第52話:墨香る誓いと、新春の跳ね羽根
元旦の輝かしい太陽が天高く昇り、澄み渡った冬の青空が広がった午後——。
「よーし! 午後は彩咲家恒例……じゃなくて、今年から新しく始まる『新春・書き初め&羽子板大会』を開催するぞー!」
僕——浅比 誠がリビングの中央に大きめの下敷きと半紙、そして墨汁をセットすると、こたつに潜り込んでいた姉妹たちから「待ってましたー!」と元気な歓声が上がった。
「やったぁぁぁっ! 書道なんて小学校の授業以来だけど、アタシめっちゃデカい文字書いちゃうもんね〜!」
三女の彩咲灯華が袖を捲り上げ、鼻息荒く半紙に向かい合う。
「……文字はその人の精神を表します。水樹は『静寂』と書きます」
四女の彩咲水樹が筆にたっぷり墨汁を含ませ、真剣な眼差しで半紙を見つめる。
隣では六女の彩咲絢金が、豪快に筆を走らせていた。
「ウチの今年の抱負はコレ! 『焼肉放題』!!」
「ちょっと絢金、それを言うなら『焼肉食べ放題』か『焼肉三昧』でしょ。四字熟語としての体裁をなしていないわ」
五女の彩咲木乃香が眼鏡を指先でくいっと押し上げながら突っ込みを入れる。
「え〜っ! だって四文字ならなんでもカッコいいじゃん!」
「とわもね! 『おともだち』ってかくのー!」
末っ子の彩咲土和が小さな手で太いクレヨンを握り、半紙に可愛らしいひらがなを描いていく。
「ふふ、みんな本当に自由で素敵ね〜。誠くん、私も何か書いてみようかしら〜?」
長女の彩咲陽葵さんが、胸元の開いたピンクのニット姿でふわりと寄り添ってきた。彼女が筆を手に取ると、その大らかな空気感だけでリビング全体が温かい光に包まれるようだ。
「いいですね、陽葵さん。どんな言葉を書くんですか?」
「ん〜……『家内安全』と……『誠くん命』かしら〜?」
「「っ……!?」」
「陽葵お姉ちゃんっ! さっきから朝から誠に変なこと吹き込まないでって言ってるでしょっ!?」
廊下から着物風の華やかな和服ワンピに着替えた彩咲月菜が飛び込んできた。
顔をリンゴのように真っ赤にして抗議する姿は、相変わらず可憐で威勢が良い。
「ふふ、ごめんなさいね月菜。でも、誠くんが来てくれてからのこの家は、本当に幸せに満ち溢れているものね〜」
陽葵さんが悪戯っぽく微笑むと、月菜はプイッと横を向いて僕の隣へと歩み寄ってきた。
◇
「……誠」
「月菜? どうしたの、着物すごく似合ってるよ」
僕がそっと囁くと、月菜は周りの目を盗んで、僕のエプロンのポケットの中でそっと僕の指を握りしめてきた。
「っ……当たり前でしょ。……誠に最初に見せたくて、お着替えしてきたんだから……」
上目遣いで僕を見つめてくる月菜。
朝の初日の出を二人で見つめた時の甘い余韻と、昨夜の境内で交わしたキスの熱が、二人の指先から再びじわじわと伝わってくる。
「……すっごく可愛いよ、月菜。世界一綺麗な晴れ着姿だ」
「っ〜〜〜〜っ! もう……朝から褒め殺さないでよ……バカ誠っ……!」
顔を極限まで赤くして僕の腕をぽかぽかと叩いてくる月菜。
みんなの前では「いつも通りの高嶺の花と裏のお世話係」を演じつつ、二人きりになると一気にウブな恋人モードになるこのギャム感が、たまらなく愛おしかった。
「月菜お姉ちゃんは何て書くの〜?」
灯華に声をかけられ、月菜は慌てて僕から手を離し、スッと背筋を伸ばして筆を手にした。
「私は……『初志貫徹』よ。この家を守り、お姉ちゃんや妹たちを支え続ける……私の変わらない決意よ」
凛とした表情で、力強い達筆な文字を書き上げる月菜。
かつては一人で肩肘を張っていた彼女だが、今のその文字には、僕という「パートナー」を得たことによる確固たる強さと温かさが宿っていた。
「……流石月菜ね。美しい文字だわ」
陽葵さんが微笑み、みんなの書き初めがリビングの壁にずらりと並べられた。
『家内安全』『初志貫徹』『アタシ無敵』『静寂』『科学万歳』『焼肉放題』『おともだち』。
バラバラで、個性豊かで、けれど確かに『家族』の絆で結ばれた七枚の紙。
「よし! 次は庭に出て『新春羽子板大会』だー!」
「「「おおーっ!!!」」」
◇
キン、コン、と寒空の庭に心地よい羽子板の音が響き渡る。
「はいっ! 誠お兄ちゃん、いくよ〜っ!」
「おっと! 届くよ!」
庭では、灯華と絢金が豪快にラリーを繰り広げ、木乃香と水樹が冷静に軌道を計算しながら羽を打ち返していた。
「あーっ! 絢金、失敗〜! 顔に墨で罰ゲームだよ〜!」
「ぎゃあー! 木乃香お姉ちゃん手加減してー!」
顔に黒い墨でネコのマスコットを描かれ、キャッキャと逃げ回る絢金。
土和も「とわも、ぺったんするー!」と楽しそうに庭を走り回っている。
そんな中、僕と月菜は庭の隅で一本の羽子板を挟んで向き合っていた。
「……誠、手加減はいらないわよ。私はこう見えても運動神経には自信があるんだから」
「はは、分かったよ月菜。じゃあ、負けた方は『勝った方の言うことを何でもひとつ聞く』……これでどう?」
僕が提案すると、月菜の瞳が跳ね上がった。
「なっ……何でもひとつ!? ……ふ、ふん! いいわよ、受けて立つわ! 私が勝ったら……誠に一日中私に甘えさせてあげるんだから!」
「それ、月菜のご褒美になってない?」
「う、ウルサイわねっ! 行くわよっ!」
カーン! と快音を立てて羽が舞い上がる。
白熱するラリー。右へ左へとしなやかに舞う月菜の晴れ着姿は、まるで冬の空に咲いた可憐な花びらのようだった。
「これで……終わりよっ!」
月菜が力強く振り下ろしたショットが、僕の足元すれすれを抜けていく。
「あっ……!」
「やった……! 私の勝ちよ、誠!」
跳び上がって喜ぶ月菜。
息を弾ませ、頬を桜色に染めて勝利を誇る彼女の姿に、僕は負けた悔しさなど吹き飛んで、ただただ見とれてしまっていた。
◇
羽子板大会を終え、夕暮れ時のぽかぽかとしたリビング。
「ふぅ〜! 遊んだらお腹空いちゃった〜! 誠お兄ちゃん、何か甘いものないの〜?」
灯華がこたつに倒れ込みながらお腹をさする。
「ふふ、任せて! 余ったお餅を使った、冷めても固くならない特製の『サクサクモチモチ揚げ餅きな粉』を用意してあるよ!」
僕がキッチンから揚げたてのお餅に香ばしいきな粉と黒蜜をたっぷりかけたお皿を運んでくると、姉妹たちから歓喜の悲鳴が上がった。
「「「「「「「美味しそ〜〜〜〜っ!!!!」」」」」」」
「サックサクで、中がトロ〜リ……! きな粉の香ばしさと黒蜜の甘さがたまらないわ〜!」
陽葵さんがお口いっぱいに頬張り、うっとりと目を細める。
「……揚げたお餅に黒蜜。最高のエネルギー補給です」
水樹も静かに目を輝かせ、絢金も「おかわりー!」と大はしゃぎだ。
賑やかな歓声が響く中、月菜がそっと僕の隣へ腰掛けた。
「……誠」
「ん? 月菜、お餅美味しい?」
「ええ……すごく美味しいわ。……それと、さっきの羽子板の『勝者の権利』……今、使ってもいいかしら?」
月菜は周りの妹たちが『スペオペ』の再放送に夢中になっているのを確認すると、こたつの下で僕の手をギュッと強く握りしめ、耳元に顔を近づけてきた。
「……今夜、みんなが寝静まったら……私の部屋に来て?」
「え……?」
「二人きりで……もっと、お話ししたいの……。……ダメ……?」
上目遣いで、赤面しながらおねだりしてくる僕の恋人。
その甘すぎるお願いに、僕の胸は爆発しそうなほどの高揚感で満たされたのだった。
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【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 52】
『余ったお餅のリメイク!冷めても固くならない&外サクサク中トロ〜リ「低温揚げ餅」ハック』
お正月に余りがちな「切り餅」。普通に焼くだけだと飽きてしまったり、時間が経つと固くなってしまいませんか?
スナック感覚で食べられる絶品&冷めても柔らかい裏ワザをご紹介します!
① 切り餅を一口サイズのサイコロ状に細かく切る!
② 160度の「低温の油」で、ゆっくり時間をかけて揚げる!
★高温で揚げると急激に膨らんで油跳ねの原因になりますが、低温でじっくり揚げることで外側が綺麗なキツネ色のサクサク衣になります!
③ ぷっくり膨らんで油の上に浮かんできたら油を切り、温かいうちに「きな粉+砂糖+塩ひとつまみ」または「醤油+砂糖」を絡める!
★ここがポイント!:油で表面をコーティングすることで中の水分が逃げず、冷めてもモチモチ食感が長持ちします! おやつやおつまみに最高ですよ!




