またな、エルデ村
第2部 第39話 またな、エルデ村
「……もう1歩だ」
「分かっておる。いちいち言わずともよい」
「ほら、無理しない!」
「貴様らは我を何だと思っておるのだ!」
炭焼き小屋の前で、ルナが怒っていた。
正確には、歩く練習をしているルナに、マルタとエマが口を出している。
俺は少し離れた場所から、その様子を見守っていた。
……見守る、といっても目はないんだけど。
第38話でフェルクが捕まってから、9日が経った。
あれから村では、いろいろなことが進んでいる。
石切り場の調査はギルドの増援が引き継ぎ、テオルが水路の安全確認を続けている。危険な場所への立ち入りは制限され、警備隊も巡回を増やしていた。
地下に残っている人間たちの行方は、まだ分かっていない。
『閉ざされた道』についても、すべてが明らかになったわけではなかった。
それでも、村の暮らしは少しずつ落ち着きを取り戻していた。
そして何より。
ルナの脚が、ようやく回復してきたのである。
「……ふん。この程度、どうということはない」
ルナが強がった声を出す。
その直後、右後ろ脚を地面につく振動が、わずかに乱れた。
「ほら! まだ痛むんじゃない!」
エマがすかさず指摘する。
「痛むとは言っておらぬ!」
「顔に出てるよ!」
「……貴様まで、我に説教するようになったか」
いやあ。
エマ、強くなったな。
最初はルナの口調に戸惑っていたのに、今では遠慮なく言い返している。
俺は思わず触手を揺らした。
「ノア。貴様、笑っておるな?」
……なぜ分かる。
「ほら、今日はここまでだよ」
マルタが言った。
「傷は随分よくなった。でも、まだ長く歩けば痛む。毒の影響も完全に抜けたとは言い切れないんだからね」
「……承知しておる」
ルナは不満そうだったが、素直に歩くのをやめた。
以前なら、ここで強引にもう少し歩こうとしていただろう。
そう考えると、ルナも少しは成長したのかもしれない。
……本人に言ったら怒られそうだけど。
俺は身体を伸ばし、ルナの近くへ移動した。
「……どうした?」
細い触手を伸ばし、右後ろ脚に負担がかからない位置へ身体を寄せる。
「支えるつもりか?」
俺は身体を上下させた。
「ふん。余計なお世話だと言いたいところだが……」
ルナが少し体重を預けてくる。
「今は借りておこう」
……素直でよろしい。
俺は《構造形成》で身体の一部を厚くし、ルナが身体を寄せやすい形に整えた。
最近、こういう使い方はかなり慣れてきた。
ただの触手ではなく、身体の一部に支えを作る。
硬くする場所と柔らかくする場所を分け、相手の重さを受け止める。
もちろん、今の俺ではルナを長時間持ち上げて運ぶのは難しい。
でも、歩くときに少し支える程度なら十分できる。
……もっと自由に身体を変えられるようになりたいな。
せっかく《万能適応型》なんて名前なのに、今のところ使い道が地味すぎる。
便利な手すり扱いで終わるのは、さすがに悲しい。
「……ノア」
ルナが小さく声をかけてきた。
「貴様、また妙なことを考えておるな?」
……だから、何で分かるんだよ。
その日の午後。
俺とルナは、炭焼き小屋で久しぶりにゆっくり話をした。
「……そろそろ、頃合いかもしれぬな」
突然、ルナがそんなことを言った。
俺は身体の端を持ち上げる。
「この村を離れる頃合いだ」
……え?
少し驚いた。
いや、俺だって考えていなかったわけじゃない。
そもそも、この村には療養のために滞在していた。
ずっと暮らすつもりで来たわけではない。
でも、ルナの方から言い出すとは思わなかった。
「我の脚も、以前よりは動くようになった。まだ長旅には不安があるが、休みながら進むことはできるであろう」
俺はルナの方へ身体を向けた。
「それに、石切り場の件は人間たちが引き継いでおる。今の我らが残ったところで、できることは限られている」
……確かに。
ハルドたちは、もう十分に状況を把握している。
サフィアもいるし、テオルもいる。
あの地下の仕組みを調べるなら、専門家に任せた方がいい。
それに、村の人たちを守るのも、俺たちだけの役目じゃない。
「……ただ」
ルナが少し間を置いた。
「『閉ざされた道』については、まだ諦めておらぬぞ」
……そうだよな。
「我が調べに来た理由も、まだ果たせておらぬ。いずれ、もう1度確かめるつもりだ」
俺は触手を上下させた。
「だが、今のまま戻っても同じことを繰り返すだけかもしれぬ」
その言葉に、俺は少し考え込んだ。
巨大百足との戦い。
あのとき、俺たちは本当に弱かった。
ルナは重傷を負い、俺もほとんど何もできなかった。
今の俺は、あの頃より少しは強くなった。
でも、まだまだだ。
視覚もない。
発声だって不安定。
《構造形成》も、もっと使いこなせるはずなのに。
……よし。
俺は身体を持ち上げた。
「……い、こう」
短い言葉が、小屋の中に響いた。
「……ほう?」
ルナの声が少し明るくなる。
「貴様も、そのつもりか?」
大きく身体を上下させる。
「ふん。ならば決まりだな」
ルナは少し嬉しそうに笑ったらしい。
少なくとも、声からはそう感じた。
「我らは、まだ知らぬことが多すぎる」
……うん。
「この世界には、我の知らぬ魔獣も、土地も、古い秘密も山ほどある」
……うん。
「いつまでも小屋に閉じこもっていては、何も分からぬではないか」
本当に、そのとおりだ。
俺は、まだこの世界のほんの一部しか知らない。
洞窟で目覚めて。
ルナと出会って。
村に来て。
それだけだ。
もっといろんな場所へ行きたい。
もっと強くなりたい。
そして、できれば。
……そろそろ、ちゃんと目で世界を見てみたい。
「……よし」
俺は小さく声を出した。
今度は比較的きれいに発音できた。
「ふふっ。よい返事だ」
ルナの声が、少しだけ弾んだ。
翌日。
俺たちはマルタに、村を離れたいと伝えた。
当然、最初は反対された。
「まだ完全には治ってないんだよ?」
「承知しておる」
「歩けるようになったからって、すぐ長旅ができるわけじゃないんだからね」
「分かっておる」
「本当に?」
「……貴様まで我を信用せぬのか」
マルタのため息が聞こえた。
「信用してないんじゃないよ。心配してるんだ」
しばらく沈黙が続く。
それから、マルタは俺へ声を向けた。
「ノア。あんたはどうするつもりだい?」
俺は触手を伸ばし、ルナの身体を支えるような形を作ってみせた。
「……支えながら進むってことかい?」
肯定する。
「長く歩かせない。休憩も取る。それが守れるなら、少しずつ移動することはできるだろうね」
おっ。
これは、もしかして。
「ただし!」
……はい。
「薬は持っていくこと。傷が熱を持ったり、痺れが強くなったりしたら無理をしない。次の町に着いたら薬師にも診せること」
俺は勢いよく身体を上下させた。
「それから、ノア」
……まだあるんですか。
「自分の身体のことも忘れるんじゃないよ。あんたも、あの変な道具の影響を受けたばかりなんだから」
……はい。
忘れてません。
あれは本当に怖かった。
2度と経験したくないくらいには。
「まったく……」
マルタが小さく笑った。
「手のかかる2人だねえ」
……否定できない。
その後、村長のオルネスにも出発の意思を伝えた。
村長は少し驚いていたが、引き止めることはしなかった。
「そうか。旅を再開するのだな」
「うむ。世話になった」
ルナが答える。
「こちらこそ、村のために力を貸してもらった。礼を言う」
……おお。
村長から正式にお礼を言われるとは。
何だか、ちょっと照れくさいな。
「石切り場の件は、ギルドと警備隊が責任を持って対応する」
村長が続けた。
「まだ危険がなくなったわけではないが、今は調査の体制も整っている。お前たちが残り続ける必要はない」
……よかった。
それが一番気になっていた。
俺たちが村を離れたせいで、また誰かが危険な目に遭う。
そんなことには、できればなってほしくない。
もちろん、これから先も何が起きるかは分からない。
でも、村には頼れる人たちがいる。
それを俺は、ここでの生活を通して知った。
「それと、白い狐たちについてだが」
村長が話題を変えた。
「マルタが引き続き治療することになっている。物置も、しばらくはあのまま使わせよう」
俺は身体を持ち上げた。
……そうか。
あの2匹は、村に残るのか。
「無理に連れ出すつもりはない。怪我が治ったあと、どうするかは様子を見ながら決める」
「それがよかろう」
ルナが頷いた気配がした。
「我らが連れて歩くより、今はここで休ませた方がよい」
……うん。
俺もそう思う。
少し寂しいけど。
あの2匹には、ようやく安心できる場所ができたんだから。
わざわざ俺たちの旅に付き合わせる必要はない。
出発は、その3日後に決まった。
それまでにマルタが薬を用意し、ボルクが旅に必要なものを揃えてくれることになった。
エマも何か手伝いたいと言ってくれた。
……ただ。
この人たち、少し張り切りすぎじゃないか?
「よし! これも持っていけ!」
ボルクが何かを置く。
――ドサッ。
結構重そうだ。
「こっちは保存食ね!」
エマも何かを追加する。
――コトッ。
「薬はここにまとめておいたよ。使い方を間違えるんじゃないよ」
マルタも袋を置く。
――ドサッ。
……待って。
ちょっと待って。
俺たち、引っ越しするわけじゃないんだけど。
「それから、これもあると便利だぞ!」
――ゴトッ。
……おい。
ボルク。
今、何を置いた?
「折り畳み式の小さな板だ! 休むときに地面へ敷けば、ルナも楽だろ!」
いや、ありがたいんだけど。
どうやって運ぶんだよ、それ。
「貴様、少し落ち着かぬか」
ルナが呆れた声を出した。
「こんなに持っていっては、身動きが取れなくなるではないか」
「おっと、そうか!」
ボルクが豪快に笑う。
……今気づいたのか。
結局、荷物は必要なものだけに絞ることになった。
ルナの薬。
少量の保存食。
布と簡単な道具。
それから、旅先で使えそうな小さな水袋。
大きなものは持っていかない。
というか、持てない。
俺は《構造形成》で身体の一部を袋状にし、小さな荷物を固定してみた。
……お。
意外といける。
ただし、あまり重いものを入れると、身体の形が崩れやすくなる。
まだ改良の余地があるな。
「便利だねえ、ノア」
エマが感心したように言う。
俺は少し得意になって、触手を持ち上げた。
「でも、食べ物と薬は分けておこうね」
……はい。
言われてみれば、そのとおりです。
出発の日。
俺たちは朝から村の外れに集まっていた。
ボルク、マルタ、エマ。
ハルドとセインも来てくれた。
村長のオルネスも、わざわざ顔を出してくれたらしい。
そして、サフィアとテオル。
……いや。
結構な人数じゃない?
こんなに見送ってもらえるとは思わなかった。
「道の様子は確認してある」
ハルドが言った。
「南東へ続く街道を進めば、次の町へ向かえる。途中までは村人も使う道だ」
「助かる」
ルナが答える。
「ただし、街道を外れれば魔物も出る。今のルナの脚では、無理な戦闘は避けた方がいい」
「承知しておる」
……うん。
そこは俺も気をつけよう。
とはいえ、魔物が出るという話を聞いて、少しだけ気持ちが高ぶったのも事実だ。
洞窟を出てから、俺はまともに戦っていない。
捕食も、以前ほどできていない。
そろそろ新しい性質を獲得したい。
もっと自由に身体を変えられるようになりたい。
……もちろん、無茶はしないけどな。
「ノアさん」
サフィアが声をかけてきた。
「石切り場の調査は、こちらで続けます。新しい情報が見つかったら、ギルドを通して確認できるようにしておきますね」
俺は触手を上下させた。
「それから、もし次の町で冒険者ギルドへ行くことがあれば、私の名前を出していただいて構いません」
……おっ。
そういえば、ギルド登録の話もあったな。
「まだ登録できると決まったわけではありませんが、あなたが意思疎通のできる魔物であることは、私から報告しておきます」
なるほど。
それはありがたい。
俺は触手を伸ばし、サフィアの手へ軽く触れた。
「……あり、がと」
少し音が途切れた。
それでも、ちゃんと伝わったらしい。
「ふふっ。こちらこそ」
サフィアが笑った。
「またお会いできる日を楽しみにしています」
……うん。
俺もだ。
「ノア!」
今度はエマの声がした。
「これ、最後に渡したくて」
何か小さなものを手渡される。
硬い板の感触。
表面には、細い溝が刻まれていた。
……ん?
何だろう。
「文字の練習に使ってた板だよ。持ち歩けるように、小さくしてみたの」
ああ。
あれか。
エマと一緒に、文字を覚えるために使っていた板。
俺はまだ普通に文字を読めない。
そもそも目がないんだから、当然といえば当然だ。
でも、表面に彫られた形なら触って覚えられる。
「まだ全部は教えられなかったけど、旅先でも練習してね」
……そうか。
俺は板をそっと身体に取り込むように支え、荷物の中へ固定した。
それから、エマへ触手を伸ばした。
「……また」
短い声が出た。
「……ん?」
「……また」
今度は、少しはっきり言えた。
エマが小さく息をのむ。
「……うん!」
明るい声が返ってきた。
「また会おうね、ノア!」
俺は大きく身体を上下させた。
そのあと、マルタにも声をかけられた。
「ルナ、無理して歩くんじゃないよ」
「何度も聞いた」
「何度でも言うよ。あんたはすぐ強がるんだから」
「……分かっておる」
「ノアも、ちゃんと見張っておくんだよ」
俺は触手を持ち上げた。
任せてください。
……いや、待てよ。
俺がルナを見張るって、結構難しくないか?
目もないし。
「ふん。我の方が貴様を見張る必要がありそうだがな」
ルナが笑う。
……それは否定できない。
最後に、ボルクが俺の身体を軽く叩いた。
「元気でな、ノア!」
勢いが強い。
ちょっと身体が揺れた。
「次に会うときは、もっと立派な魔物になってろよ!」
……おお。
いいこと言うじゃないか。
俺は触手を高く持ち上げた。
任せとけ。
今度会うときには、もっと強くなってるからな。
……たぶん。
挨拶を終えると、俺たちは炭焼き小屋の裏へ向かった。
最後に、白い狐たちへ別れを告げるためだ。
物置の入口には、小さい狐がいた。
俺たちの気配に気づいたのか、ゆっくり近づいてくる。
右前脚の動きは、以前よりずっとよくなっていた。
ただ、まだ完全ではない。
俺は身体を低く広げ、小さい狐の鼻先に触れた。
……元気でな。
すると、小さい狐が俺の触手を軽く噛んだ。
以前と同じ、甘えるような弱い力だった。
……おいおい。
最後までそれか。
俺はそっと触手を動かし、頭を撫でた。
そのとき、奥から大きい狐が動く振動が伝わってきた。
寝床から身体を起こしたらしい。
ゆっくり、慎重に近づいてくる。
そして、入口の少し手前で止まった。
俺は触手を伸ばした。
大きい狐も、鼻先を寄せてくる。
柔らかな感触。
温かな息。
少しして、前脚が俺の身体に触れた。
……そうか。
お前も、見送りに来てくれたのか。
俺はしばらく、そのまま動かなかった。
2匹とも、まだ怪我が治ったわけじゃない。
これからどうするのかも分からない。
でも、少なくとも今は、ここで安心して休むことができる。
それだけでも、助けてよかったと思う。
「……達者でな」
ルナが静かに言った。
「貴様らも、もう無茶をするでないぞ」
……いや。
それ、ルナが言う?
俺は思わず触手を揺らした。
「何がおかしい」
……何でもありません。
白い狐たちとの挨拶を終え、俺たちは村の外へ向かった。
ハルドたちは、街道の入口まで見送ってくれた。
「何か困ったことがあれば、戻ってきてくれて構わない」
ハルドが言った。
「この村は、お前たちを追い出すわけじゃないからな」
……うん。
分かってる。
俺たちは、自分たちで行くと決めたんだ。
「世話になった」
ルナが答える。
「こちらこそ」
ハルドの声が少し柔らかくなった。
「気をつけてな」
俺は身体を持ち上げ、長い触手を伸ばした。
「……また、な」
少しぎこちなかったけど、ちゃんと声になった。
背後から、エマの声が響く。
「ノアー! ルナー! 元気でねー!」
ボルクの豪快な笑い声も聞こえた。
「今度はちゃんと喋れるようになって帰ってこいよー!」
……おう。
それも目標だな。
俺はもう1度触手を振り、ルナと一緒に歩き始めた。
村から離れるにつれ、足元の振動が変わっていく。
踏み固められた道。
小さな石。
草の根。
そして、遠くから伝わってくる、今までとは違う生き物たちの気配。
《明暗感知》には、頭上から降り注ぐ光の強さが伝わっていた。
まだ景色は見えない。
村がどんな姿をしていたのかも、俺は知らない。
炭焼き小屋がどんな色だったのか。
エマがどんな顔で笑っていたのか。
そして、隣を歩くルナがどんな姿をしているのか。
俺は、まだ見たことがない。
……でも。
いつか、必ず。
「……ノア」
ルナが声をかけてきた。
「貴様、何を考えておる?」
俺は少し考えた。
言いたいことは、いろいろある。
もっと強くなりたい。
もっと遠くへ行きたい。
もっといろんなものを知りたい。
でも、今は。
「……たの、しみ」
途切れ途切れの声が出た。
ルナが少し黙る。
それから、楽しそうに笑った。
「……そうか」
ゆっくりと、隣を歩く振動が続く。
「我もだ」
俺たちは街道を進んだ。
ルナの歩幅に合わせ、急がず、ゆっくりと。
途中で脚が痛み始めたら休めばいい。
道に迷ったら、誰かに聞けばいい。
強い魔物に出会ったら、まずは生き残ることを考える。
そして、勝てる相手なら。
……今度こそ、俺が戦ってみたい。
捕食して。
性質を手に入れて。
もっといろんな形に変わって。
この世界で、俺にしかできないことを増やしていく。
そんなことを考えていた、そのときだった。
――カサッ。
街道の脇から、小さな振動が伝わってきた。
……ん?
俺は身体を止めた。
草の間を動く、細かな足音。
1つではない。
いくつかの小さな振動が、不規則に続いている。
そして、その少し奥から。
もっと大きな生き物が動く気配が伝わってきた。
「……どうした?」
ルナが足を止める。
俺は触手を伸ばし、草の茂る方向を示した。
「何かおるのか?」
肯定する。
しばらく耳を澄ませていたルナが、小さく笑った。
「……ふむ。どうやら、街道の外も賑やかなようだな」
俺は地面へ身体を広げ、振動を確かめた。
小さな足音が、急に速くなる。
その後ろを、大きな足音が追いかけていた。
……何かが、何かを追っている?
まだ何がいるのかは分からない。
敵かどうかも分からない。
ただ、久しぶりに感じる、野生の生き物たちの動きだった。
俺は身体を少し持ち上げた。
……おお。
なんだか、懐かしいな。
洞窟で生き延びるため、必死に獲物を探していた頃を思い出す。
もちろん、あの頃と今では状況が違う。
俺には仲間がいる。
少しは能力も増えた。
そして、これから先は、自分の意思で進むことができる。
「行くぞ、ノア」
ルナが声をかけた。
「この先には、まだ我らの知らぬものが山ほどある」
俺は大きく身体を上下させた。
……よし。
エルデ村のみんな。
今まで、本当にありがとう。
次に会うときは、もっと立派になって帰ってくるからな。
そして。
今度こそ、ちゃんとこの世界を見てやる。
俺は身体の一部を前へ伸ばし、ルナと並んで歩き始めた。
俺たちの冒険は、まだ始まったばかりだ。
作者あとがき
第2部のエルデ村編は、今回でひとまず一区切りとなります。
最初は警戒されていたノアとルナですが、村で過ごすうちに多くの人たちと関わり、それぞれの居場所を見つけました。
石切り場の謎や白い狐たちのその後など、まだ続いている物語もあります。
そして次回からは、いよいよノアとルナの冒険が再開します。
捕食、成長、そして新たな身体の可能性。
ここからは、原初種としてのノアの進化にも注目です!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




