第8話:静寂の午後と、図書委員妹の素直すぎるおねだり
買い出しから無事に帰宅し、山のような食材を冷蔵庫へ収め終えた土曜日の午後。
リビングのソファでは、運動部から帰ってきた六女の絢金と五女の木乃香が爆睡し、長女の陽葵さんは末っ子の土和を抱きかかえたまま、すやすやと寝息を立てていた。
買い出しで体力を使い果たした次女の月菜も、自分の部屋で休んでいるようだ。
静まり返った広大な邸宅の中、俺、浅比誠は、キッチンのカウンターで一人分のアイスコーヒーを淹れて一息ついていた。
「――ふぅ。さすがに七人分の食材搬入は堪えたな」
冷たいグラスを傾け、喉を鳴らす。
と、その時だった。
カサリ、と静かな気配とともに、廊下の陰から人影が現れる。
四女の彩咲水樹だ。
黒髪を肩まで伸ばした、おとなしそうな図書委員。
普段は自分からあまり主張しない物静かな性格の彼女だが、今日はなぜか文庫本を胸に抱えたまま、じっと俺を見つめていた。
「ん? 水樹か。どうした? お腹空いたか?」
「……ううん」
水樹は首を横に振ると、小さな足取りで俺に近づいてきた。
そして、何の前触れもなく、俺のすぐ隣の丸椅子に腰を下ろす。
距離が近い。肩と肩が触れ合いそうな至近距離だ。
「……本、読んでた。でも、リビングが静かになったから、誠のところに来た」
「俺のところ?」
「……うん。誠の近く、いちばん落ち着く」
ぽつりと直球な言葉を口にする水樹。
ツンツンしている月菜とは正反対に、この四女は無自覚に甘いな言葉を平然と言ってのける。
「そ、そうか……。まあ、俺でよければいくらでも居ていいぞ」
「……うん。ありがと」
水樹は嬉しそうに瞳を細めると、抱えていた文庫本を開いた。
だが、視線は本に向かっているものの、彼女の体は徐々に俺の方へと傾いてくる。
「……誠」
「ん?」
「……ちょっと、狭い」
「えっ、あ、俺が退いた方がいいか?」
「……違う。もっと、近くがいい」
言うやいなや、水樹は俺の左腕を両手でしっかりと抱きかかえてきた。
――ぎゅむ。
「――っ!?」
薄手のTシャツ越しに伝わる、水樹の華奢な身体の柔らかさと、ほんのりと温かい体温。
おとなしい見た目に反して、胸元の柔らかな感触が腕全体を包み込む。
ふわりと漂う、古本と日だまりが混ざったような心地よいな香り。
「み、水樹!? あの、腕、ガッツリ当たってるんだが……!」
「……知ってる。誠の腕、太くて安心する」
「安心するのはいいけど、俺の理性が……!」
俺が汗を流しながら焦っていると、水樹は腕の力を緩めるどころか、俺の肩にちょこんと頭を乗せてきた。
黒髪のサラサラとした毛先が俺の首筋をくすぐる。
「……あのね、誠」
「な、なんだ……?」
「……月菜お姉ちゃん、誠のこと好きだけど……私も、負けない」
「はい……?」
小さな囁き声。
水樹は本から目を離さず、静かな声で衝撃的な宣言を口にした。
「……誠のご飯、いちばん好き。誠の匂いも、いちばん好き。だから……ずっと私のお世話、してね」
「……っ!」
見つめてくる水樹の瞳は、どこまでも澄んでいて、どこまでも本気だった。
静かな妹の隠れ積極性に、俺の心臓は暴走しそうなほどの高鳴りを刻み始める。
(あ、危ねぇ……! この家、ツンデレだけじゃなくて素直な誘惑まで潜んでやがる……!)
静かな午後のキッチンで、俺はひたすら精神統一に励むのだった。
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理性がww
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