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ゲームだと思ったら原初の生命に転生しました。  作者: くんくん
第2部

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第3部 第34話 引っ張るな!

「引っ張るな!」


ガランの怒鳴り声が、風を裂いた。


俺は伸ばしかけた触手を止めた。


東の断崖。


そのすぐ向こうで、風喰いの巨体が大きく傾いている。


左側の吸入口には、まだ黒い縄が絡んでいた。


さっき外した小さな留め具の奥から、今度は大きな金属の輪が現れている。


それが、裂けた膜を引っ張っていた。


……まずい。


あのままじゃ、傷が広がる。


俺は思わず前へ出ようとした。


だが、ガランが俺の前に腕を伸ばした。


「今は駄目だ!」


「……でも!」


「見ろ! あの輪、岩に引っかかってる!」


……え?


俺は顔を上げた。


そして、ようやく気づいた。


風喰いの左側から垂れ下がった大きな金属の輪。


それが、崖の先端に突き出した鋭い岩へ引っかかっていた。


……おいおい。


ただでさえ飛びにくそうなのに。


今度は崖に捕まったのかよ!


◇


事態は、俺たちが岩陰へ逃げ込んだ直後に起きていた。


風喰いの右側から強い風が吹き出し、巨体が左へ傾く。


その勢いで、絡みついた黒い縄が引っ張られた。


そして、吸入口の奥にあった大きな金属の輪が外へ引き出されたのだ。


ただし、完全には外れなかった。


輪は膜の端へ引っかかったまま、崖の突き出した岩へぶつかった。


――ガァン!


鈍い音が響く。


風喰いの身体が大きく揺れた。


……っ!


俺は反射的に身体を低くした。


《粘着性》。


岩へ脚を固定する。


だが、今度の問題は俺が飛ばされることじゃない。


風喰いが動くたび、金属の輪を介して左側の膜が引っ張られている。


……あれ。


このまま無理やり飛んだら、もっと裂けるぞ。


「ガラン!」


俺は崖の先を指した。


「……とる!」


ガランは首を振った。


「今、縄を引くのは駄目だ。あの魔物の力と俺たちの力で、傷んだ部分を引き裂くことになる!」


……あ。


そうか。


俺は動きを止めた。


外したいからといって、力任せに引けばいいわけじゃない。


それはレムナの水門でも、何度も経験したことだった。


だが。


……じゃあ、どうする?


俺は、もう1度崖を見た。


金属の輪。


引っかかった岩。


そして、少しずつ高度を落とす風喰い。


……時間がない。


「ガラン、あの輪は何なのだ?」


ルナが尋ねた。


ガランは目を凝らした。


「……滑車枠だな。古い滑走索に使われていたものだ」


……滑車枠?


俺は顔を上げた。


「縄を通すための大きな輪だ。荷物を運ぶとき、縄が擦り切れないようにする」


……なるほど。


俺は少し考えた。


金属の輪なら、かなり重いはずだ。


しかも、今は黒い縄で風喰いの身体へ繋がっている。


……厄介だな。


そのとき、背後からヴァンの声がした。


「ガラン! あの岩、長くは持たねえぞ!」


……え?


俺は岩の先端を見た。


金属の輪が引っかかっている場所。


その根元へ、細い亀裂が走っている。


……っ!


本当だ。


岩まで、壊れかけてる!


◇


「全員、塔の裏へ退け!」


ガランの指示で、職人たちが一斉に動いた。


俺もルナと一緒に石塔の陰へ下がる。


オルドは、少し離れた場所で風向きを確かめていた。


「……次の強い吹き下ろしが来たら、岩が折れるかもしれん」


……ああ。


俺も、そう思う。


風喰いは、まだ身体を動かしている。


右側の吸入口が開く。


雲が集まる。


そして。


――ゴォォォッ!!


……っ!


強烈な風が、谷へ吹きつけた。


その反動で、風喰いの巨体が少し持ち上がる。


だが、左側の輪は岩へ引っかかったままだ。


――ギギギッ!


不快な音が響く。


……くそっ。


また、引っ張られてる!


俺は思わず身体を持ち上げた。


だが、ルナが前脚を伸ばした。


「ノア」


……ん?


俺は顔を向けた。


ルナは、静かな声で言った。


「貴様が飛び出しても、あれは助からぬ」


……。


分かってる。


頭では。


でも、あんなふうに苦しそうにしているのを見ると、じっとしていられないんだよ。


俺が身体を縮めると、ルナは続けた。


「ならば、今できることを探せ」


……っ。


俺は顔を上げた。


ルナは崖の先を見ている。


「引っ張っては駄目なのだろう? ならば、別の方法があるはずだ」


……別の方法。


俺はもう1度、金属の輪を見た。


重い輪。


岩へ引っかかっている。


黒い縄が、そこから風喰いへ伸びている。


……ん?


待てよ。


俺は少し考えた。


輪を引っ張れば、縄が張る。


だったら。


……輪を、持ち上げれば?


岩から外れる程度でいい。


ほんの少し、上へ。


それなら、縄を強く引っ張らずに済むんじゃないか?


俺はガランを呼んだ。


「……ガラン!」


彼が振り返る。


「何だ!」


俺は金属の輪を指した。


「……うえ!」


「上?」


俺は頷いた。


「……すこし!」


ガランは、しばらく輪を見つめた。


そして、はっとしたように顔を上げる。


「……岩から浮かせるのか!」


……そう!


俺は大きく頷いた。


輪を全部運ぶ必要はない。


岩へ引っかかっている部分だけ外せれば、風喰いはもう少し自由に動けるはずだ。


ガランは腕を組んだ。


「……できるかもしれねえ」


……お!


俺は身体を持ち上げた。


だが、彼はすぐに続けた。


「ただし、条件がある。縄が緩む瞬間を狙わねえと、岩ごと引っ張ることになる」


……なるほど。


俺は少し考えた。


風喰いが身体を持ち上げたとき。


輪が少し緩む。


その瞬間なら。


……いけるかもしれない。


◇


準備は、急いで行われた。


ただし、慌ててはいない。


ガランは、古い滑走索の金具を一切使わず、昨日設置した新しい固定金具を確認した。


そこへ、太い作業用の縄を通す。


さらに、先端には大きな鉤を取りつけた。


……なるほど。


これで、金属の輪へ引っかけるのか。


俺は鉤を見た。


だが、すぐに気づいた。


……ちょっと待て。


あの輪は、崖の外にある。


人間が身を乗り出して引っかけるには、危険すぎないか?


俺が顔を上げると、ガランも同じことを考えていたらしい。


「ノア。お前の触手、あそこまで届くか?」


……ん?


俺は距離を確かめた。


岩棚の端。


その少し下にある金属の輪。


……うーん。


届く。


多分。


ただし、身体の一部をかなり伸ばす必要がある。


それだけ薄くなるし、風にも弱くなる。


……でも。


俺は短く頷いた。


「……とどく」


ガランは、真剣な顔で言った。


「無理ならすぐ戻せ。お前自身で輪を支えようとするなよ」


……ああ。


分かってる。


俺の役目は、鉤を引っかけることだけだ。


重い輪を持ち上げるのは、巻き上げ機。


そして、職人たちの仕事だ。


「……ノア」


ルナが隣へ来た。


……ん?


「我は何をすればよい?」


俺は少し考えた。


ルナの《衝撃》。


あれなら、金属の輪へ短い力を加えられる。


ただし、今回の輪は大きい。


しかも、風喰いの身体へ繋がっている。


無理に動かせば、余計な力がかかるかもしれない。


……だったら。


最後の仕上げだな。


俺は金属の輪を指した。


「……さいご、ちょっと」


ルナは首を傾げた。


「最後に、少し押せばよいのか?」


……そう!


俺は頷いた。


巻き上げ機で輪を持ち上げる。


それでも引っかかっているなら、ルナが横から軽く押す。


……うん。


それなら、役に立つはずだ。


ルナは満足そうに笑った。


「任せよ」


◇


俺は岩棚の端から少し離れた場所へ身体を置いた。


脚を短くする。


《粘着性》。


岩へ固定する。


さらに、身体の中央へ命綱を通した。


……よし。


準備できた。


ガランが、鉤のついた縄を差し出す。


俺は触手で受け取った。


……結構、重いな。


だが、持てないほどじゃない。


俺は《構造形成》で細い腕を伸ばした。


先端を硬くする。


《硬質外皮》。


……よし。


これなら、鉤の向きを調整できる。


俺は慎重に、崖の外へ触手を伸ばした。


風が当たる。


……っ。


強い。


だが、身体そのものは岩へ固定している。


先端だけが、少し揺れる。


……落ち着け。


俺はゆっくり鉤を下ろした。


金属の輪。


その上側。


……もう少し。


触手を少し動かす。


――カチン。


……っ!


入った!


俺は反射的に身体を持ち上げかけた。


だが、すぐに抑えた。


……まだ。


まだ、終わりじゃない。


俺はガランへ合図した。


「……できた!」


「よし! 戻せ!」


……了解!


俺はすぐに触手を引き戻した。


鉤は、金属の輪へ残っている。


作業用の縄が、そこから巻き上げ機へ伸びていた。


……よし。


これで、持ち上げる準備はできた。


ただし。


今は、まだ引かない。


風喰いの身体が大きく傾いている。


黒い縄は、強く張ったままだ。


……待とう。


俺は空を見上げた。


右側の吸入口。


風喰いが、もう1度空気を取り込もうとしている。


……今じゃない。


風が吹き出す。


――ゴォォッ!!


巨体が、少し持ち上がる。


だが、輪はまだ強く引っ張られている。


……まだ。


もう少し。


俺は金属の輪を見つめた。


……あ。


緩んだ。


ほんの少しだけ。


黒い縄が、たるんだ。


……今だ!


「……いま!」


俺が叫ぶと、ガランが即座に反応した。


「引け!」


職人たちが巻き上げ機を回す。


――ギギギッ!


作業用の縄が張る。


金属の輪が、ほんの少し持ち上がった。


……っ。


お!


動いた!


ただし、まだ完全には外れていない。


輪の端が、岩へ引っかかったままだ。


……もう少し!


だが。


――ゴォォッ!


風が変わった。


……っ!


まずい!


黒い縄が、再び張り始める。


俺は反射的にガランを見た。


彼も、すぐに叫んだ。


「止めろ!」


巻き上げ機が止まる。


……くそっ。


あと少しなのに!


俺は金属の輪を見た。


岩との間には、ほんのわずかな隙間ができている。


……あ。


今なら。


ルナ!


俺は相棒へ顔を向けた。


「……ルナ!」


ルナは、すでに前脚を構えていた。


「うむ!」


「……そこ!」


俺は輪の端を指した。


ルナの目が、細くなる。


そして。


「《衝撃》!」


――コンッ!


……っ!


小さな衝撃が、金属の輪へ当たった。


決して強くはない。


だが、向きは正確だった。


輪が、ほんの少し横へ動く。


――カランッ!


……あ。


外れた!


金属の輪が、岩の先端から滑り落ちた!


……やった!!


俺は思わず身体を持ち上げた。


だが、次の瞬間。


――ゴォォォォッ!!


……っ!?


ものすごい風が、谷へ吹き出した。


◇


「全員、退け!」


ガランが叫んだ。


俺は即座に身体を縮めた。


作業用の縄が、強く引っ張られる。


……っ!


輪は岩から外れた。


だが、今度は風喰いが動き始めたのだ。


黒い縄が再び張り、金属の輪が大きく揺れる。


……まずい!


このままじゃ、巻き上げ機ごと引っ張られる!


ガランが叫んだ。


「作業索を離せ!」


……え?


俺は一瞬、固まった。


せっかく引っかけたのに?


だが、すぐに理解した。


……そうか。


今度は、俺たちの縄が風喰いを引っ張ってしまう!


「……はなす!」


俺も叫んだ。


ガランは、巻き上げ機の横にある切り離し具へ手を伸ばした。


――ガチンッ!


金属の爪が外れる。


作業用の縄が、一気に緩んだ。


……っ!


次の瞬間。


――シュルルッ!


縄が巻き上げ機から離れ、崖の外へ流れていく。


鉤も、金属の輪から外れた。


……よし!


これで、風喰いを引っ張るものはなくなった!


だが。


俺は、空を見た。


風喰いは、大きく身体を傾けていた。


右側の吸入口から、何度も風が吹き出す。


左側は、まだ十分に動かない。


……あ。


まずい。


岩からは外れた。


でも、飛べるようになったわけじゃない。


巨体が、ゆっくり高度を落としていく。


……おいおい。


待て。


このままじゃ。


……落ちるぞ!


◇


風喰いは、東の谷へ向かって流れていた。


ただし、もう高度を保てていない。


右側から風を吹き出すたび、身体が大きく揺れる。


左側の吸入口は、ほとんど閉じたままだ。


……くそっ。


どうする。


俺は少し考えた。


だが、今の俺には何もできない。


あんな巨大な身体を支えることなんて、不可能だ。


それに、俺が空へ飛び出したところで、状況は変わらない。


……だったら。


せめて。


落ちる場所だけでも。


俺は谷の下を見た。


細い川。


大きな岩。


そして、その少し先。


……あ。


広い場所がある。


岩山の途中に、平らな石の台地が広がっている。


建物も、人影もない。


……あそこ!


俺は思わず身体を持ち上げた。


「……ガラン!」


彼が振り返る。


「何だ!」


俺は台地を指した。


「……あそこ!」


ガランはすぐに視線を向けた。


そして、表情を変えた。


「……東の石棚か!」


……石棚?


俺は頷いた。


名前は知らないけど。


あそこなら、少なくとも村の上へ落ちるよりはいい。


ガランは風喰いを見た。


「……あいつ、自分で向きを変えられるか?」


……。


分からない。


でも。


俺は、もう1度風喰いを見た。


巨大な灰色の身体。


金色の瞳。


そして、まだ動いている右側の吸入口。


……そうだ。


あいつは、完全に飛べなくなったわけじゃない。


右側は使える。


だから、少しは方向を変えられるはずだ。


……多分。


そのとき。


――ォォォン。


風喰いが、低い音を出した。


俺は反射的に顔を上げた。


金色の瞳が、こちらを向いている。


……っ。


まただ。


あいつ。


こっちを見てる。


俺は一瞬、迷った。


何かを伝えられないだろうか。


でも、どうやって?


言葉は通じない。


《共鳴膜》で音を返しても、意味が伝わるかは分からない。


……だったら。


せめて。


あそこへ向かってほしい。


俺は石棚を指した。


「……あっち!」


自分でも、無茶なことをしていると思う。


相手は巨大な魔物だ。


俺の小さな声なんて、届くわけがない。


……でも。


俺はもう1度、触手を伸ばした。


「……あっち!」


風喰いの瞳が、わずかに動いた。


……え?


俺は息を止めるように、身体を固くした。


風喰いは、ゆっくり頭を動かした。


そして。


……あ。


身体が、少し傾いた。


右側の吸入口が大きく開く。


――ゴォォッ!


強い風が吹き出す。


その反動で、巨体がわずかに横へずれた。


……っ!


石棚の方へ!


俺は思わず身体を持ち上げた。


……本当に?


俺の指した方向を見たのか?


それとも、たまたまなのか?


分からない。


でも。


風喰いは、確かに石棚の方へ向きを変えた。


◇


「……行った!」


ヴァンが叫んだ。


俺は顔を上げた。


風喰いの巨体が、ゆっくり石棚へ向かっている。


ただし、その動きは不安定だ。


何度も身体が傾き、そのたびに右側から風を吹き出していた。


……頼む。


もう少しだ。


石棚まで、あと少し。


俺は思わず触手を握るように丸めた。


そして。


――ゴォォォッ!!


最後の強い風が、谷へ吹きつけた。


風喰いの巨体が、少し持ち上がる。


だが、すぐに力を失ったように沈んだ。


……っ。


まずい!


俺は身体を低くした。


次の瞬間。


――ドォォォン!!


巨大な音が、峡谷へ響いた。


地面が揺れる。


石棚の上へ、灰色の巨体が落ちた。


……っ!!


俺は反射的に脚を固定した。


《粘着性》。


岩から、細かな砂が落ちてくる。


……おいおい。


ものすごい衝撃だ。


俺は恐る恐る顔を上げた。


石棚の上には、風喰いが横たわっていた。


巨大な身体。


灰色の背中。


そして、まだ絡みついたままの黒い縄。


……動かない。


俺は、しばらく黙っていた。


……大丈夫か?


あいつ。


生きてるのか?


「……ノア」


ルナが、静かに声をかけた。


俺は顔を向けた。


ルナも、石棚の方を見ている。


「……行くか?」


……。


俺は少し考えた。


今すぐ駆け寄りたい。


でも、まだ風喰いが動き出すかもしれない。


それに、あの巨体が暴れたら危険だ。


……まずは。


安全を確かめないとな。


俺は小さく頷いた。


「……まず、みる」


ルナは、静かに笑った。


「うむ」


◇


しばらくして。


石棚の上で、灰色の身体がわずかに動いた。


……っ!


俺は思わず顔を上げた。


風喰いの右側。


大きな吸入口が、ゆっくり開く。


そして、閉じる。


また、開く。


……あ。


生きてる。


俺は、ようやく身体の力を抜いた。


……よかった。


本当に。


ただし、風喰いは立ち上がらない。


いや。


そもそも、脚なんて見当たらない。


あいつは、空を飛ぶための身体をしている。


地面へ降りること自体、珍しいのかもしれない。


……大丈夫なのかな。


俺が考えていると、ガランが隣へ来た。


「……ノア」


……ん?


俺は顔を向けた。


ガランは石棚を指した。


「そこへ行く道はある」


……え?


俺は少し驚いた。


「昔、石を切り出していた場所だ。今は使ってねえが、崖の裏から回り込める」


……なるほど。


だから、あんなに平らだったのか。


俺はもう1度、石棚を見た。


巨大な風喰いが、そこへ横たわっている。


今までは、空へ手を伸ばすことばかり考えていた。


どうやって飛ぶか。


どうやって近づくか。


どうやって落ちずに帰るか。


……でも。


今は、少し違う。


風喰いは、地面へ降りた。


いや。


落ちた、という方が正しいのかもしれない。


どちらにしても。


……これなら。


今度は、地上から近づけるかもしれない。


俺は、ゆっくり身体を持ち上げた。


そのとき。


――ォォン。


遠くから、低い音が響いた。


風喰いの声だ。


今までより、ずっと小さい。


ただし。


確かに、聞こえた。


俺は、静かに頷いた。


「……いこう」


ルナが隣へ並ぶ。


「うむ」


ガランも頷いた。


「……ああ。ただし、近づく方法は慎重に決めるぞ」


……もちろん。


俺は触手を小さく振った。


空へ伸ばした手は、ようやく届いた。


でも、まだ助けられたわけじゃない。


あの黒い縄は、残っている。


傷ついた膜も、そのままだ。


……だったら。


今度こそ。


ちゃんと、外してやりたい。


俺は、石棚へ続く道を見た。


そこには、古い採石場の跡が広がっている。


そして、その奥で。


巨大な灰色の魔物が、静かに身体を動かしていた。


今まで空を見上げることしかできなかった俺たちは。


ようやく、同じ地面へ立てる場所を見つけたのだった。

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