第5話:夜の静寂と、ツンデレヒロインの素顔
「――ふぅ、これで今日の家事は全部終わりか」
時計の針は夜の十時を回っていた。
妹たちを寝かしつけ、長女の陽葵さんも「おやすみ〜」と部屋へ引っ込んだ後の静かなリビング。
俺、浅比誠は、誰もいなくなった食卓のテーブルを丁寧に拭き上げていた。
「……まだ起きてたの?」
静かな足音とともに現れたのは、次女の彩咲月菜だった。
学校での高嶺の花らしい制服姿ではなく、少し大きめの部屋着に身を包んでいる。
袖口から覗く手が可憐で、昼間の鋭いツンツンとした雰囲気とはまるで違う、年相応の女の子の可愛らしさが溢れていた。
「ああ、明日の朝飯の仕込みを少しな。月菜こそ、勉強か?」
「ええ……生徒会の仕事と、明日の小テストの予習。……アンタが家事を全部やってくれるから、勉強に集中できて助かってるわ」
ぽつりと漏らされた感謝の言葉。
俺が驚いて目を見開くと、月菜はハッとして顔を真っ赤にし、慌てて両手を振った。
「ち、違うわよ! 勘違いしないでよね! お世話係として最低限の仕事をしてるって評価してあげただけなんだから!」
「はいはい、分かってるって」
「もう! その適当な返事、ムカつく!」
ぷいっと横を向く、月菜。だが、その場を立ち去ろうとはせず、俺の向かいの椅子にちょこんと腰掛けた。
静まり返った家の中、二人きりの空間。
どこか心地よい緊張感が漂う。
「……ねえ、浅比くん」
「ん?」
「本当に……うちに来てよかったの? うち、壊滅的でしょ? 妹たちも賑やかすぎるし……アンタ、苦労してない?」
少しだけ不安げな瞳で俺を覗き込んでくる月菜。
昼間は「出ていけ!」と言わんばかりの態度を取っていたが、本当は誰よりも家族のことを思い、俺に気を使っていたのだ。
「苦労なんて思ってないよ。俺、家事好きだしな。それに――」
「それに……?」
「みんなで食べるご飯、美味いだろ? 一人で食うより、何倍も賑やかで楽しいよ」
俺が微笑みかけると、月菜は言葉を詰まらせ、胸のあたりをキュッと手で押さえた。
彼女の瞳がゆらゆらと揺れ、耳たぶまで真っ赤に染まっていく。
「な、なに格好つけたこと言ってるのよ……バカ」
「事実を言っただけだって。ほら、夜遅くまで起きてると肌に悪いぞ。ホットミルクでも飲むか?」
「……飲む。砂糖、少しだけ入れて」
小さく頷く月菜。
キッチンで温めたミルクを差し出すと、彼女は両手でマグカップを包み込み、ふーふーと息を吹きかけながら小さく口をつけた。
「……美味しい」
「そりゃよかった」
ほんのりと頬を緩める月菜の無防備な素顔。
学校では絶対に見られないそのデレ姿に、俺の胸が不覚にもトクンと跳ねた。
(……いかんいかん、俺はお世話係だ。理性を保て……!)
二人だけの甘い夜のひとときは、静かに更けていくのだった。
【お世話係誠の!生活豆知識のコーナー! #5】
「ぐっすり眠れる!ホットミルクの正しい温め方」
ホットミルクを作る時、膜(ラムスデン現象)が張ってしまうことありますよね!これは『牛乳を弱火でかき混ぜながらゆっくり温める』か、『温める前に砂糖やハチミツを混ぜておく』ことで防げます!牛乳に含まれるトリプトファンは睡眠の質を高めてくれるので、夜の読書や勉強のお供にピッタリですよ!
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