初めて見たのは、鼻だった、、
第2部 第41話 初めて見たのは、鼻だった
「……貴様、まだやるつもりか?」
「……うん」
「昨日あれほど疲れておったというのに。まったく、懲りぬやつだな」
翌朝。
俺たちは街道から少し離れた林の中で、休憩を取っていた。
昨日は裂尾蜥蜴との戦闘があった。
自分で脚を作り、魔物と戦い、久しぶりの捕食にも成功した。そして何より、念願だった《視覚》を獲得できたのである。
……ただし。
まだ見えない。
いや、正確には、見えるための性質を手に入れたのに、それを使うための目が作れていない。
せっかく手に入れたのに、これじゃ宝の持ち腐れだ。
「焦るなと言ったであろう」
ルナが呆れた声を出す。
「貴様は新しいことができるようになると、すぐ全部を試そうとする」
……否定できない。
でも、考えてみてほしい。
異世界に転生してから、俺はずっと普通の景色を見ることができなかった。
洞窟も、エルデ村も、今歩いている街道も。
そして、ずっと一緒にいるルナの姿さえ。
全部、音と振動と触れた感触から想像してきたんだ。
それが、ようやく変わるかもしれない。
そりゃ、試したくもなるだろ。
「……まあ、気持ちは分からぬでもないがな」
ルナはそう言うと、近くで身体を伏せたらしい。
「好きにせよ。ただし、無理はするな」
よし。
許可も出たことだし、早速始めよう。
俺は身体の前側を少し持ち上げ、《構造形成》へ意識を集中した。
昨日の失敗は覚えている。
丸い器官を作ろうとして、内部の構造を維持できなかった。
脚を作ったときとは、まるで勝手が違う。
脚なら、身体の一部を太く伸ばし、地面を支えられる程度に硬くすればよかった。
でも、目はそう簡単じゃない。
まず、光を取り込む部分がいる。
その奥には、受け取った光を感じる部分も必要だ。
……うん。
改めて考えると、難易度が高すぎる。
人間の身体って、何気にすごいんだな。
俺は身体の表面へ、小さな膨らみを作った。
昨日より、さらに小さく。
大きな目を作る必要はない。まずは小さくても、ちゃんと機能するものを目指そう。
膨らみの先端を薄くし、内部に光を受け取るための構造を作ろうとする。
……よし。
ここまでは、昨日よりうまくいった。
問題は、この先だ。
俺は《視覚》という性質へ意識を向けた。
すると、身体の一部に、これまでとは違う感覚が生まれ始めた。
……ん?
何だ、これ。
《明暗感知》に似ている。
でも、少し違う。
光の強さだけじゃない。
もっと細かく、何かを受け取ろうとしているような……。
――ぐにゃ。
あ。
膨らみが崩れた。
……くそっ!
惜しかったのに!
「……今、何か変わったのか?」
ルナが尋ねる。
俺は触手を左右へ揺らした。
「失敗か」
……はい。
「ふむ。先ほどよりは、目らしい形になっておったぞ」
おっ。
本当?
「ただ、少々気味が悪かったがな」
……おい。
褒めるなら最後まで褒めてくれよ。
「事実であろう」
まったく。
相変わらず遠慮のない相棒だ。
俺はもう1度、身体を持ち上げた。
今度は、さっきより慎重に。
同じ形を作るだけなら、少し慣れてきた。ただ、細かな内部構造を維持するのが難しい。
ほんの少し形が崩れるだけで、せっかく生まれた感覚が消えてしまう。
……なるほど。
これは、単純に形を作る練習じゃないな。
獲得した性質に合わせて、身体の構造を調整する必要があるんだ。
俺は一度作業を止めた。
焦って何度も失敗するより、少し考えよう。
昨日捕食した裂尾蜥蜴。
あいつには、ちゃんと目があった。
頭部に触れたとき、丸い器官と柔らかな膜の感触を確かめている。
あのとき取り込んだものの中に、視覚を働かせるための性質があったんだろう。
ただ、それだけで完成した目が生えてくるわけじゃない。
……いや。
待てよ。
俺、何もかも自分で一から作ろうとしてないか?
《性質吸収》で獲得したのは、単なる光への反応じゃない。
《視覚》そのものだ。
だったら、その性質が働きやすい形を探る方が自然なんじゃないか?
俺は再び身体の前側に、小さな膨らみを作った。
今度は、最初から細かな構造を決めつけない。
薄い膜を形成し、そこへ《視覚》を働かせる。
すると。
……お?
さっきと違う。
何かが引っかかるような感覚があった。
その感触を頼りに、膜の位置を少しだけ変える。
膨らみの先端を薄くする。
内部の形を調整する。
すると、突然。
――ぱっ。
……え?
何かが変わった。
明るい。
いや、それだけじゃない。
今まで《明暗感知》で感じていた光とは、まるで違う。
明るい部分と、暗い部分。
それらが、別々の場所に広がっている。
……何だ?
何が起きてる?
俺は慌てて意識を集中した。
その瞬間。
――ぐにゃ。
また崩れた。
……。
…………。
ちょっと待て。
今の。
もしかして。
見えた?
いや、はっきりした形は分からなかった。
でも、今までとは違う何かを感じた。
光の強さだけじゃない。
広がりのある、何か。
俺は思わず身体を持ち上げた。
「……ノア?」
ルナが声をかけてくる。
「どうした? 先ほどから落ち着きがないぞ」
……いや。
落ち着いていられるか!
今、絶対に何か起きた!
俺は急いで発声用の構造を作った。
「……み、え……」
「見えた?」
身体を大きく上下させる。
「本当か!?」
ルナの声が弾んだ。
……おお。
珍しい。
ルナがこんなに驚くなんて。
「何が見えたのだ?」
……。
……えっと。
何だろう。
正直、分からない。
明るい何か。
暗い何か。
それだけだ。
俺は触手を左右へ動かした。
「……まだ、はっきりとは分からぬのか」
肯定する。
「ならば、あと少しなのかもしれぬな」
……そうだ。
あと少し。
今の感覚を、もう1度。
俺は小さな目を作り直した。
今度は、先ほどの構造をできる限り再現する。
薄い膜。
丸みを帯びた内部。
そして、《視覚》を働かせるための部分。
……よし。
形が整った。
俺はゆっくり意識を向ける。
――ぱっ。
来た。
まただ。
今度は、さっきより長く続いている。
明るさの中に、ぼんやりとした濃淡がある。
俺は形成した目の向きを、ほんの少しだけ変えてみた。
すると、その濃淡の位置が一斉に変わった。
……うおっ!?
何だこれ!
今まで、こんなふうに周囲が動く感覚なんてなかったぞ!
慌てて身体を固定する。
すると、広がっていたものも落ち着いた。
……なるほど。
これが、視界ってやつか。
俺は少しずつ、形成した目の向きを変えてみた。
最初は明るいもの。
次に暗いもの。
そして、何かが重なり合うような、不思議な形。
上へ伸びる細長い影がある。
その周囲には、もっと細かいものが広がっていた。
……あ。
これ、もしかして。
木?
いや、まだ分からない。
でも、確かに何かの形がある。
俺は思わず声を出そうとした。
「……あ」
その瞬間、視界が崩れた。
……ああっ!
何でだよ!
発声用の構造を作ったせいで、目の維持に使っていた集中力が途切れたらしい。
……くそっ。
今の俺、目と声を同時に使うのも難しいのか。
「……また失敗したか?」
ルナが尋ねる。
俺は身体を上下させた。
「しかし、今度は随分と長く維持できておったぞ」
……うん。
確かに。
少しずつ、できるようになっている。
俺はしばらく身体を休めることにした。
さすがに集中しすぎたらしい。
身体の一部が、少し重く感じる。
ただ、疲れよりも興奮の方が大きかった。
……すごい。
本当に、すごいぞ。
今まで振動と音でしか知らなかった世界が、少しずつ形を持ち始めている。
これが見えるということなのか。
人間だった頃は、当たり前すぎて考えもしなかった。
でも、今は違う。
たったこれだけのことが、信じられないくらい嬉しい。
「……ノア」
ルナが静かに呼びかけた。
「少し休め。食料もまだ残っておるし、急ぐ旅でもあるまい」
俺は触手を上下させた。
……そうだな。
焦っても仕方ない。
俺たちは林の中で休憩を続けることにした。
ルナはエルデ村でもらった保存食を少し食べ、俺も身体の消耗を確かめながら休んだ。
少し離れた場所では、水の流れる音がしていた。
鳥らしい鳴き声も聞こえる。
……ああ。
考えてみれば、こういうものも全部、いつか自分の目で確かめられるんだな。
鳥。
木。
空。
川。
そして。
……ルナ。
俺は隣にいる相棒へ、身体を向けた。
「……何だ?」
いつもの声が返ってくる。
俺は細い触手を伸ばし、ルナの前脚へ軽く触れた。
「……?」
ルナが少し身体を動かした。
「どうした、急に」
……いや。
ちょっと思っただけだ。
ここまで一緒に旅をしてきたのに、俺はまだ、お前の姿を知らないんだなって。
「……ふむ」
ルナが小さく鼻を鳴らす。
「どうせ、また我の姿を見ようとしておるのであろう」
……え?
いや、まあ。
見たいとは思ってるけど。
「先に言っておくが、我の姿を見て驚くでないぞ」
……何で?
「我は高位種のルナリスだ。そこらの魔獣とは格が違うからな」
……おお。
自信満々ですね。
「当然であろう」
いやいや。
まだ何も言ってませんけど。
俺は触手を小さく揺らした。
「貴様、笑っておるな?」
……バレた。
でも、そんなやり取りも今は楽しかった。
俺は再び《構造形成》へ意識を集中した。
さっきと同じ、小さな目。
今度は、できるだけ安定させる。
身体の前側に固定し、ほかの部分は無理に動かさない。
発声もしない。
今は、見ることだけに集中する。
……よし。
形が整った。
そして。
――ぱっ。
再び、世界が広がった。
さっきよりも安定している。
目の前には、ぼんやりとした形があった。
俺は少しずつ、内部の構造を調整する。
近くのものへ焦点を合わせるように、薄い膜の形を変えていく。
……難しい。
でも、分かってきた。
少し動かすと、輪郭がぼやける。
反対へ動かすと、少しはっきりする。
……これか。
俺はそこで固定した。
そのときだった。
突然、視界の大部分が何かに覆われた。
……うおっ!?
何だ!?
さっきまで見えていたものが、急に消えた。
代わりに、何か大きなものが迫ってくる。
丸い。
いや、少し横に広がっている。
表面には細かな毛のようなものがあって……。
……ん?
「……ノア?」
聞き慣れた声。
すぐ近くから。
「貴様、今度はどうだ?」
……。
……え?
俺は目の内部を少しだけ調整した。
すると、ぼやけていた輪郭が、わずかにはっきりした。
そこにあったのは。
銀色がかった、柔らかな毛。
少し尖った形。
そして、その下にある黒い部分。
……鼻?
俺は固まった。
「……ノア?」
ルナが、もう1度呼びかける。
……。
…………。
……おい。
ちょっと待て。
これ。
ルナの鼻か!?
「何を固まっておる。ちゃんと見えておるのか?」
……いや。
見えてる。
見えてるんだけど。
近い!
近すぎる!
俺の転生後初めてのまともな映像が、いきなり狐の鼻のどアップってどういうことだよ!
俺は慌てて身体を後ろへ引こうとした。
――ぐにゃ。
あ。
目が崩れた。
……。
…………。
「……何をしておる?」
ルナの呆れた声が聞こえた。
……いや。
お前のせいだよ!
近いんだって!
俺は触手を伸ばし、ルナの鼻先らしい位置を軽く押した。
「……む?」
「……ち、か……い」
どうにか声を絞り出す。
「近い?」
俺は勢いよく身体を上下させた。
「……まさか」
ルナの声が止まった。
「貴様……我が見えたのか?」
俺はもう1度、身体を上下させた。
その瞬間。
ルナが息をのむ音がした。
「……本当に?」
いつもより、ずっと小さな声だった。
俺は触手を伸ばし、ルナの前脚へ軽く触れた。
……うん。
見えた。
ただし、鼻だけ。
それも、ものすごく近くで。
「……ふ、ふふっ」
ルナが笑い始めた。
「そうか。そうか……!」
いつもの皮肉っぽい笑い方とは、少し違う。
本当に嬉しそうな声だった。
「ならば、もう1度やってみよ」
……え?
「今度は我も少し離れてやる。貴様がちゃんと見られるようにな」
……おお。
協力してくれるのか。
「当然であろう。我も貴様に姿を見せてやりたいからな」
……そっか。
俺だけじゃないのか。
ルナも、俺に見てもらいたかったんだな。
そう思うと、何だか胸の奥が温かくなるような気がした。
……胸なんてないけど。
俺はもう1度《構造形成》へ意識を集中した。
さすがに、今度は慣れてきた。
小さな目を作る。
内部の膜を調整する。
身体のほかの部分は動かさない。
……よし。
今度こそ。
――ぱっ。
視界が広がった。
さっきよりも安定している。
目の前には、ぼんやりとした白い形があった。
俺は少しずつ、内部の構造を調整する。
輪郭がぼやける。
少し戻す。
……違う。
もう少し。
やがて、白い形の輪郭が、ゆっくりとはっきりしてきた。
そして。
初めて。
ルナの姿が、俺の前に現れた。
白銀の毛並み。
小さく尖った耳。
すっと整った顔立ち。
そして、淡い紫色の瞳。
……。
…………。
……うわ。
綺麗だ。
思っていた以上に。
俺は、しばらく何もできなかった。
もちろん、まだ完全に見えているわけじゃない。
輪郭は少しぼやけているし、遠くのものは分からない。
色だって、はっきり区別できるものばかりじゃない。
それでも。
目の前にいるのがルナだということは、分かった。
今まで声だけで想像していた相棒。
触れた感触でしか知らなかった、白銀の狐。
その姿が、今、俺の前にある。
「……どうだ?」
ルナが尋ねた。
俺は答えようとして、慌てて思いとどまった。
今、声を出せば、また目が崩れるかもしれない。
だから、代わりに触手を伸ばした。
目の前に見える、ルナの前脚へ。
……あ。
ちゃんと届いた。
見えている位置と、触れた感触が一致している。
当たり前のことなのに、それがどうしようもなく嬉しかった。
「……ふむ」
ルナが少し得意そうに顔を上げる。
「どうやら、見惚れておるようだな」
……。
……いや。
まあ。
そうかもしれないけど。
自分で言うなよ。
俺は触手を小さく揺らした。
すると、視界の中でルナの耳がぴくりと動いた。
……おお。
動いた。
耳って、あんなふうに動くんだ。
続いて、白銀の尻尾がゆっくり横へ揺れる。
声に合わせて動く口元。
少し傾く頭。
風に揺れる毛並み。
どれも、俺にとっては初めて見るものだった。
「……ノア?」
ルナが少し首を傾げた。
「何をそんなにじっと見ておる?」
……いや。
何でもない。
ただ、見えてよかった。
本当に。
俺はゆっくり触手を伸ばし、ルナの頬に触れた。
視界の中で、白銀の毛が少し沈む。
すると、ルナが目を細めた。
……あ。
今の。
笑ってるのかな。
「……ふん」
ルナが小さく鼻を鳴らす。
「貴様にそこまで見つめられると、少々落ち着かぬな」
……おや?
珍しい。
あのルナが、ちょっと照れてる?
俺は思わず触手を揺らした。
「……何がおかしい」
いやいや。
何でもありませんよ。
ただ、ちょっと面白いだけです。
そのときだった。
視界の端が、ゆっくりと滲み始めた。
……ん?
まずい。
集中力が続かない。
形成した目の内部が、少しずつ崩れていく。
俺は何とか維持しようとしたが、無理だった。
――ぐにゃ。
視界が消える。
……ああ。
終わっちゃった。
俺は身体を丸めた。
想像以上に疲れた。
たった少しの間だったのに、細かな構造を維持し続けるのはかなり大変らしい。
「……消えたか?」
ルナが尋ねる。
俺は触手を上下させた。
「ふむ。まだ長くは使えぬようだな」
……そうみたいだ。
「だが、見えたのであろう?」
俺は大きく身体を上下させた。
「ならば、十分ではないか」
……うん。
そうだな。
今は、これで十分だ。
俺は発声用の構造を作った。
今度は目の維持を考えなくていい。だから、少しだけ言葉を作りやすい。
「……ルナ」
「何だ?」
「……みえ、た」
「うむ」
「……きれい」
その瞬間。
ルナの動きが止まった。
……あれ?
何か変なこと言った?
しばらくして、小さな咳払いが聞こえた。
「……当然であろう」
いつもの、少し偉そうな声だった。
「我はルナリスなのだからな」
……うん。
そうだな。
ただ、続いた言葉は少し違った。
「……だが」
短い沈黙。
「貴様が最初に見たのが我であったことは、悪くない」
……。
…………。
……そっか。
俺も、そう思う。
俺は触手を伸ばし、ルナの前脚へ軽く触れた。
すると、向こうからもそっと押し返してきた。
しばらくの間、俺たちはそのまま動かなかった。
木々を揺らす風の音。
近くを流れる水。
遠くから聞こえる鳥の鳴き声。
今までと変わらないはずの世界。
でも、俺にとっては、もう同じじゃない。
この世界には、色がある。
形がある。
そして、その中には。
俺がまだ知らないものが、数え切れないほど存在している。
……よし。
もっと練習しよう。
今は小さな目を1つ作るだけで精一杯だ。
長く維持できないし、声を出すと集中が途切れる。
遠くも見えない。
でも、昨日までは何も見えなかった。
それが今日は、ルナの姿を確かめられた。
だったら、明日はもっと見られるかもしれない。
……いや。
焦りすぎるのはよくないんだったな。
俺は身体をゆっくり広げた。
「……さて」
ルナが立ち上がる振動が伝わってきた。
「そろそろ出発するか。次の休憩場所まで、まだ少し歩かねばならぬ」
俺は身体を持ち上げた。
「……うん」
「ただし、貴様はもう目を作るでないぞ。今は休んでおけ」
……ええ。
もうちょっと練習したいんだけど。
「駄目だ」
即答だった。
……ちぇっ。
まあ、仕方ないか。
俺は《構造形成》で短い脚を3本作ろうとしたが、途中で思いとどまった。
今の状態で脚まで維持したら、余計に疲れるかもしれない。
今日は大人しく、いつもの形で移動しよう。
「ふふっ。少しは学んだようだな」
ルナが笑った。
……うるさいな。
俺だって成長してるんですよ。
「知っておる」
その返事は、妙に優しかった。
「だから、我も楽しみなのだ」
……何が?
「これから貴様が、どんな姿になるのかがな」
……なるほど。
それは俺も楽しみだ。
脚を作れるようになった。
目も作れるようになった。
まだ不完全だけど、確実にできることは増えている。
そして、俺の身体には、まだまだ可能性が残されているはずだ。
俺はゆっくりと前へ進んだ。
ルナの足音が、すぐ隣についてくる。
怪我をした右後ろ脚をかばっているため、歩く速度はまだ遅い。
でも、それでいい。
途中で疲れたら休めばいいし、必要なら俺が支えればいい。
俺だって、まだ新しい身体の使い方を覚えている途中なんだから。
次の町へ向かう道は、まだ長い。
その途中には、きっと新しい魔物もいる。
知らない場所もある。
もっと強くなれる機会だって、いくらでもあるだろう。
そして、その景色を。
今度は自分の目で確かめられるかもしれない。
……そうだな。
次は空を見てみたい。
それから森も、川も、街も。
できれば、自分自身がどんな姿をしているのかも、ちゃんと確かめてみたい。
……まあ。
今のところ、脚の生えた岩らしいんだけど。
それだけは、できればもう少しかっこよくなってから見たいな。
作者あとがき
ついにノアにも、世界が見えるようになりました。
長い間一緒にいたルナの姿を、ようやく自分の目で確かめられたわけですが……。
記念すべき第一印象が鼻のどアップ。
ルナ本人は、きっと納得していないでしょうね。
それでも、最初に見たのが大切な相棒でよかったと思います。




