第4話:背伸びしたいお年頃と、魔法の特製ハンバーグ
「ふん、アンタが何を作ろうと、あたしは絶対にごまかされないんだから!」
放課後、リビングのソファで腕を組み、ぷいっと横を向いているのは五女の彩咲木乃香だ。
小学校五年生――まさに思春期の入り口に差し掛かり、絶賛背伸び中のお年頃。
他の姉妹たちが俺の手料理や家事スキルに胃袋と心を掴まれていく中、彼女だけは未だに「他人の男が家にいる」ことへの警戒心を崩していなかった。
「はいはい。まあ無理に食べなくてもいいけど、今日の夕飯は木乃香のリクエストに答えてハンバーグだぞ?」
キッチンでタマネギをみじん切りにしながら俺が言うと、木乃香の眉がピクッと跳ねた。
「べ、別にリクエストなんてしてないし! 絢金が騒いでたから言っただけだし!」
「お姉ちゃんウソつきー! 昨日『ハンバーグ食べたいなぁ』って独り言言ってたじゃん!」
ランドセルを放り投げた六女の絢金がすかさず暴露し、木乃香の顔が真っ赤に染まる。
「あ、絢金! 余計なこと言わないでよ!」
「あはは、可愛い妹のリクエストなら気合いを入れないとな」
俺は挽肉に炒めたタマネギ、パン粉、牛乳、卵、そして隠し味のナツメグと味噌を投入し、粘りが出るまでしっかりとこね上げた。
成形したタネの中央をくぼませ、熱したフライパンへ。
ジュワアァァッという快音とともに立ち上る肉汁の香ばしい匂い。
「うわぁ……! お兄ちゃん、すごいいい匂い!」
七女の土和がトコトコと走ってきて、俺のエプロンの裾をキュッと引っ張る。
「土和、危ないから離れてような。あともう少しで焼けるからな」
表面に綺麗な焼き色がついたら、酒を振ってフタをし、蒸し焼きにする。
さらに肉汁が残ったフライパンにケチャップ、ウスターソース、赤ワイン、そして少量のバターを煮詰めた特製デミグラスソースをかければ完成だ。
食卓に運ばれた、肉汁が溢れ出すふっくらとした大きなハンバーグ。
部活や学校から帰ってきた姉妹たちが、一斉に歓声を上げた。
「美味しそう……! 誠くん、今日のハンバーグ、肉汁の溢れ方が尋常じゃないよ!」
長女の陽葵さんが目を輝かせ、次女の月菜もゴクリと唾を飲み込んでいる。
「ふん……見た目は普通じゃない……」
強がりながらも、木乃香は我慢できずにフォークを伸ばした。
一口分を切り分け、パクリと口に運んだ瞬間――
「――ッ!?」
木乃香の瞳が丸く見開かれた。
ふっくらとした肉の歯ごたえとともに、絶品な肉汁とコクのあるソースの旨味が口いっぱいに広がる。
「な、なにこれ……! 柔らかいのに、お肉の味がすごくて……ソースがすっごく濃厚……!」
「ふふん、隠し味に味噌を入れてるからな。ご飯にめちゃくちゃ合うだろ?」
「う……うぅ……! 悔しいけど……美味いじゃん……!」
感極まった木乃香は、目をうるうるとさせながら大口でご飯とハンバーグを頬張り始めた。
その素直な反応に、周りの姉妹たちからも温かい笑い声が漏れる。
「ほら見なさい木乃香、浅比くんの料理には勝てないんだから」
月菜がどこか誇らしげに胸を張り、木乃香は顔を真っ赤にして「うるさい!」と返した。
ふと気づくと、木乃香が俺のエプロンの端をそっと引っ張っていた。
「……なに?」
「……あのさ」
木乃香は視線を泳がせながら、蚊の鳴くような声で呟いた。
「……明日も、アンタのご飯……食べてあげてもいいよ……」
「おう、しっかり作ってやるよ」
俺が頭を撫でると、木乃香は「子ども扱いしないで!」と怒りつつも、どこか嬉しそうに微笑むのだった。
【お世話係誠の!生活豆知識のコーナー! #4】
「プロ級!肉汁あふれるふっくらハンバーグの秘訣」
ハンバーグをふっくらジューシーに仕上げる最大のコツは『ひき肉と塩だけで先にしっかりこねる』こと!肉のタンパク質が塩によって結合し、網目構造を作るため、肉汁をギュッと閉じ込めることができます!玉ねぎやパン粉などの繋ぎは、肉に粘りが出た後から混ぜるのがポイントですよ!




