新しい身体
第9話 新しい身体
最初に戻ってきたのは、感覚だった。
……こつん。
遠くで、何かが岩に触れた。
続いて、細かな振動が伝わってくる。
……カリ、カリ。
小さな生物が歩いているらしい。
「……ん?」
意識がゆっくりと浮かび上がる。
俺は、自分が岩の隙間にいることを思い出した。
そうだ。
変異だ。
《万能適応型》を選んで、身体が変わり始めたところまでは覚えている。
その後、意識が途切れて……。
「……終わったのか?」
恐る恐る身体を動かそうとした。
すると。
ぐにゃり。
身体の一部が、思った方向へ伸びた。
「……お?」
動く。
それも、以前より滑らかに。
俺は身体を縮め、今度は反対側へ伸ばしてみた。
ぐにゃっ。
……おお。
「生きてる!」
いや、当たり前か。
死んでいたら考えることもできないだろうし。
俺はひとまず安心し、身体全体の状態を確かめた。
半透明の柔らかい身体。
岩に張りつく感覚。
周囲の細かな振動。
基本的な部分は、変異前と変わっていない。
「……あれ?」
ちょっと待て。
変異したんだよな?
あれだけ大げさな表示が出て、意識まで失ったというのに。
これでは、ただ寝て起きただけじゃないか。
「……まさか、失敗した?」
嫌な予感がした、そのときだった。
《第1段階変異完了》
《変異方向:万能適応型》
《身体構造の再編成が完了しました》
《構造形成が可能になりました》
「……おお!」
成功してる!
よかった。
本当によかった。
俺は改めて情報を確かめた。
《構造形成》
身体の一部を用途に応じた形状へ変化させます。
獲得済みの性質を組み合わせることで、形成した構造に追加の機能を持たせることが可能です。
構造の形成・維持には身体資源を使用します。
「……なるほど」
説明を読む限り、やっぱり思ったとおりの能力らしい。
今までも身体を伸ばしたり、薄く広げたりすることはできた。
だが、それは柔らかい身体を変形させていただけだ。
今回の変異では、もっとはっきりとした形を作れるようになったらしい。
「……よし、試してみるか」
俺は身体の一部へ意識を集中させた。
まずは、分かりやすいものから。
人間だった頃の腕を思い浮かべる。
肩があって、肘があって、手首があって。
その先には5本の指。
……いや。
「……いきなり難しすぎるか?」
今の俺には骨も筋肉もない。
人間の腕を正確に再現しようとしたところで、うまく動かせるとは思えない。
だったら、もっと簡単なものにしよう。
「……脚だな」
といっても、人間の脚じゃない。
地面を押して進むための、単純な棒のようなものだ。
俺は身体の下側へ意識を向けた。
そこから、短い突起を伸ばす。
ぐにゅっ。
「……お?」
できた。
身体の下から、細長いものが伸びている。
もちろん、自分の姿が見えるわけではない。
だが、突起の先端が岩へ触れている感覚はある。
「……これ、使えるんじゃないか?」
俺は突起を硬くし、地面を押してみた。
ぐぐっ……。
身体が、わずかに持ち上がった。
「……おおお!」
浮いた!
いや、正確には持ち上がっただけだ。
それでも、これまでの俺にとっては大きな進歩だった。
今までは、身体を伸ばして縮めることしかできなかった。
岩に張りつくか、地面を這うか。
移動方法は、ほとんどその2つだけ。
それが今、脚のようなものを作って身体を支えている。
「……すげえな!」
俺は調子に乗って、もう少し身体を持ち上げようとした。
しかし。
ぐにゃっ。
「あっ」
突起が横へ曲がった。
支えを失った身体が、べちゃっと岩の上へ広がる。
「…………」
……駄目だった。
どうやら、棒を1本作っただけでは身体を支えきれないらしい。
当たり前といえば当たり前だ。
「……なら、数を増やせばいいのか?」
俺は今度、身体の下から3本の突起を伸ばしてみた。
それぞれを少し離れた位置に配置する。
そして、同時に地面を押す。
ぐぐぐっ……。
「……お?」
さっきより安定している。
俺は慎重に身体を持ち上げた。
……成功。
少なくとも、すぐに潰れることはなくなった。
「……いいじゃん!」
ただし、問題もあった。
3本の突起を同時に動かそうとすると、意識がうまく分散できない。
右を動かせば左が止まる。
左を動かせば、今度は後ろの支えが曲がってしまう。
「……難しいな、これ」
人間だった頃は、歩くことなんて意識していなかった。
足を出そうと思えば勝手に出るし、身体も自然とバランスを取ってくれる。
だが、今は違う。
脚を作るところから始めなければならない。
しかも、作った脚をどう動かすかまで考える必要がある。
「……赤ちゃんってすごいんだな」
そんな妙な感想を抱きながら、俺は何度も練習した。
突起を伸ばす。
岩に固定する。
身体を押す。
支えを移動させる。
最初はすぐに潰れていたが、何度か繰り返すうちに、少しずつ動かせるようになってきた。
……そして。
「……できた!」
身体を持ち上げたまま、ほんの少し前へ進めた。
たったそれだけ。
距離にすれば、身体の大きさにも満たない。
それでも、確かな進歩だった。
「……よし、次!」
俺は脚を解除し、身体を元の形へ戻した。
今度は腕。
いや、腕というより触手だな。
身体の横から、細長い突起を伸ばす。
先端を岩へ触れさせ、そのまま曲げる。
……できる。
さらに《粘着性》を使ってみる。
ぺたり。
岩にくっついた。
そのまま引っ張る。
ぐいっ。
「……おお!」
これなら、今までよりずっと細かい動きができそうだ。
俺は触手を伸ばしたり縮めたりしながら、周囲の岩を探ってみた。
小さな亀裂。
岩の凹凸。
細かな石の粒。
以前は身体全体で触れていたものを、今度は触手の先端だけで確かめられる。
「……便利だなぁ」
特にいいのは、身体の大部分を動かさなくて済むことだ。
狭い場所に隠れたまま、触手だけを伸ばして周囲を探れる。
これは今後、かなり役に立つだろう。
「……じゃあ、次はこれだな」
俺は触手の先端へ《硬質外皮》を集中させた。
ぐぐっ……。
柔らかかった先端が、少しずつ硬くなる。
そこから、さらに形を変える。
丸かった先端を細く。
できるだけ尖らせるように。
すると。
こつん。
岩に触れた感覚が変わった。
「……お?」
俺は慎重に先端を押しつけた。
硬い。
しかも、さっきまでよりも細い部分へ力を集中できる。
「……これ、武器になるんじゃないか?」
俺は期待しながら、岩へ突き立ててみた。
カツン!
……。
……何も起きない。
「…………」
まあ、そうだよな。
いくら硬くなったからといって、岩を簡単に砕けるわけがない。
それに、強く押しつけると先端が少し曲がってしまう。
「……まだまだか」
それでも、使い道はありそうだった。
柔らかい獲物なら、傷をつけられるかもしれない。
硬い甲殻の隙間に差し込むこともできそうだ。
何より、相手を捕食するときに使える。
今までのように、身体全体を押しつける必要がなくなるかもしれない。
「……いいねぇ」
俺は満足しながら、触手を元に戻した。
そのときだった。
ぐらっ。
「……ん?」
身体の感覚が、急に鈍くなった。
岩に張りつく力が弱まり、身体の一部がずるりと滑る。
「……うおっ!?」
慌てて《粘着性》を強めた。
何とか落下は防げたものの、身体の奥に強い疲労感が広がっている。
「……何だ?」
変異直後だからだろうか。
いや、違う。
さっきまで何度も構造を作り直していた。
しかも、《硬質外皮》まで使っている。
「……もしかして、使いすぎた?」
俺は身体を小さくまとめた。
すると、少しずつ感覚が戻ってくる。
どうやら、《構造形成》には相応の負担があるらしい。
ただ形を変えるだけなら、それほど問題はない。
だが、複雑な形を作ったり、複数の構造を維持したりすると、負担が大きくなる。
「……なるほどな」
何でも自由に作れるわけじゃない。
それに、身体の量そのものが増えるわけでもない。
触手を長く伸ばせば、他の部分が薄くなる。
脚を何本も作れば、それだけ身体の中心が小さくなる。
「……結局、使い方次第か」
俺は身体を休めながら、変異後の状態を改めて確かめた。
すると、もう1つ気になる部分があった。
「……ん?」
身体の中心。
そこに、以前とは違う感覚がある。
周囲の柔らかい部分とは明らかに違う、少し密度の高い塊。
大きさは、身体全体からすればごく小さい。
だが、意識を集中させると、その部分だけ妙にはっきりと感じられた。
「……何だ、これ?」
俺は試しに、中心部分を動かそうとしてみた。
すると、周囲の身体がゆっくりと形を変え、塊を包み込むように移動した。
だが、塊そのものを変形させることはできない。
「……もしかして、核?」
アメーバのような生物にも、核はある。
もちろん、俺の身体が地球のアメーバと同じ構造だとは限らない。
だが、どうやら変異によって、身体の中心に何らかの重要な部分が形成されたらしい。
そう考えた瞬間、情報が浮かび上がった。
《中枢核形成》
身体構造の制御を担う中枢を形成しました。
中枢核の重大な損傷は生命活動に影響します。
「…………」
……おい。
ちょっと待て。
重大な損傷は生命活動に影響?
「……つまり、ここを壊されたら死ぬってことか?」
今までだって、身体を全部潰されれば死ぬだろうとは思っていた。
だが、今度は明確な弱点ができたらしい。
「……便利になった分、急所もできたのかよ」
俺は思わず身体を縮めた。
いや、落ち着け。
考えようによっては、悪いことばかりじゃない。
身体のどこが重要なのか分かったのだ。
だったら、そこを重点的に守ればいい。
「……試してみるか」
俺は中心部分の周囲へ《硬質外皮》を集中させた。
ぐぐっ……。
中枢核を包むように、薄い硬質層が形成される。
「……お?」
できた。
ただし、身体の動きは少し鈍くなった。
さらに厚くしようとすると、今度は周囲の構造が思うように作れなくなる。
「……やっぱり限界があるんだな」
核を守るために全身を硬くしてしまえば、今度は移動できなくなる。
逆に、触手や脚を大量に作れば、防御に回せる身体が減ってしまう。
何を優先するか。
それを常に考える必要があるらしい。
「……ま、仕方ないか」
俺は硬質層を少し薄くした。
最低限の防御を残し、身体を動かせる状態へ戻す。
これで十分かどうかは分からない。
だが、何も守らないよりはいいだろう。
「……よし」
とりあえず、今回の変異で何ができるようになったのかは分かった。
脚のような構造。
触手。
硬い突起。
そして、中枢核を守る外殻。
まだまだ使いこなせていないが、練習すれば色々なことができそうだ。
……ただし。
「……めちゃくちゃ腹減ったな」
どうやら、構造形成の練習でかなり栄養を消費してしまったらしい。
身体の奥から、強い空腹感が湧き上がってくる。
「……食い物、探すか」
俺は岩の隙間から身体を伸ばした。
すると、少し離れた場所で、小さな振動が伝わってきた。
……カリ。
……カリカリ。
「……お?」
どうやら、甲殻を持つ虫が近くにいるらしい。
ちょうどいい。
今の身体を試す相手としては、悪くないだろう。
……もちろん、群れだったら逃げるけど。
俺は《微振動感知》を使い、周囲を慎重に探った。
反応は1つ。
少なくとも、近くに仲間がいる様子はない。
「……よし」
俺は岩の亀裂から、細長い触手を伸ばした。
今度は身体全体を近づける必要がない。
触手の先端へ《粘着性》を集中させ、獲物が近づくのを待つ。
……カリ、カリ。
来た。
あと少し。
もう少し。
そして。
ぺたり。
「……捕まえた!」
触手の先端が、獲物の身体へ張りついた。
虫が激しく暴れ始める。
だが、俺は慌てなかった。
触手を引き戻し、獲物を岩の隙間へ引き寄せる。
……ぐいっ!
「……おお!」
今までより、ずっと簡単に捕まえられる!
俺は身体の一部を広げ、獲物を包み込んだ。
だが、そこで問題が起きた。
カリカリカリッ!
虫が硬い脚を動かし、身体を引っかいてくる。
「……痛っ!」
やっぱり、甲殻を持つ虫は厄介だ。
だが、今度は対処法がある。
俺は虫を押さえている部分の一部を硬くした。
そして、別の場所から細い触手を伸ばす。
「……ここだな」
甲殻の継ぎ目。
以前、苦労して探した柔らかい部分だ。
俺は触手の先端をさらに細くした。
そこへ《微弱毒分泌》を集中させる。
……じわっ。
触手の先端から、毒が滲み出す。
虫が激しく暴れた。
だが、しばらくすると動きが鈍くなっていく。
「……よし!」
俺はそのまま捕食を始めた。
甲殻の隙間から、ゆっくりと取り込んでいく。
今までなら、身体全体を使って押さえつける必要があった。
だが、今回は違う。
触手で捕まえる。
硬い部分で抵抗を防ぐ。
そして、細い先端から毒を送り込む。
「……これ、かなりいいんじゃないか?」
もちろん、まだ完璧じゃない。
触手を2本同時に動かすだけでも、意識を集中させる必要がある。
途中で《硬質外皮》が弱まり、虫に身体を引っかかれた場面もあった。
それでも、以前より確実に楽になっている。
やがて、虫の動きが完全に止まった。
「……ふぅ」
俺は獲物をゆっくりと取り込んだ。
身体の奥へ栄養が流れ込んでくる。
同時に、さっきまでの強い空腹感が少しずつ和らいでいった。
「……なるほどなぁ」
俺は身体を小さく丸めた。
今回の変異で、いきなり圧倒的に強くなったわけではない。
脚を作っても、うまく歩けない。
触手を作っても、動かし方には練習が必要だ。
硬質化も毒も、無制限に使えるわけじゃない。
それでも。
「……できることは、確実に増えたな」
今までは、身体を変形させるだけだった。
だが、これからは違う。
捕食によって得た性質を、必要な形に組み込める。
身体のどこを硬くするか。
どこから毒を出すか。
どんな形で獲物を捕まえるか。
それを、自分で選べるのだ。
「……いいじゃん、万能適応型」
俺は満足しながら、身体をゆっくりと伸ばした。
試しに短い脚を3本形成する。
さっきよりも、少しだけ安定していた。
岩の上に身体を持ち上げる。
そして、1本ずつ脚を動かしてみる。
……ぐらっ。
「……うおっ!?」
慌てて触手を伸ばし、岩へ張りついた。
危ない危ない。
やっぱり、歩くのはまだ難しいらしい。
「……練習あるのみ、か」
俺は脚を解除し、いつものように身体を這わせた。
無理に新しい移動方法を使う必要はない。
狭い場所では、今までどおりの柔らかい身体が役に立つ。
広い場所では、脚を使えるようになればいい。
状況に応じて変えればいいのだ。
……それこそが、今回選んだ変異の強みなのだから。
そう考えながら、俺は岩の隙間を進んでいった。
しばらくすると、周囲の感触が少し変わってきた。
「……ん?」
岩肌が乾いている。
水たまりの近くとは違い、湿気が少ない。
しかも、身体の表面を撫でるような、微かな空気の動きがあった。
「……風?」
俺は動きを止めた。
洞窟の奥で、風を感じる。
ということは、どこかに空気の通り道があるのかもしれない。
「……もしかして、外に繋がってる?」
期待が膨らんだ。
転生してから、ずっと洞窟の中にいる。
まだ空も見ていない。
……そもそも目がないから、外に出ても見えないんだけど。
いや、それは別の問題だ。
もし出口が見つかれば、この世界がどんな場所なのか確かめられる。
人間がいるかもしれない。
町があるかもしれない。
何より、この洞窟から出られるかもしれないのだ。
「……よし、ちょっと調べてみるか」
俺は身体の一部を細長く伸ばした。
先端へ意識を集中させ、空気の流れを探る。
すると、岩の奥から微かな冷たさが伝わってきた。
どうやら、どこかに細い通路があるらしい。
俺はその方向へ進もうとした。
……そのときだった。
ズ……ズズ……。
遠くから、重い振動が届いた。
「……ん?」
俺は動きを止めた。
今まで感じてきた虫の動きとは違う。
もっと大きい。
しかも、一定の間隔で岩を叩くような振動ではない。
何かが、長い身体を引きずっているような。
そんな感覚だった。
ズズズ……。
振動が続く。
俺は岩肌へ身体を押しつけた。
「……何だ?」
遠い。
まだ距離はある。
だが、相手が相当大きいことだけは分かった。
それに、妙なことがある。
振動が1か所からではなく、少し離れた複数の場所から伝わってくるのだ。
まるで、長い身体のあちこちが同時に岩へ触れているようだった。
「……また、変なのがいるな」
俺は慎重に後退した。
今の俺では、正体の分からない大型生物に挑むなんて無謀すぎる。
せっかく変異したばかりなのだ。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
「……今日はここまでにするか」
俺は来た道を戻り、安全な岩の隙間へ身体を滑り込ませた。
そして、最後にもう1度だけ、遠くの振動を確かめる。
ズズ……。
……カリ。
ズズズ……。
「……ん?」
何かがおかしい。
大きな振動の合間に、小さな硬いものが岩へ触れる感覚が混じっている。
しかも、1つや2つではない。
いくつもの細かな振動が、長い動きに合わせて続いていた。
「……まさか、脚がいっぱいあるのか?」
俺はしばらく考えた。
長い身体。
大量の脚。
そして、岩を引きずるような動き。
……何となく、嫌な想像が浮かんだ。
「……いやいや」
もし、俺の想像しているような生物だったら。
それも、この洞窟を揺らすほど巨大なものだったら。
「……絶対に会いたくないな」
俺は身体を小さく縮めた。
今のところ、相手がこちらに気づいている様子はない。
それなら、わざわざ確かめに行く必要もないだろう。
ただ、1つだけ分かったことがある。
この洞窟には、まだ俺の知らない生物がいる。
それも、今まで遭遇した相手より、さらに危険かもしれない生物が。
「……もっと強くならないとな」
俺は身体の一部を伸ばし、小さな触手を作った。
その先端を硬くする。
続いて、別の部分から短い脚を形成する。
……ぐらっ。
「あ、駄目だ」
同時に使おうとすると、やっぱりバランスが崩れる。
俺は脚を解除し、触手だけを残した。
「……まあ、少しずつだな」
焦る必要はない。
この身体は、まだ成長できる。
新しい性質を手に入れれば、できることも増えるだろう。
今は小さな虫を相手にするのが精一杯でも、いつかはもっと強い生物にだって対抗できるかもしれない。
俺はそんな未来を想像しながら、身体を岩へ密着させた。
……ズズズ。
遠くから、また重い振動が届く。
その方向を意識しながら、俺は静かに身体を休めた。
まだ、洞窟の外には出られない。
だが、確実に前へ進んでいる。
そして何より。
俺はもう、ただの柔らかい塊ではなかった。
自分の身体を、自分で変えられる。
その可能性を手に入れたのだから。




