第60話:鬼の仮面と、恵方の誓い
二月三日、節分当日——。
夕暮れ時の彩咲家の屋敷には、香ばしい酢飯の香りと、甘辛く煮詰めた穴子や玉子の芳醇な匂いが広がっていた。
「よーし! 恵方巻の具材、全部揃ったよ! 今年の恵方は『東北東やや東』だ!」
僕——浅比 誠が台所で声をかけると、リビングからワイワイと賑やかな足音が押し寄せてきた。
「ウハァァァッ! 誠お兄ちゃん、ご馳走だー! アタシ、もう我慢できないよ〜!」
三女の彩咲灯華が青鬼のお面を頭にチョコンと乗せ、目を輝かせてカウンターを覗き込む。
「灯華、焦ってはダメよ。恵方巻は願い事を思い浮かべながら、恵方を向いて無言で最後まで食べ切るのがルールなんだから」
四女の彩咲水樹が方位磁針を手に正確な方位を指し示し、五女の彩咲木乃香が眼鏡を押し上げた。
「科学的にも、途中で喋らないことで咀嚼に集中し、消化吸収が高まる素晴らしい風習ね。具材のマグロやサーモンに含まれるEPA・DHAも脳の活性化に最高だわ」
「とわも! えほうまき、あーんするー!」
末っ子の彩咲土和が小さな手で鬼のお面を掲げ、六女の彩咲絢金が大はしゃぎでカメラを構える。
「ウチ、みんなが恵方向いて太巻きに口開けてる写真、ぜんぶアルバムに残すね!」
「あらあら〜、みんな本当に楽しそうね〜。誠くん、三日月くんの分の恵方巻もバッチリ巻けたかしら〜?」
長女の彩咲陽葵さんが、胸元の開いた暖かそうなラベンダー色のニット姿でふわりと微笑みかけてきた。
「はい! 陽葵さん! 三日月さんには、男手一つで頑張っている一人暮らしの応援として、マグロと穴子がぎっしり詰まった特大太巻きと、温かい豚汁を用意してありますよ!」
「ふふ、じゃあ三日月くんにお届けするのは、私が一緒に行ってあげようかしら〜? 誠くんだけじゃ重いでしょうし〜」
「えっ! 陽葵さんがですか? 助かります!」
同い年の二十歳である陽葵さんと三日月さん。この二人のおっとりとした温かい雰囲気が重なる瞬間を想像すると、僕までなんだか誇らしい気持ちになってくる。
◇
「——トントン」
僕と陽葵さんは、重なった大皿と保温容器を持って、隣の三日月さんの家のインターホンを鳴らした。
「はーい! あ、浅比くん! それに……陽葵さん!?」
玄関のドアが開き、スウェット姿の三日月さんが顔を出した。
陽葵さんの姿を見るなり、三日月さんは一瞬で耳まで真っ赤になり、慌てて髪の毛を手ぐしで整え始めた。
「三日月くん、こんばんは〜。今日、節分だから……誠くんと一緒に恵方巻と豚汁持ってきちゃった〜」
陽葵さんがおっとりと微笑みながら大皿を差し出すと、三日月さんは恐縮しきりでお辞儀をした。
「えぇっ!? ほ、本当ですか!? 陽葵さん直々にお裾分けなんて……夢みたいですっ! 浅比くんも、いつも本当にありがとう……っ!」
「いえいえ! 三日月さんには未成年の僕の代わりに料理酒のお使いを頼んだり、いろいろ相談に乗ってもらってますから! 遠慮なく食べてください!」
「うぅ……一人暮らしの寂しい節分が一気に天国になったよ……。あ、陽葵さん! 今度、大学の帰りに美味しい和菓子屋さんで見つけた限定のお団子、お礼に買ってきますね……っ!」
必死にアピールする三日月さんに、陽葵さんは「あら〜、お団子? 嬉しいわ〜、楽しみに待ってるわね〜」と優しく目を細めた。
(三日月さん、大成功ですね……!)
僕が横で密かにサムズアップを送ると、三日月さんは照れくさそうに拳を握りしめて応えてくれた。
◇
彩咲家に戻ると、玄関で腕を組んだ彩咲月菜が待っていた。
「……遅かったじゃない、誠。陽葵お姉ちゃんと三日月さん、楽しそうにお話ししてたんでしょう?」
「あ、うん。三日月さん、すごく喜んでくれたよ。……あれ、月菜? もしかして、待っててくれたの?」
僕が尋ねると、月菜はポッと頬を染めてプイッと横を向いた。
「っ……! べ、別に待ってたわけじゃないわよっ! ただ……豆まきを始める前に、誠と二人で話したかっただけ……っ」
月菜はそっと僕の服の裾を掴み、廊下の陰へと引き寄せた。
「……誠」
「なぁに、月菜?」
「……私、今年の恵方巻のお願いごと……何にするか決めたの」
「へぇ、どんなお願いごと?」
月菜は上目遣いで僕をまっすぐ見つめ、小さく唇を開いた。
「……『これからもずっと、誠が私の隣で笑っていられますように』って……お願いするの」
そのまっすぐで愛おしすぎる言葉に、僕の心臓が大きく跳ね上がった。
周りに誰もいないことを確認すると、僕は月菜の小さな手をそっと両手で包み込んだ。
「月菜……ありがとう。僕の願いごとも……『月菜を世界一幸せにできますように』だよ」
「っ〜〜〜〜っ! もう……バカ誠……外で急にそういうこと言わないでって言ってるでしょう……っ」
真っ赤になって僕の胸におでこを押し当ててくる月菜。
二人の吐息が溶け合い、甘いぬくもりが身体中に広がっていく。
◇
「よし! それじゃあみんな、恵方を向いて……せーのっ!」
「「「「「「「「いただきまーす!!!!」」」」」」」」
リビングで全員が東北東を向き、巨大な恵方巻をパクリと頬張る。
一瞬訪れる静寂。しかし、具材の旨味が口いっぱいに広がると、妹たちの瞳が輝き出した。
(美味しい……! 誠の作った恵方巻、世界一美味しいわ……!)
月菜が目を丸くしながら僕を見つめ、無言のままコクコクと頷く。
僕も月菜の隣で恵方巻を頬張りながら、心の中で強く誓った。
恵方巻を食べ終えた後は、大盛り上がりの豆まき大会だ。
「鬼は〜外! 福は〜内!」
「灯華お兄ちゃん鬼めー! たべちゃえー!」
「ギャー! 絢金と土和の連携攻撃強すぎる〜〜〜っ!」
弾けるような笑い声と、豆が弾ける賑やかな音。
節分の夜が明け、暦の上では春を迎え、そして街はいよいよ『バレンタイン』の甘い熱気に包まれていく。
僕と七人姉妹、そして愛しい月菜との恋物語は、ますます甘く、かけがえのない輝きを放っていくのだった。
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【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 60】
『節分の後の余った「福豆(炒り大豆)」が絶品おやつ&おかずに変身する「香ばしハニーバター豆&炊き込みご飯」ハック』
節分の豆まきで余ってしまいがちな「福豆(炒り大豆)」。そのまま食べるだけだと口がパサついて残ってしまいがちですが、簡単なアレンジで絶品メニューに変身します!
① 『カリッと香ばしハニーバター大豆』
フライパンで余った福豆を軽く煎り、そこに「バター(10g)」と「蜂蜜(大さじ1)」を入れて絡めるだけ!
★冷ますと表面がカリッと固まり、香ばしさと甘じょっぱさがクセになる高級ナッツ風おやつになります!
② 『香ばしい節分大豆の炊き込みご飯』
お米2合に対して、余った福豆(30〜40g)、醤油(大さじ1)、酒(大さじ1)、昆布だしを入れて普通に炊くだけ!
★大豆がふっくらと柔らかくなり、香ばしいお出汁と豆の旨味が染み渡る料亭風豆ご飯が完成します!
これで余った福豆も最後まで美味しく楽しめますよ!




