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ゲームだと思ったら原初の生命に転生しました。  作者: くんくん
第2部

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第2部 第60話 空欄

「……あいつら、また来ると思うか?」


ニコがそう尋ねたのは、日が沈んで間もない頃だった。


俺たちは古い敷石道を少し戻り、岩陰で休んでいた。


坑道から救出したガランとニコは、まだ長い距離を歩ける状態じゃない。特にニコは足元がおぼつかず、何度か俺が身体を伸ばして支えることになった。


3日も閉じ込められていたのだから、無理もない。


焚き火の向こうでは、髭面の男が縄で手首を縛られている。


若い男も同じだ。


こちらは自分から逃げないと約束していたが、それだけで自由にするわけにはいかなかった。


……まあ、当然だよな。


「分からん」


ガランが答えた。


「だが、あの男は帳面を取り返すまで諦めないかもしれん」


ニコの顔が強張った。


「……ですよね」


俺は2人の会話を聞きながら、焚き火から少し離れた場所へ身体を広げた。


《微振動感知》。


地面へ触れている部分を増やし、周囲の動きを確かめる。


……うん。


今のところ、近づいてくる足音はない。


ただ、この辺りは砂が多い。


硬い岩盤を通る振動は拾いやすいけど、砂の上を静かに歩かれたら気づくのが遅れるかもしれない。


だから、今夜は俺とルナで周囲を見張ることにしていた。


「……ノア」


隣へ来たルナが小さく声をかける。


「少しは休め」


俺は身体を上下させた。


「……へい、き」


「ふん。貴様の平気は、あまり信用できぬ」


……ひどいな。


そこまで無茶してるつもりはないんだけど。


「少なくとも、我にはそう見えるぞ」


ルナは俺の隣へ伏せた。


それから、静かに耳を動かす。


……ああ。


そういうことか。


俺が振動を確かめている間、ルナは音と匂いを見張ってくれるらしい。


俺は少しだけ身体を縮めた。


……ありがたい。


こういうとき、得意なことが違う相棒がいるのは本当に助かる。


「……あの」


焚き火の向こうから、若い男が口を開いた。


俺たちの視線がそちらへ向く。


男は少し迷ってから、頭を下げた。


「名前も名乗ってませんでしたね。俺、テオっていいます」


……テオ。


短くて覚えやすいな。


「俺はあいつらに雇われて、荷物の見張りをしてました。まさか、こんなことになるなんて……」


「まさか、で済む話か?」


ガランの声が低くなった。


テオは俯いた。


「……すみません」


「俺たちは3日間、あそこに閉じ込められてたんだぞ」


「はい……」


ガランはそれ以上何も言わなかった。


俺も口を挟まない。


テオが最後に助けてくれたのは事実だ。


でも、それ以前にガランたちを閉じ込める側にいたことまで消えるわけじゃない。


……うん。


難しい話だな。


俺は少し考えた。


人間だった頃にも、上の人間に逆らえなくて困ったことは何度もあった。


でも、だからといって、何をしても仕方ないとは思わない。


少なくとも今回は、人の命がかかっている。


テオには、きちんと事情を話してもらう必要があるだろう。


「……テオ」


ルナが声をかけた。


「逃げた男の名前は?」


「……グランツです」


……グランツ。


俺は頭の中で名前を繰り返した。


「俺たちは、グランツに雇われました。金払いはよかったんです。でも、仕事の中身はほとんど教えてもらえなくて……」


「どこへ荷物を運ぶつもりだった?」


「南の方です。岩山の向こうに、荷物を引き渡す場所があるって」


……引き渡す場所?


町じゃないのか?


ルナも同じことを考えたらしい。


「相手の名前は?」


テオは首を横へ振った。


「知りません。俺たちは荷物を守るだけで、受け渡しはグランツがやることになってました」


……なるほど。


それなら、テオが詳しいことを知らないのも不思議じゃない。


ただ、本当のことを全部話しているかどうかは、まだ分からないけどな。


ルナはしばらくテオを見つめていた。


やがて、小さく息を吐く。


「……ふむ。ならば、明日イリナのところへ戻ってから、今後のことを決めるとしよう」


……うん。


それがよさそうだ。


俺はもう1度、周囲の振動を確かめた。


遠くで小石が転がる。


風に揺れた草が、地面を小さく擦る。


それ以外に、目立った動きはない。


……今夜は、何も起きないといいな。


そんなことを考えながら、俺は焚き火の向こうにある紙の束へ目を向けた。


ガランが持っていた帳面。


あの男たちが、どうしても欲しがっていたものだ。


……いったい、何が書いてあるんだろう。


◇


「……見たいのか?」


俺が帳面を眺めていることに気づいたらしい。


ガランが声をかけてきた。


俺は少し迷ってから、身体を上下させた。


「……うん」


ガランは小さく笑った。


「いいぞ。どうせ、あんたたちには見てもらうつもりだった」


そう言って、帳面を開く。


中には、細かな文字がびっしり並んでいた。


……うわ。


これは無理だ。


エマから文字を教わったとはいえ、今の俺が読めるのは簡単なものだけだ。


しかも、まだ字の形を覚えている途中。


こんなに細かな文字が並んでいたら、何が何だか分からない。


……くそっ。


もっと勉強しておけばよかった。


俺は小さな目を動かしながら、紙の上を眺めた。


ガランが説明を始める。


「ここが荷物の種類。こっちが数で、その隣が送り主と受取人だ」


……なるほど。


俺は触手で、ガランが指した場所をなぞる。


文字は読めないが、欄が分かれていることは理解できた。


「食料が5箱。染料が3箱。道具類が2箱。ここまでは普通だ」


……うん。


「問題は、この下だ」


ガランが別の行を指した。


そこには、ほかの文字とは少し違う書き方で、短い言葉が並んでいた。


「『測量器具』。それが6本」


……測量器具?


俺は少し考えた。


土地の高さや距離を測るための道具だろうか。


でも、あの金属棒が?


……いや。


確かに、棒状の測量道具って聞けば、そういうものもありそうだけど。


「最初は俺も、普通の仕事道具だと思ってたんだ」


ガランが続ける。


「ただ、荷箱の中身を確かめたとき、どうにも様子がおかしくてな」


……ああ。


それで、荷主に確認しようとしたのか。


「おまけに、この行だけ妙なことになってる」


ガランは、帳面の右端を指した。


俺は首を伸ばした。


……ん?


そこだけ、何も書いていない。


周囲の行には文字があるのに、その場所は白いままだった。


「ほかの荷物には、全部受取人が書いてある。でも、測量器具のところだけ空欄なんだ」


……え?


受取人が?


俺はもう1度、帳面を見た。


確かに、そこだけ空いている。


「最初は書き忘れかと思った。だから確認したんだが……」


ガランは苦々しそうに笑った。


「それが気に入らなかったらしい」


……なるほど。


たった1つの空欄。


そのせいで、あんな目に遭ったのか。


……いや。


逆か。


受取人を書けないような荷物だったから、確認されたくなかったのかもしれない。


俺はしばらく、その白い部分を眺めていた。


すると。


……ん?


何か、おかしい。


俺は触手を伸ばし、紙の表面へそっと触れた。


……あれ?


完全に平らじゃない。


文字のないはずの場所に、細かな凹凸がある。


俺はもう少し慎重に確かめた。


……ん。


やっぱり。


何かの跡が残っている。


「……ノア?」


ガランが不思議そうに尋ねる。


「どうした?」


俺は空欄を指した。


「……ここ」


「そこが空欄なんだが……」


「……あと、ある」


……うーん。


伝わるかな。


俺は触手の先端を細くし、凹凸に沿って動かしてみせた。


ガランはしばらく首を傾げていたが、やがて帳面を持ち上げた。


「……跡?」


俺は勢いよく身体を上下させた。


……そう!


それ!


ガランは帳面を焚き火の光へかざした。


斜めから光を当て、紙の表面を眺める。


すると。


「……あ」


小さな声が漏れた。


……お?


見えた?


「本当だ。何か押した跡がある」


……やっぱり!


俺は嬉しくなって身体を持ち上げた。


「……字を書いた跡か?」


ルナが尋ねる。


ガランはしばらく確かめてから、頷いた。


「たぶんな。だが、これだけじゃ読めない」


……なるほど。


俺は少し考えた。


紙の上には文字がない。


でも、何かを押しつけた跡が残っている。


もしかしたら、別の紙に書いた文字の筆圧が移ったのかもしれない。


人間だった頃にも、そういうことがあった。


メモ帳の上の紙を剥がしても、下の紙に文字の跡が残ってるやつだ。


……ということは。


ここには、以前何かが書かれていたのか?


それとも、別の紙を重ねて書いていたのか?


……うーん。


分からないな。


「無理に触らない方がよさそうだ」


ガランが帳面を閉じた。


「これも証拠になるかもしれん」


……あ。


確かに。


俺は触手を引っ込めた。


危ない危ない。


下手に調べようとして、破いてしまったら大変だ。


ルナが静かに口を開いた。


「……受取人を隠したかったのか。それとも、別の理由があるのか」


……そうだな。


まだ何とも言えない。


ただ、あの男たちが帳面を取り返そうとしていた理由は、少し分かった気がする。


俺はガランが包み直した紙束を見つめた。


小さな帳面。


見た目には、何の変哲もない。


それなのに、これを巡って人間が閉じ込められ、命まで危険に晒された。


……何だかな。


俺は少し嫌な気分になった。


けれど、同時に。


あの金属棒が、ますます気になってきた。


魔獣が嫌がる振動を出す道具。


エルデ村でも、よく似たものを見た。


そして、今回の荷物には受取人が書かれていない。


……偶然、なのかな。


俺にはまだ判断できない。


でも、少なくとも。


ただの測量道具だとは、思えなかった。


◇


翌朝、俺たちは早めに出発した。


夜の間、グランツが戻ってくることはなかった。


髭面の男も、テオも逃げ出していない。


もっとも、縄を解いたわけじゃないので、簡単には逃げられないだろう。


ガランとニコは、昨日より少し顔色がよくなっていた。


それでも、長く歩けばすぐ疲れる。


俺たちは何度も休憩を挟みながら、古い休憩所を目指した。


……うん。


時間はかかるけど、仕方ない。


俺はガランの隣へ並び、足元の石を確かめながら進んだ。


途中で段差があれば、触手を伸ばして支える。


急な坂では、身体の一部を低く広げ、転ばないようにする。


ただし、必要以上に持ち上げようとはしない。


俺の身体にも限界があるし、無理をすれば逆に危険だからな。


「……助かるよ、ノア」


ガランが言った。


俺は触手を小さく振った。


「……いい」


それだけ答える。


最近は《共鳴膜》のおかげで、短い言葉なら随分出しやすくなってきた。


ただ、歩きながら発声するのは、まだ少し難しい。


脚を動かし、目を維持し、その上で声まで整える。


《自在形態型》になってから負担は軽くなったけど、集中力そのものが無限になったわけじゃない。


……まあ。


焦らず練習していこう。


しばらく進むと、岩山の向こうから細い煙が見えてきた。


……あ。


あれは。


「……イリナ!」


俺は思わず声を出した。


ルナがこちらを見る。


「うむ。戻ってきたようだな」


……よし。


あと少しだ。


俺は少しだけ歩く速度を上げた。


すると、ガランが苦笑する。


「……おいおい。俺はそんなに速く歩けないぞ」


……あ。


そうだった。


俺は慌てて速度を落とした。


……すみません。


つい嬉しくなっちゃって。


◇


「……ガラン!?」


休憩所へ近づいた俺たちを見て、イリナが声を上げた。


持っていた道具を置き、急いで駆け寄ってくる。


「ニコもいるじゃないか! あんたたち、無事だったのかい!」


「……心配かけたな」


ガランが疲れた顔で笑った。


「この2人が助けてくれたんだ」


イリナは俺とルナを見た。


そして、少しの間、何も言わなかった。


「……まさか、本当に見つけてくるとはねえ」


……いやあ。


俺たちも、ここまでのことになるとは思ってなかったけど。


「しかも、あんたたち……」


イリナの視線が、縄で拘束された2人へ向く。


「ずいぶん物騒なおまけまで連れてきたんだね」


……おまけ。


いや、それで済ませていいのかな。


俺は少し困って、触手を揺らした。


ルナが事情を説明し始めた。


ガランたちが坑道へ閉じ込められていたこと。


それを行ったのが、金属棒を運ばせていた男たちだったこと。


そして、首謀者らしいグランツが逃げたこと。


イリナは途中で何度か眉をひそめたが、最後まで黙って聞いていた。


「……そうかい」


説明が終わると、静かに息を吐いた。


「厄介なことになったね」


……うん。


本当に。


「まず、ガランとニコは休ませよう。飲み水と食べ物を用意するよ」


ガランが頭を下げる。


「すまん。助かる」


「今は礼より身体の心配をしな。3日も閉じ込められてたんだろう?」


……おお。


頼もしいな。


イリナはすぐに焚き火へ向かい、鍋を用意し始めた。


俺たちも荷物を下ろし、休憩所の周囲を整える。


テオと髭面の男は、見通しのよい場所へ座らせた。


縄はそのまま。


ルナが少し離れたところから見張っている。


……うん。


これで、ひとまず安心かな。


俺は身体を広げ、ようやく力を抜いた。


……はぁ。


何だか、長かったな。


昨日から今日にかけて、ずっと気を張っていた気がする。


でも。


ガランたちを無事に連れて帰れた。


……それは、本当によかった。


「……ノア」


イリナが声をかけてきた。


「ちょっと、こっちへおいで」


……ん?


何だろう。


俺は身体を持ち上げ、イリナのそばへ移動した。


すると、そこにはガランの帳面が置かれていた。


……あ。


あれか。


「ガランから話を聞いたよ。あんたが、空欄に跡があることを見つけたんだって?」


俺は身体を上下させた。


「……うん」


「ちょっと見せてもらったけど、確かに何か残ってるね」


イリナは帳面を開き、斜めから光を当てた。


……お。


昨日より、明るいから見やすいな。


「それにしても、妙な話だよ」


イリナが呟く。


「普通の荷運びなら、受取人が空欄なんてことはない。まして、道具を6本も運ぶなら、引き渡し先が必要なはずだ」


……そうだよな。


「でも、気になるのはそれだけじゃない」


……え?


俺は首を伸ばした。


イリナは別の行を指した。


「ここ。荷物の種類に『測量器具』とあるだろう?」


俺は身体を上下させた。


「この辺りで測量器具を使う仕事といえば、道の修繕か、採掘くらいだ」


……なるほど。


「けど、南の古い坑道は、ずっと前に使われなくなってる。今さら大量の道具を運び込む理由が思いつかないんだよ」


……あ。


そうか。


俺は少し考えた。


昨日、ガランたちを見つけた坑道。


あれは昔の施設らしい。


今も使われているわけじゃない。


それなのに、わざわざ測量器具を運ぶ?


……うーん。


確かに変だな。


「もちろん、別の場所で使う可能性はある」


イリナは続けた。


「でも、そうなら帳面に正しい受取人を書けばいい。それを隠す理由がないだろう?」


……うん。


そのとおりだ。


イリナは少し考えてから、帳面を閉じた。


「こいつは、東の関所へ持っていった方がいいね」


……関所?


「今も使われている街道に、通行を取り締まる詰所がある。そこなら、荷運びの記録も調べられるはずさ」


……おお。


なるほど。


人間の町まで行かなくても、まずはそこで事情を説明できるのか。


「この2人も、そこへ引き渡そう」


イリナが拘束された男たちへ目を向けた。


テオは俯いたまま頷いた。


髭面の男は何か言いたそうだったが、ルナが見つめると口を閉じた。


……うん。


やっぱり、ルナはこういうとき頼もしいな。


ただし。


……関所まで、どれくらいあるんだろう。


俺は少し気になって、イリナへ声をかけた。


「……とおい?」


「ん? 関所までかい?」


俺は肯定する。


「東の街道へ出れば、1日ほどだよ。荷車ならもう少し早いんだけどね」


……なるほど。


1日か。


今のガランたちには、ちょっときついかな。


すると、イリナが笑った。


「そこは心配しなくていい。あたしの小さな荷車があるからね」


……おお。


そうなのか!


「ただし、荷物を減らしても全員を乗せるのは無理だ。ガランとニコを休ませながら運ぶことになるよ」


……うん。


それで十分だ。


俺たちは歩けるんだから。


イリナは少し考え込んだ。


「……それに」


……ん?


「グランツって男が逃げたなら、あんまりここでのんびりしてるわけにもいかないね」


……あ。


そうだった。


グランツはまだ捕まっていない。


俺たちの居場所を知っている可能性だってある。


……なるほど。


早めに関所へ行った方がいいかもしれない。


俺は身体を少し低くした。


そして、荷物の中へ目を向ける。


布で包んだ金属棒。


あの嫌な振動を出す道具だ。


……やっぱり。


これも、関所で調べてもらうべきなんだろうな。


俺は少し考えた。


エルデ村で見たものと、よく似ている。


でも、それが同じ場所で作られたものなのか。


同じ人物が使わせているのか。


今は、何も分からない。


……ただ。


偶然だと決めつけるのも、違う気がした。


「……ノア」


隣へ来たルナが声をかけた。


……ん?


「また考え込んでおるな」


俺は少しだけ身体を揺らした。


「……うん」


「ふん。気になるのは分かる」


ルナは金属棒の包みへ目を向けた。


「だが、今は1つずつ確かめるしかあるまい」


……そうだな。


俺はゆっくり身体を上下させた。


焦っても、分からないことが急に分かるわけじゃない。


まずは、帳面と金属棒をきちんと調べてもらう。


そして、逃げたグランツのことも伝える。


……うん。


やることは決まった。


俺は触手を伸ばし、イリナからもらった木板へ触れた。


まっすぐな道。


分かれ道。


そして、進む方向を示す溝。


……そういえば。


この木板も、道を間違えないために作られたものだったな。


今の俺たちが進もうとしているのも、正しい道を確かめるためだ。


……なんて。


ちょっと格好つけすぎか。


俺は小さく身体を揺らした。


すると、ルナが不思議そうに首を傾げる。


「……何を笑っておる?」


俺は少し考え、声を出した。


「……なんでも、ない」


少し途切れたけど、ちゃんと言えた。


ルナは目を細めた。


「……ふむ。怪しいな」


……いやいや。


本当に何でもないって。


俺は触手を振った。


すると、ルナが楽しそうに笑った。


……まったく。


相変わらずだな。


でも。


こういうやり取りができるだけで、少し気持ちが軽くなる。


俺はもう1度、空を見上げた。


雲の少ない、明るい空。


昨日までの砂嵐が嘘のようだった。


そして、俺たちの前には東へ続く道がある。


次は、関所か。


……何だか、また人間のいる場所へ戻ることになったな。


でも、それも悪くない。


今度は、助けた人たちと一緒だ。


俺は身体の下側へ4本の脚を作った。


ゆっくり立ち上がる。


そして、イリナたちの方へ目を向けた。


「……いこう」


《共鳴膜》を使った声が、少しだけ滑らかに響いた。


イリナが笑う。


「気が早いねえ。出発は明日の朝だよ」


……。


…………。


……あ。


そうでした。


俺はゆっくり脚を崩した。


ルナが隣で、堪えきれないように笑い始める。


……くそっ。


せっかく格好よく決めたのに。


まあ、いいか。


明日になれば、また歩ける。


今度は東の関所へ。


そして、あの帳面の空欄に何が隠されているのか。


少しずつ、確かめていこう。

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