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ゲームだと思ったら原初の生命に転生しました。  作者: くんくん
第2部

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消えた荷車

第2部 第16話 消えた荷車


「……見つからなかった、か」


俺は小屋の床に身体を広げたまま、外の足音を聞いていた。


朝から何人もの警備隊員が街道を行き来している。


昨夜、俺たちを捕まえようとした男は2人。


そのうち1人は捕まったが、もう1人は森へ逃げ込んだ。


ハルドたちは夜通し周囲を調べていたらしい。


だが、今のところ逃げた男は見つかっていなかった。


「……ノア」


干し草の上からルナの声がした。


「そんなに気になるか?」


俺は触手を持ち上げた。


「無理もないが、今は我らにできることも少ない。あまり気を張りすぎるな」


……それは分かってる。


俺は身体を小さくまとめた。


昨夜は結局、あまり休めなかった。


扉を押されるたびに横木を支え、警備隊が来るまで何とか持ちこたえたものの、身体への負担は思った以上に大きかった。


食事で補ってきた栄養も、かなり使ってしまった気がする。


何より、右後ろ脚を怪我したルナが狙われている。


今の俺にとって、それが一番の心配だった。


「……まったく」


ルナが小さく息を吐いた。


「貴様がそんな調子では、我まで落ち着かなくなるではないか」


……ごめん。


俺はそっと前脚へ触れた。


すると、柔らかな毛が触手の先端を包む。


「……ふむ」


ルナは少し黙ったあと、静かに続けた。


「今日は、もう少しゆっくり過ごそうではないか」


俺は肯定した。


確かに、その方がいい。


警備隊が動いている間、俺たちまで無茶をする必要はないのだから。


……そう思っていたのだが。


「ルナ! ノア!」


小屋の外から、聞き覚えのある声が響いた。


ハルドだ。


しかも、随分と急いでいる。


「少し話がある!」


……おっと。


どうやら、ゆっくり過ごすのは難しそうだ。


⸻


「逃げた男の荷車が見つかった」


ハルドは小屋へ入るなり、そう言った。


「……荷車?」


ルナが聞き返す。


「ああ。村の北側にある古い作業場の裏に隠してあった」


……おお。


それは大きな手がかりじゃないか。


俺は触手を持ち上げた。


「昨日、宿の主人が話していた荷車と特徴が一致している。積み荷も残っていた」


「……中身は?」


ルナの声が少し低くなる。


「布や空の木箱がほとんどだった。商売に使えそうな品物は少ない」


……ん?


俺は少し引っかかった。


商人なのに、商品がほとんどない?


「それから、薬品の入った小瓶と、拘束用の縄が何本か見つかった」


……ああ。


やっぱり。


昨日、薬売りを装って訪ねてきた男。


その荷車から、薬品と拘束具。


偶然とは考えにくい。


「薬については、マルタに調べてもらうつもりだ。何が入っているか分からんからな」


「……賢明だ」


ルナが答えた。


だが、ハルドの話はそこで終わらなかった。


「妙なのは、荷台の跡だ」


……跡?


俺は触手を少し伸ばした。


「荷台の床に、四角いものを固定していた痕跡があった。かなり重いものを載せていたらしい」


「……鉄の檻か?」


「恐らくな」


ハルドが低く答える。


「だが、見つかった荷車には載っていなかった」


……え?


俺は動きを止めた。


「……ないのか?」


ルナが尋ねる。


「ああ。周囲も調べたが、今のところ見当たらない」


小屋の中に、短い沈黙が落ちた。


俺は昨日までの話を思い返した。


白銀の魔獣を買い取れないかと尋ねた商人。


外側から錠をかけられる鉄製の箱。


夜中の下見。


そして、薬売りを装った訪問。


……檻がない。


それは、どういうことだろう。


逃げるときに持ち出したのか。


それとも、最初から別の場所へ運んでいたのか。


「……分からんな」


俺は身体を小さく揺らした。


すると、ハルドが続けた。


「今、部下に周囲を調べさせている。ただ、重い檻を1人で遠くへ運べるとは思えん」


……確かに。


男が逃げたのは、昨夜のことだ。


荷車まで戻って大きな鉄箱を運び出すには、それなりの手間がかかるはず。


「誰か別の協力者がいる可能性もある」


ハルドはそう言った。


「まだ2人だけの犯行だと決めつけない方がいいだろう」


……なるほど。


俺は身体を縮めた。


問題は、思っていたより大きいのかもしれない。


⸻


「捕まえた男は、何か話したのか?」


ルナが尋ねた。


「少しだけな」


ハルドの声が硬くなる。


「名前はニール。本人の話では、荷運びの仕事を引き受けただけらしい」


……荷運び?


俺は触手を止めた。


「白銀の魔獣を捕まえて運べば、まとまった金を渡すと言われたそうだ」


……いや。


それ、完全に誘拐の手伝いじゃないか。


「仕事の内容がおかしいとは思わなかったのか?」


ルナが冷たく尋ねる。


「本人は、珍しい魔獣を買い取る商売だと聞いていたと言っている」


「……ふん」


ルナが鼻を鳴らした。


「買い取る相手の同意も得ず、夜中に窓をこじ開けるのが商売か?」


……ごもっともです。


俺は思わず触手を持ち上げた。


ハルドも同じように思っているらしい。


「もちろん、そんな説明で済ませるつもりはない。ただ、雇い主については口を閉ざしている」


「……名前も知らぬのか?」


「名前は知っているらしい。だが、話そうとしない」


……何でだ?


俺は少し考えた。


捕まっているのだから、雇い主の名前を教えた方が自分にとって有利になる気もする。


だが、事情はそう簡単ではないらしい。


「何かを恐れているようだった」


ハルドが続けた。


「報酬の話をしている間は普通だったが、雇い主のことを聞いた途端に態度が変わった」


……恐れている。


その言葉に、俺は少しだけ違和感を覚えた。


金のために悪事へ手を貸したのなら、捕まったあとで仲間を庇う必要があるのだろうか。


もちろん、義理を通している可能性もある。


だが。


「……それだけじゃないのかもな」


俺は床へ触手を押しつけた。


すると、ルナが静かに言った。


「……口を割れば、何かされるとでも思っておるのだろう」


……ああ。


その可能性もあるか。


「俺もそう考えている」


ハルドが答えた。


「だから、無理に問い詰めるより、まず荷車や道具から調べるつもりだ」


……なるほど。


俺はゆっくり肯定した。


ハルドは慎重だ。


相手を捕まえたからといって、すぐにすべてが解決したとは考えていない。


今は、それが頼もしかった。


⸻


「それで、もうひとつ相談がある」


ハルドの声が少し変わった。


「ノア。お前の感覚を借りられないか?」


……え?


俺は身体を持ち上げた。


「昨夜、扉の異常にも気づいていたんだろう? それに、前は床の傷みも分かったと聞いている」


……まあ、そうだけど。


「荷車にも、何かおかしなところがないか確かめてほしいんだ」


俺は少し考えた。


荷車。


木材。


金属。


そういったものの振動を確かめるだけなら、俺にもできるかもしれない。


ただし、触れば何でも分かるわけではない。


目がない以上、細かな傷や文字は見つけられないし、荷物の中身を透視できるわけでもない。


……それでも。


「……試す価値はあるか」


俺はゆっくり肯定した。


「……ノア」


すぐにルナが口を開いた。


「無理をするつもりではあるまいな?」


俺は否定した。


「……本当だな?」


もう1度。


すると、ハルドが言った。


「心配するな。荷車はこちらへ運んである。村へ連れていくわけじゃない」


……おお。


そうなのか。


「それに、薬品や拘束具は取り除いてある。触れて危険なものがないか、先に確認させている」


……なるほど。


それなら、少し安心できる。


「見てもらいたいのは荷車そのものだ。車体や荷台に、妙な細工がないか調べてほしい」


ルナはしばらく黙った。


やがて。


「……ノアが疲れたら、すぐに止めさせるのだぞ」


「もちろんだ」


ハルドが答える。


「危険な仕事を任せるつもりはない」


……よし。


話は決まった。


俺は身体を小さくまとめ、移動の準備をした。


ただし、ルナは小屋で留守番だ。


マルタから安静にするよう言われているし、怪我をした脚で外へ出る必要はない。


「……気をつけて行くのだぞ」


ルナが静かに言った。


俺は触手を持ち上げた。


……行ってきます。


⸻


荷車は、小屋から少し離れた道沿いに置かれていた。


ハルドが警備隊員を1人つけ、周囲を見張らせている。


「ノア、ここだ」


俺は荷車の側面へ触手を伸ばした。


……こつ。


硬い木材の感触。


少し古びているらしく、表面には細かな凹凸があった。


続いて、《粘着性》を使い、荷台へ登る。


……ぺたり。


「……よし」


荷台の床へ身体を広げた。


木の板が並んでいる。


ところどころに、硬い金属の部品もある。


俺は短い触手を作り、床を軽く叩いた。


……こつ。


振動が伝わる。


もう1度。


……こつ。


特におかしな感じはない。


「……どうだ?」


ハルドが尋ねる。


俺は触手を左右へ振った。


まだ何とも言えない。


すると、ハルドが小さく息を吐いた。


「焦らなくていい。ゆっくり調べてくれ」


……助かります。


俺は荷台の端へ移動した。


……こつ。


……こん。


少しずつ、叩く場所を変える。


すると。


……ぼん。


「……ん?」


今までとは違う振動が返ってきた。


俺は身体を止めた。


もう1度、同じ場所を叩く。


……ぼん。


やっぱり違う。


ほかの板より、音が鈍い。


しかも、振動の戻り方が少し遅いような気がする。


「……何だ、これ?」


俺は慎重に触手を伸ばした。


板の表面は、特に変わっていない。


だが、その下に何か空間があるような感触だった。


……まさか。


俺は荷台の別の場所を叩いた。


……こつ。


普通だ。


もう1度、怪しい場所。


……ぼん。


明らかに違う。


「……ハルド!」


もちろん、声にはならない。


俺は荷台の床を叩いた。


……コツ、コツ!


「……ん?」


ハルドが反応する。


俺は怪しい場所へ触手を向けた。


「そこか?」


肯定する。


「何かあるのか?」


もう1度、肯定。


ハルドが荷台へ上がってきた。


木が軋む振動が伝わる。


「……この板?」


俺は肯定した。


「見たところ、普通の板に見えるが……」


……そうだろうな。


俺は触手を伸ばし、もう1度板を叩いた。


……ぼん。


ハルドも同じ場所を叩く。


……こん。


「……ああ」


声が少し変わった。


「確かに、ほかとは音が違うな」


……やっぱり!


俺は身体を持ち上げた。


「少し待ってくれ」


ハルドが道具を取り出した。


木を擦る音。


続いて、金属が何かに触れる振動。


……かりっ。


……ごとっ。


「……外れた」


どうやら、板の一部を取り外したらしい。


そして。


「……何だ、これは」


ハルドが低く呟いた。


……え?


俺は動きを止めた。


「床の下に、小さな隠し場所がある」


……おお。


やっぱり!


「しかも、何か入っているぞ」


……何か?


俺は触手を伸ばしかけた。


だが、ハルドがすぐに止めた。


「ノア、触るな。何が入っているか分からん」


……あ。


そうだった。


俺は素直に触手を引っ込めた。


ハルドは慎重に何かを取り出した。


……かさっ。


紙のようなものが擦れる音。


続いて。


……ことん。


小さな硬い物が、荷台へ置かれた。


「……封筒と、小さな金属片か」


……封筒?


俺は身体を止めた。


「隊長、何か書いてありますか?」


近くの警備隊員が尋ねる。


「……待て」


ハルドが紙を広げる。


少しの沈黙。


そして。


「……これは」


その声が、急に低くなった。


「……村の地図だ」


……え?


俺は身体を強張らせた。


村の地図?


どうして、そんなものが隠されているんだ?


「しかも、ただの地図じゃない」


ハルドは続けた。


「エルデ村の周辺に、いくつか印がつけられている」


……印?


俺は意識を集中させた。


「……ひとつは、あの炭焼き小屋だ」


「…………」


俺は動きを止めた。


炭焼き小屋。


俺たちが今、暮らしている場所。


「それから、村の北側の道。古い作業場。そして……」


ハルドの言葉が止まる。


「……何だ?」


俺は思わず身体を伸ばした。


少しの沈黙。


そして。


「……岩山だ」


「…………」


……岩山?


俺は身体を強張らせた。


あの洞窟がある山。


俺が、この世界で目覚めた場所。


そして、ルナと出会った場所だ。


「……何で?」


俺は心の中で呟いた。


商人たちは、ルナを捕まえようとしていた。


そのために、村の位置や小屋の場所を調べていたのは分かる。


だが、岩山まで印をつける必要があるのだろうか。


ルナが洞窟から来たと知っていたのか。


それとも。


……別の目的があるのか。


「……隊長」


警備隊員が声をかけた。


「この地図、村長へ見せた方がいいんじゃないですか?」


「……ああ」


ハルドが低く答えた。


「そうしよう。だが、その前にもうひとつ確かめたい」


……ん?


俺は触手を持ち上げた。


「この金属片だ」


……金属片?


ハルドが何かを手に取る音がした。


「小さな札のようなものだ。片側に穴がある。何かへ取りつけるためのものかもしれん」


……へえ。


「それから、表面に印が刻まれている」


……印。


俺は少し嫌な予感がした。


まさか。


「……欠けた輪だ」


「…………」


俺は動きを止めた。


……やっぱり。


ルナが以前見たという、あの印。


昨日、拘束具にも刻まれていたもの。


それが、今度は荷車の隠し場所から見つかった。


「……偶然じゃないな」


俺は身体を小さく縮めた。


少なくとも、これらの道具が同じ出どころを持つ可能性は高い。


ただし、何を意味する印なのかはまだ分からない。


商会の印なのか。


道具を作った工房の印なのか。


それとも、まったく別の意味があるのか。


「……調べる必要があるな」


俺は心の中で呟いた。


ハルドも同じ考えらしい。


「ノア、助かった。これは重要な手がかりになるかもしれん」


……うん。


俺は触手を持ち上げた。


すると、ハルドが続けた。


「ただし、今日見つかったことは、まだ村の外へ広めない方がいい」


……なるほど。


逃げた男がいる。


ほかにも仲間がいるかもしれない。


情報が広まれば、相手に警戒される可能性もあるだろう。


俺はゆっくり肯定した。


「……よし」


ハルドが小さく息を吐いた。


「では、いったん小屋へ戻ろう」


⸻


「……岩山に印が?」


小屋へ戻って事情を説明すると、ルナの声が変わった。


ハルドは地図を広げ、印の位置を説明しているらしい。


「正確には、岩山の南側だ。洞窟の入口かどうかまでは分からん」


「……南側」


ルナが低く呟いた。


「何か心当たりがあるのか?」


ハルドが尋ねる。


しばらく、沈黙。


そして。


「……少しだけな」


……え?


俺は身体を持ち上げた。


ルナは続けた。


「我が大百足に襲われた洞窟は、岩山の南側から入った場所だった」


「…………」


ハルドが黙った。


俺も動きを止めた。


……つまり。


商人たちが印をつけていた場所と、ルナがいた洞窟。


その位置が重なっている可能性がある。


「……だが」


ルナは静かに続けた。


「それだけで何かが分かるわけではない。岩山には洞窟がいくつもあるし、我がいた場所と同じとは限らぬ」


……そうだな。


俺は肯定した。


ここで決めつけるのは危険だ。


「ただ……」


ルナが少しだけ声を落とした。


「気になることはある」


……ん?


俺は触手を向けた。


「何だ?」


ハルドが尋ねる。


「我があの洞窟へ入った理由だ」


「…………」


俺は動きを止めた。


そういえば。


ルナは、どうしてあの洞窟にいたのだろう。


大百足に追われ、毒を受けたことは聞いた。


だが、その前に何をしていたのか。


俺はまだ、詳しく知らない。


「……実はな」


ルナが静かに言った。


「我は、あの洞窟であるものを探しておった」


……探していた?


俺は身体を持ち上げた。


「何をだ?」


ハルドが尋ねる。


ルナは少し迷ったようだった。


それから。


「……古い遺跡だ」


「…………」


……遺跡?


俺は動きを止めた。


洞窟の中に、遺跡?


「以前に読んだ記録に、岩山の奥へ続く古い地下道の話があった。それを確かめようとしておったのだ」


……へえ。


初耳だ。


「だが、途中で大百足に襲われた。結局、詳しく調べるどころではなくなってしまったがな」


なるほど。


それで、あの洞窟にいたのか。


俺は少しだけ納得した。


ただ、別の疑問も浮かんだ。


……何で、遺跡を探してたんだ?


ルナは何か探し物でもしているのだろうか。


それとも、古い記録に興味があっただけなのか。


「……その遺跡と、商人たちに関係があると思うか?」


ハルドが尋ねる。


「分からぬ」


ルナは正直に答えた。


「ただ、我が探していた場所と、あやつらが印をつけていた場所が近いのなら、偶然と片づけるには少々気になる」


……確かに。


俺もそう思う。


だが、これ以上の情報はない。


商人たちの目的は、あくまでルナの捕獲だったのかもしれない。


岩山の印も、たまたま別の用事でつけたものかもしれない。


「……ふむ」


ハルドはしばらく考え込んだ。


やがて、静かに言った。


「この話は村長にも伝えておこう。岩山については、今すぐ調べに行くわけにはいかんが、何か分かるかもしれん」


「……頼む」


ルナが答えた。


俺も触手を持ち上げた。


すると、ハルドが続けた。


「それから、ルナ」


「何だ?」


「その遺跡について、ほかに分かっていることがあれば教えてほしい」


ルナは少し黙った。


そして。


「……古い記録では、そこを『閉ざされた道』と呼んでおった」


……閉ざされた道。


俺はその言葉を、頭の中で繰り返した。


「何が閉ざされているのかは分からぬ。ただ、かつて地下を通って別の場所へ繋がっていた、という記述があった」


……地下道。


洞窟。


そして、遺跡。


俺は思わず身体を震わせた。


もし本当にそんなものがあるなら、あの洞窟にはまだ知らない場所が残っているのかもしれない。


「……面白そうだな」


俺は身体を小さく揺らした。


すると、ルナがすぐに反応した。


「……ノア」


……はい。


「今すぐ調べに戻ろうなどと考えておらぬだろうな?」


……いや。


そこまでは考えてませんよ。


……ちょっとしか。


「……ふん」


ルナが鼻を鳴らした。


「我の脚が治ってからだ。忘れるでないぞ」


……分かってるって。


俺は素直に肯定した。


⸻


ハルドが帰ったあと、俺は小屋の床へ身体を広げた。


今日は、思っていた以上にいろいろなことが分かった。


逃げた男の荷車。


隠された地図。


欠けた輪の印。


そして、ルナが探していたという古い遺跡。


……だが。


「……何だか、話が大きくなってきたな」


俺は身体を小さくまとめた。


最初は、怪我をしたルナを助けることだけが目的だった。


それから、村へ来て。


人間と出会って。


文字を覚えて。


少しずつ、この世界のことを知り始めた。


だが、今になって。


俺が目覚めた洞窟と、ルナの探していた遺跡が繋がっているかもしれない。


さらに、彼女を捕まえようとした商人たちまで関わっている可能性が出てきた。


……偶然なのか?


それとも。


俺たちが知らないところで、何かが動いているのか。


「……ノア」


ルナが声をかけてきた。


俺は触手を持ち上げた。


「今日は疲れただろう。少し休め」


……そうだな。


俺は素直に身体を縮めた。


すると、ルナが小さく笑った。


「……それにしても」


……ん?


俺は触手を向けた。


「貴様は本当に、不思議なやつだな」


……またそれ?


俺は少しだけ身体を揺らした。


「我がずっと探していた手がかりへ、こうして近づくことになるとは思わなかった」


……ずっと?


俺は動きを止めた。


ルナの声は、いつもより静かだった。


「……まあ、今はまだ詳しく話せぬがな」


……ええっ。


またそれか。


俺は触手を左右へ振った。


すると、ルナが少し笑った。


「……ふふっ。そう拗ねるな」


……いや。


拗ねるだろ。


こんなところまで話しておいて。


「……いずれ話す」


ルナは静かに続けた。


「ただ、今は我自身も確かめたいことがあるのだ」


……なるほど。


それなら、仕方ないか。


俺はゆっくり肯定した。


すると、ルナがそっと尻尾を寄せてきた。


「……ありがとう、ノア」


俺はその温かさへ身体を寄せた。


……まあ。


気になることは多いけど。


今は焦らず、ひとつずつ確かめていけばいい。


原初種。


古い記録。


閉ざされた道。


そして、欠けた輪の印。


それぞれがどう繋がっているのかは、まだ分からない。


だが、少なくとも。


調べるべきことは、以前よりはっきりしてきた。


俺は身体の中心へ意識を向けた。


《捕食》。


《性質吸収》。


《構造形成》。


この力が、どこまで通用するのか。


まだ知らない。


けれど。


あの洞窟で目覚めたことにも、何か意味があるのだろうか。


俺は静かに考えた。


……もし、もう1度あの場所へ戻ることになったら。


今度は、前より少しだけ違うものが見えるかもしれない。


もちろん。


今の俺には、まだ物の形を見る目はない。


だが、感じ取れるものは確実に増えている。


そして、隣にはルナがいる。


……それだけは、前と違う。


俺は身体を小さくまとめた。


窓の向こうからは、夕方の弱い明るさが伝わってくる。


その光を感じながら、俺はゆっくりと意識を休ませた。


まだ、何も解決していない。


逃げた男も見つかっていない。


鉄の檻の行方も分からない。


だが。


ひとつだけ、確かなことがあった。


俺たちが出会ったあの洞窟には、まだ知らない何かが眠っているかもしれない。


そして、それを知る日が来るのなら。


今度は、生き残るためだけではなく。


自分の意思で、あの暗闇へ足を踏み入れることになるのだろう。

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