……え?
俺は反射的に身体を引いた。
――トンッ。
木剣の先端が、俺の身体へ軽く触れる。
「1本」
ガレスが言った。
……え?
「今のは本気で突いていない。実戦なら、そこへ攻撃が入っている」
……あ。
そういうことか。
俺は少し悔しくなった。
確かに、今の動きは完全に読まれていた。
相手は、ただ剣を振っているわけじゃない。
俺が逃げる方向まで考えて動いている。
……なるほど。
これは手強いぞ。
「もう1度、来い」
ガレスが笑う。
俺は身体を低くした。
今度は、正面から行かない。
身体の右側へ触手を伸ばし、石畳へ固定する。
《粘着性》。
そのまま身体を横へ引いた。
――シュッ!
……よし。
相手の横へ回り込む。
ガレスが木剣を動かした。
俺は触手を細く伸ばし、腰の赤い布へ向かわせる。
……届く!
そう思った瞬間。
――バシッ!
木剣が触手を叩いた。
……っ!
痛い!
俺は慌てて触手を引き戻す。
ガレスは軽く笑った。
「狙いは悪くない。だが、分かりやすすぎる」
……うぐっ。
そのとおりです。
俺は少し距離を取った。
……強いな、この人。
動きに無駄がない。
しかも、俺の身体を怖がっていない。
普通なら、触手が伸びただけで驚く人間もいるのに。
ガレスは最初から、それを攻撃の1つとして見ている。
……よし。
だったら、少し考え方を変えよう。
◇
残り時間は、あと1分ほどだった。
俺は身体を低くしたまま、ガレスの足元を見つめた。
正面から飛び込んでも勝てない。
触手を伸ばしても、簡単に叩き落とされる。
……どうする。
俺には、剣を扱う技術なんてない。
身体の速さだって、今はガレスの方が上だ。
でも。
……待てよ。
相手は、俺の手足を見て攻撃を判断している。
だったら。
見せている手足が、全部本物じゃなかったら?
俺は身体の一部を持ち上げた。
《構造形成》。
前脚を2本。
その後ろへ、もう2本。
さらに、身体の横へ短い触手を作る。
……よし。
これで6本。
ただし、全部を同じ太さにはできない。
質量は増えないからな。
前側の脚は少し太く。
後ろの脚は細く。
横の触手は、短くする。
ガレスが眉を上げた。
「……増えたな」
……まあな。
俺は身体を揺らした。
「……いく」
「来い!」
俺は正面へ飛び出した。
――ダッ!
ガレスが木剣を構える。
俺は前側の脚を大きく動かした。
右へ。
次に左へ。
さらに、身体の横から触手を伸ばす。
……どうだ!
ガレスが木剣を振った。
――バシッ!
触手が叩かれる。
……よし。
そこは、予想どおり。
俺は痛みをこらえながら、身体を低くした。
次の瞬間。
《弾性組織》。
地面へ押しつけていた部分を、一気に戻す。
――ビュッ!
俺の身体が、低い姿勢のまま前へ滑った。
ガレスの足元。
木剣の間合いの内側。
……入った!
「……ほう!」
ガレスが驚いた声を上げる。
だが、まだ終わらない。
男は素早く足を引き、俺から距離を取ろうとした。
……逃がすか!
俺は身体の一部を薄く広げた。
《構造形成》。
足元へ滑り込ませた膜。
それを、ガレスの靴底へ貼りつける。
《粘着性》。
――ピタッ!
ガレスの動きが、ほんの一瞬止まった。
……今!
俺は別の触手を伸ばした。
赤い布へ。
あと少し!
だが。
「……甘い!」
ガレスが木剣を振り下ろした。
……っ!
俺は反射的に身体を縮めた。
――バシンッ!
木剣が、俺の前側の脚を叩く。
……痛っ!
でも。
それは、見せかけの脚だ。
俺は叩かれた部分を柔らかく崩し、そのまま木剣へ絡みつかせた。
……捕まえた!
《粘着性》。
木剣の動きが止まる。
ガレスの目が見開かれた。
「……なっ!?」
俺はその隙に、別の触手を伸ばした。
腰の赤い布。
……あと少し!
ガレスが身体をひねる。
俺は触手を追わせるのではなく、身体全体を横へ滑らせた。
そして。
――シュルッ。
……取った!
俺の触手の先には、赤い布があった。
一瞬、訓練場が静まり返った。
俺は身体を持ち上げる。
「……とった!」
ガレスが自分の腰を見た。
そこには、もう何もない。
しばらくして。
「……はっはっは!」
男が大きく笑い出した。
……え?
俺は少し身構えた。
怒った?
いや。
違うらしい。
ガレスは木剣を下ろし、楽しそうに笑っている。
「こりゃ参った! 見事にやられたな!」
……おお。
勝ったのか。
本当に?
俺は赤い布を見た。
……勝った!
やったぞ!
俺は思わず、身体を高く持ち上げた。
その瞬間。
――べちゃっ。
……あ。
脚が崩れた。
……しまった。
ちょっと力を使いすぎたな。
俺は石畳へ身体を広げた。
すると、ルナが駆け寄ってきた。
「ノア!」
……ん?
「見事だったぞ!」
……おお。
ありがとう。
俺は触手を持ち上げた。
すると、ルナは楽しそうに笑った。
「最後の動きは、なかなかよかった」
……だろ?
頑張ったんですよ。
「ただし、終わった途端に潰れるのは格好がつかぬな」
……。
……それは言わないでくれ。
俺は少しだけ身体を縮めた。
◇
「合格だ」
ガレスが言った。
俺は顔を上げた。
……お。
本当に?
「時間内に布を奪った。それに、相手を傷つけすぎないよう力を調整していた」
……ああ。
そこは気をつけてたからな。
ガレスは木剣を肩へ担いだ。
「だが、正直に言うと、最初は驚いたぞ」
……ん?
「お前の身体の動きは、普通の相手とはまるで違う」
……そうなのか。
「剣を避けたと思ったら、次の瞬間には身体の形が変わっている。足元へ潜り込んだと思えば、今度は武器に絡みついてくる」
ガレスは笑った。
「こんなのと実戦で戦うのは、御免だな」
……。
……え?
俺は少し驚いた。
そんなに?
ガレスは真面目な顔に戻った。
「ただし、今のままでは強い相手に通用しない」
……あ。
やっぱり。
「動きがまだ遅い。特に、攻撃する前に身体の形を変える癖がある。それを見ていれば、次に何をするか予想できる」
……なるほど。
確かに、俺は動く前に形を作っている。
新しい脚。
触手。
硬い部分。
それを準備してから攻撃していた。
でも。
「慣れてくれば、もっと速くできるはずだ」
……お。
ガレスは続けた。
「形を作りながら動けるようになれば、相手にとってはかなり厄介だぞ」
……。
……それだ。
俺は思わず身体を起こした。
今まで、俺は《構造形成》を準備として使うことが多かった。
移動するための脚を作る。
戦うための硬い部分を作る。
何かを掴むための触手を作る。
でも、戦いながら変え続ければ。
相手は、次に何が来るか分からなくなる。
……面白い。
それ、めちゃくちゃ面白いじゃないか。
俺はガレスを見た。
「……ありが、と!」
男は豪快に笑った。
「おう。次に来るときは、もっと厄介になってろよ!」
……任せてくれ。
俺は触手を持ち上げた。
◇
続いて、ルナの試験が始まった。
「さて。次はお前だな」
ガレスがルナへ向き直る。
「ノアとは違って、随分と小さいな」
……あ。
その言い方。
ルナの耳が、ぴくりと動いた。
「……小さい?」
……やばい。
俺は少し身体を縮めた。
ガレスは気づかずに続ける。
「ああ。身体が小さいと、力勝負では不利だろう」
……おいおい。
それ以上はやめとけって。
ルナが静かに笑った。
「……ふむ」
……あ。
この笑い方。
絶対に怒ってる。
「では、試してみるがよい」
ガレスが木剣を構えた。
「よし。かかってこい!」
ルナは動かなかった。
ただ、前脚を1本持ち上げる。
……え?
俺は目を細めた。
それから。
「《衝撃》」
――ドンッ!!
訓練場の石畳が、大きく鳴った。
ガレスの足元から少し離れた場所。
そこに、衝撃が叩き込まれた。
ガレスが反射的に身体を低くする。
「……っ!?」
ルナは平然と告げた。
「次は、貴様の剣へ当ててもよいぞ」
……。
…………。
……うわあ。
やっぱり怒ってた。
ガレスは、しばらくルナを見ていた。
そして。
「……なるほど」
男はゆっくり木剣を下ろした。
「お前も、見た目で判断しちゃいけねえ相手だな」
ルナは満足そうに鼻を鳴らした。
「当然であろう」
……はい。
俺もそう思います。
ただし、ルナの試験はそれで終わらなかった。
ガレスはそのあと、移動速度や攻撃の正確さ、味方との連携を確かめる課題を出した。
ルナはどれも手際よくこなし、最後にはガレスから合格を言い渡された。
……さすがだな。
俺は少し誇らしくなった。
◇
「お二方とも、合格です」
受付へ戻ると、シエナが2枚の小さな札を用意してくれていた。
青銅色の金属札だ。
表面には、ギルドの紋章。
裏側には、それぞれの名前が刻まれている。
ノア。
ルナ。
俺は自分の札を受け取った。
……おお。
また、名前が増えた。
東の関所で書いてもらったときも嬉しかったけど、今回は少し違う。
自分で受けた試験に合格して、手に入れたものだからだ。
「これは協力者札です。正式な冒険者証ではありませんが、レムナのギルドが紹介する協力案件へ参加できます」
……なるほど。
俺は札を荷物へしまった。
「ただし、危険度の高い依頼は、担当者との相談が必要になります」
ルナが頷いた。
「承知した」
「明日以降でしたら、いくつかご紹介できると思いますよ」
……仕事か。
悪くない。
レムナには、まだ調べたい場所がたくさんある。
水路。
川の周辺。
町の外に広がる森。
……うん。
楽しみだな。
俺たちはシエナへ礼を言い、ギルドを出た。
◇
夕方のレムナは、朝とは違う賑わいを見せていた。
水路には灯りが映り、屋台からは焼き物の煙が立ち上っている。
俺は通りの端を、ゆっくり進んでいた。
試験で少し無理をしたせいか、身体が重い。
……うーん。
今日は、もう休みたいな。
すると、ルナが隣へ来た。
「……ノア」
……ん?
「今日の貴様は、少し格好よかったぞ」
……え?
俺は思わず顔を上げた。
ルナは前を向いたまま歩いている。
「最後の動きだ。あれは見事だった」
……。
……おお。
褒められた。
しかも、かなり素直に。
俺は少し嬉しくなった。
「……ありが、と」
ルナが小さく笑った。
「ふん。調子に乗るでないぞ」
……はいはい。
分かってますって。
俺たちは並んで歩いた。
水路の向こうから、船を引く声が聞こえる。
橋の上では、子どもたちが何かを競うように走っていた。
……そういえば。
俺は今日の試験を思い出した。
木剣。
ガレスの動き。
そして、最後に赤い布を取った瞬間。
あれは、運がよかっただけじゃない。
自分で考えて。
試して。
何度か失敗して。
それで、ようやく成功した。
……うん。
今までとは、少し違うな。
俺は自分の身体へ目を向けた。
この形。
この力。
まだ、できないことは多い。
でも、やり方次第で、相手の予想を超えられる。
しかも。
戦いながら身体の形を変える。
その発想は、これからもっと練習できそうだった。
……よし。
次は、もっと上手くやろう。
俺がそんなことを考えていると、ルナが足を止めた。
「……ノア」
……ん?
「1つ、言っておくことがある」
珍しく真面目な声だった。
俺も動きを止めた。
ルナは、少しだけ俺を見上げた。
「貴様が強くなるのは、よいことだ」
……おう。
「だが、我の仕事まで奪うでないぞ」
……え?
俺は目を丸くした。
ルナは続けた。
「貴様だけが強くなって、我を後ろへ置いていくようなことは許さぬ」
……。
…………。
……ああ。
そういうことか。
俺は少し考えた。
ルナは、ずっと俺の隣にいた。
俺が弱かった頃も。
まともに歩けなかった頃も。
声が出せなかった頃も。
ずっと一緒だった。
……だったら。
これからも、そうすればいい。
俺は触手を伸ばした。
ルナの前脚へ、軽く触れる。
「……いっしょ」
ルナの耳が動いた。
「……む?」
俺はもう1度、触れた。
「……つよく」
少し間があった。
それから、ルナが笑った。
「……うむ」
その声は、いつもより少し穏やかだった。
「そうだな。我らは一緒に強くなればよい」
俺は身体を上下させた。
……おう。
それで決まりだ。
ルナは少し前へ出た。
そして、振り返る。
「では、帰るぞ。今日は我も腹が減った」
……了解。
俺は後を追った。
ただし、今日は少しだけ、違うことを考えていた。
ガレスに言われた言葉。
戦いながら、身体を変える。
……次は、どんな形を試そうか。
俺は歩きながら、身体の横へ短い触手を作ってみた。
そのまま、前脚の形を変える。
さらに、後ろへ伸ばす。
……お。
少しだけ、できた。
だが、すぐにバランスが崩れる。
――べちゃっ。
……あ。
また転んだ。
ルナが振り返った。
「……何をしておる?」
……いや。
ちょっと練習を。
ルナはしばらく俺を見ていた。
そして、大きく息を吐く。
「……貴様は、もう少し休むことを覚えよ」
……はい。
ごもっともです。
俺は素直に身体を丸めた。
すると、ルナは俺の隣へ戻ってきた。
「帰るまでは、練習禁止だ」
……えー。
「返事は?」
俺は渋々、声を出した。
「……はい」
ルナが満足そうに頷く。
「よろしい」
……まったく。
偉そうなんだから。
俺は少し笑いながら、ルナの隣へ並んだ。
今日、手に入れた協力者札が、荷物の中で小さく鳴った。
これからは、ギルドの仕事にも少しずつ関われるようになる。
そして、今日の試験で分かったこともある。
俺は、まだまだ強くなれる。
それも、誰かと同じ戦い方をする必要はない。
この身体にしかできない方法で。
……よし。
明日は、何を試そうかな。
いや。
まずは、ちゃんと休んでからだな。
俺は少しだけ歩く速度を落とした。
ルナも、何も言わずにそれへ合わせてくれた。




