第50話:静寂の境内に、二人の初祈願
「「「あけましておめでとうーーーっ!!!!」」」
新年のカウントダウンとともに、リビング中に弾けた歓声とクラッカーの音。
彩咲家のこたつを囲み、賑やかな乾杯と『スペオペ』最終回の余韻に浸る姉妹たちの笑顔が、温かな部屋の明かりに照らされていた。
「ふぅ〜! 新しい年が来ちゃったね〜! 誠くん、今年も彩咲家をよろしくね〜!」
長女の彩咲陽葵さんが、胸元のゆるいニット姿でぽわんと微笑み、みかんを手に持ちながら乾杯の音頭を取る。
「はい! 陽葵さん、今年も全力でお世話させていただきます!」
僕——浅比 誠が笑顔で答えると、三女の彩咲灯華と六女の彩咲絢金が、こたつの中で足をバタバタさせて盛り上がった。
「アタシ、初夢で『スペオペ』の3号機シアンちゃんと共演する夢見たいな〜!」
「ウチは絶対、誠お兄ちゃんが特大お肉焼いてくれる夢見るー!」
「……初夢は元旦の夜に見るものです。ですが、気持ちは分かります」
四女の彩咲水樹が静かに突っ込みを入れ、五女の彩咲木乃香が手帳を閉じながらクスリと笑った。
そんな賑やかな喧騒の中、僕の隣に座っていた彩咲月菜が、こたつの下でそっと僕の足に自分の爪先を擦りつけてきた。
(……誠、そろそろ……)
視線だけで送られてくる、秘密のサイン。
私服の上にシックなコートを羽織り、パステルブルーのマフラーを首元に巻いた月菜の頬は、ほんのり桃色に染まっている。
僕は立ち上がり、コップを片付けながら自然な動作で声をかけた。
「あ、みんな。ちょっと近所の地神社まで、代表して初詣の様子を見に行ってくるね。混み具合を見て、明日の昼間にみんなで行く時の参考にしようと思うんだ」
「え〜? 誠お兄ちゃん、もう行くの〜? 寒くない〜?」
「ふふ、大丈夫だよ。あ、月菜も荷物持ちでついてきてくれる?」
「ええ……。長女と次女の代表として、お姉ちゃんの代わりに私がついていくわ。……陽葵お姉ちゃん、いいかしら?」
月菜が上品な仕草で陽葵さんを見つめると、陽葵さんは全てをお見通しのような、どこか深みのある優しい笑顔を咲かせた。
「ふふ……ええ、もちろんよ〜。寒そうだから、二人ともしっかり手を取り合って……風邪引かないように行ってらっしゃいね〜」
「「っ……!?」」
一瞬ドクンと心臓が跳ね上がったが、僕と月菜は慌ててお辞儀をして玄関へと向かった。
◇
ギシ……と静かな夜の冷気が、玄関のドアを開けた瞬間にはだかってくる。
「ふぅ……! 寒い……っ!」
「静かに、月菜。妹たちに気づかれちゃうよ」
カチャリと鍵を閉め、屋敷の門を出た瞬間、僕たちは顔を見合わせて小さく吐息を漏らした。
静まり返った新年の街並み。
街灯の明かりが、しんしんと降り積もる冬の冷気を淡く照らし出している。
「……ふふ」
「ん? 月菜、どうしたの?」
隣を歩く月菜が、マフラーに口元を埋めながらクスッと可憐に笑った。
「ううん……なんだか、本当に『内緒のデート』みたいだなって思って……。……ほら、手」
月菜はコートのポケットから手を取り出すと、自分から僕の右手に自分の左手をギュッと重ね合わせてきた。
指と指が絡み合う『恋人繋ぎ』。
冷え切っていた空気が一瞬で吹き飛ぶほど、手のひらから伝わる熱が僕の全身を駆け巡った。
「月菜……自分から手を繋いでくれるなんて、珍しいね」
「っ……! な、何よっ! 約束したでしょ!? 『二人きりの時は甘える』って……っ! 私なりに一生懸命頑張ってるんだから、からかわないでよ……バカ誠……っ!」
真っ赤になって照れる月菜。
そのツンとした表情の中にある、溢れんばかりの愛おしさに胸が締め付けられる。
「ごめんごめん。……すっごく嬉しいよ、月菜」
「……本当……? ……なら、いいけど……」
繋いだ手に少しだけギュッと力を込め、僕たちは深夜の参道へと歩みを進めた。
◇
徒歩十数分。小高い丘の上に鎮座する境内に到着すると、境内はかがり火の赤い炎と、初詣客の静かな賑わいに包まれていた。
「わあ……すごい綺麗……。かがり火の光が、雪に反射して幻想的ね……」
月菜が目を輝かせて境内を見渡す。
僕たちは手水舎で清めた後、拝殿の前へと向かった。
賽銭箱にお賽銭を投げ入れ、カラコロと鈴を鳴らす。
二礼、二拍手、一礼——。
隣で月菜が静かに目を閉じ、長いまつ毛を揺らしながら真剣にお祈りを捧げている。
その横顔は、神聖な神社の境内に咲いた一輪の美しい花のように儚く、そして美しかった。
(僕のお願いごとは……ひとつだけだ)
『彩咲家のみんなが、今年も一年、笑顔で幸せに過ごせますように。……そして、僕の隣にいる月菜と、ずっと一緒にいられますように』
深く頭を下げ、お祈りを終えて目を開けると、月菜もパッと目を開けて僕を見つめていた。
「月菜、何をお願いしたの?」
「えっ……? そ、それは……言ったら叶わなくなっちゃうでしょっ……!」
顔を赤くして目を泳がせる月菜。けれど、彼女の視線はまっすぐに僕の瞳をとらえていた。
「でも……半分だけ教えてあげるわ。……『今年も誠の美味しいご飯がたくさん食べられますように』って……お願いしたの」
「はは、それなら神様にお願いしなくても、僕が毎日いくらでも作るよ」
「……もう、そういうところよ、誠」
月菜は呆れたように息を吐いたが、その瞳には甘い熱が籠もっていた。
ふと、境内のかがり火から離れた大きな御神木の陰へ、月菜が僕の手を引いて歩き出した。
「月菜……? こっちは暗いよ?」
御神木の太い幹の陰に入ると、周りの喧騒が遠のき、二人だけの静寂が訪れた。
月菜はくるりと振り返り、僕のコートの胸元をキュッと両手で掴んだ。
「誠……」
「月菜……?」
「あのね……本当のお願いごとは……『ずっと、誠の特別な一人でいられますように』って……祈ったの……っ」
震える声で紡がれた、月菜の本音。
マフラーの隙間から覗く真っ赤な頬と、潤んだ瞳。
「お世話係と令嬢じゃなくて……妹たちのお姉ちゃんとしてじゃなくて……ただの『月菜』として……誠に愛されたい……っ」
(……だめだ、もう我慢できない……!)
胸の奥から溢れ出す愛おしさが爆発し、僕は月菜の華奢な腰を抱き寄せ、その柔らかい唇へそっと自分の唇を重ね合わせた。
「ん……っ!?」
冷えた夜空の下で重ね合わされた、甘く温かな感触。
か細い悲鳴を上げた月菜だったが、すぐに僕の首に細い腕を回し、身を委ねるように背中を預けてきた。
かがり火の揺らめく光が、御神木の陰で静かに重なり合う二人の影を優しく照らし出す。
「……んっ……ふぁ……っ」
ゆっくりと唇を離すと、月菜は顔を真っ赤にして息を荒げ、僕の胸に顔を埋めた。
「……バカ……。こんなところで……急にキスするなんて……っ」
「ごめん……月菜が可愛すぎて、止められなかった」
「っ〜〜〜〜っ! 恥ずかしすぎて爆発しそう……っ!」
胸をぽかぽかと叩いてくる月菜。
けれど、その表情は心底幸せそうで、僕の手を二度と離さないと言わんばかりに固く握りしめていた。
「月菜……あけましておめでとう。今年も、ずっと君の側にいるよ」
「……うん……っ! あけましておめでとう……誠……! 私を……ずっと離さないでね……っ!」
新年の夜空に、二人の密やかな誓いが優しく溶けていく。
壊滅寸前だったあの屋敷から始まった僕たちの物語は、新しい年の始まりとともに、より深く、甘く、揺るぎない絆となって、未来へと紡がれていくのだった。
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【本日のお世話係メモ:家庭で役立つ豆知識 50】
『初詣の寒さ対策!「使い捨てカイロ」を貼るべき「神スポット」3選!』
新年の初詣や冬のお出かけ、カイロをどこに貼れば一番身体が温まるか知っていますか?
「ただポケットに入れるだけ」よりも効果が何倍も跳ね上がる、医学的にも理にかなった「神スポット」をご紹介します!
① 『風門』(首の後ろ・背中の上部):肩甲骨の間に貼ることで、全身へ繋がる太い血管が温まり、上半身全体がポカポカになります!
② 『命門』(腰の中央・おへその真裏):内臓の冷えを防ぎ、寒さによる腰痛や下半身の冷えを劇的に改善します!
③ 『気海』(おへそから指2本分下):全身の血流を促進し、冷え性予防に最高の効果を発揮します!
★注意点:肌に直接貼らず、必ず衣類の上から貼り、低温火傷に注意してくださいね!
これで極寒の初詣も暖かく快適に過ごせますよ!




